怒髪天@SHIBUYA-AX

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『オールスター男呼唄 秋の大感謝祭 -愛されたくて…四半世紀-』と銘打たれた、バンド結成25周年記念ライブ。だったのだが、ゲストの1人、ビークルヒダカは、「お客さん、怒髪天のライブに来てるんですよ? これ、詐欺ですよね!」と、何度も言っていた。
というのはですね。アンコールまで含めて全14曲中、増子直純が歌ったのはわずか3曲だったのです。他はみんなゲスト。曰く、ゲストをあちこちにいっぱいオファーした段階では、「この曲はドラムがゲスト、他は怒髪天のメンバー」「この曲はギターがゲスト」みたいにしようと思っていたんだけど、予想以上にみんな参加してくれたため、自分たちの出番がどんどんなくなったそうです。
なんじゃそれは。という気がしないでもないが、以下、どんなことが行われたかを、曲順に沿ってレポートしていきます。

まず。ステージ右には司会席があり、怒髪天の4人と司会=ロマンポルシェ。の2人がそこにはりつき。左には『ザ・ベストテン』を模したミラーゲートがあって、掟ポルシェの呼び込みでそこからゲストが登場し、1曲やって、司会席に来てトーク。という順で進んでいく構成でした。
なお、司会がいるのに増子さんがゲストとしゃべってしまうため、掟ポルシェは次のバンドのセッティングが終わると「はい、ありがとうございました!」とトークを強引に終わらせ、次のバンドをコールする、という役割に徹していました。
ロマン優光はあからさまにやることがない感じで、気の毒でした。
なお、当然ですが、曲はすべて怒髪天のカヴァー。


1 JAPAN-狂撃-SPECIAL+暴動(グループ魂)“欠けたパーツの歌”

2008年6月に埼玉県秩父で行われたグループ魂の野外イベント、『グループ魂の秩父ぱつんぱつんフェスティバル』で共演したのが、くるうと怒髪天の縁だそうです。暴動は、昨年末のCOUNTDOWN JAPAN幕張で、「俺たち中年ディスコ隊」として一緒にDJをやるなど、増子直純と仲いいのはよく知られてますね。
それはいいんですが。これ、くるうには何の責任もありませんが、その、くるうに加わってギターを弾く暴動のヘアスタイルが、ついこないだまでやっていた大人計画の公演『サッちゃんの明日』(作・演出松尾スズキ)に出演していた時のまんまだった。
って、別にいいじゃないか。いや、いいんだけど、その芝居を観たせいで、その時の彼の役=詐欺師でクスリの売人のチンピラが、ギターを弾いているようにしか見えなくて、ちょっと困りました。


2 SCOOBIE DO“ドンマイ・ビート”

「怒髪天で一番ファンキーな曲を」(コヤマシュウ)と、スクービはこの曲をセレクト。コヤマシュウ、「ドンマイ」と書かれたプラカードを振り回してフロアを大いにアゲる。演奏後のトークで、怒髪天の上原子友康とスクービのマツキタイジロウ、ギタリスト同士で誉め合いになった瞬間に掟ポルシェ、「はい、誉め合ってるとこですがセッティングできました!」と絶妙なタイミングで話の腰をへし折る。さすがだなあと思いました。


3 フラワーカンパニーズ+奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)“全人類肯定曲”

後半のMCで、出てくれたゲストたちに感謝の気持ちを言葉にしていた増子直純だったが、スクービとフラカンだけは「そりゃ出てくれるでしょ」「もし出てくれなかったら(今後の付き合いを)考えるとこだった」とおっしゃっていました。そんなフラカンは、奥野真哉の華やかな鍵盤と共に、この曲をプレイ。圭介、出てくるなり「高い!」とマイクスタンドを低く下げ、小さな笑いをとる。その後のトークによると、この曲、フラカンの“深夜高速”を聴いて感動した増子直純が、「よし、俺も生きることとかの歌を作ろう」と思って書いたんだけど、妙に楽しい曲になってしまったそうです。


4 桃野陽介(monobright)+上原子友康(怒髪天)+ウエノコウジ(the HIATUS)+クハラカズユキ(The Birthday)“宿六小唄”

このへんからこのライブ、「ここでしか観れない組み合わせのメンツがここでしかやらない曲をやる」超レア・ゾーンに突入。にしても、ウエノコウジとキュウちゃんのリズム隊って! 珍しくハンドマイクで歌う桃野はガチガチ、手の甲に歌詞を書いていたにもかかわらず、間違える。まあ、無理もない。でも、実はウエノくんもガチガチだったらしく、演奏後のトークで増子に「おまえ、『畜生!』(という曲中のコーラス、というかかけ声)言わなかったじゃねえか」とつっこまれ、「そうなんです。昨日練習しながら、それは絶対言うぞ言うぞって思ってたんですけど、すっごい緊張して、忘れちゃって……今度の怒髪天のライブで俺、ベース弾きます、そこで言わせてください!」などと口走り、大ウケ。


5 大木温之(Theピーズ)+トモフスキー+上原子友康(怒髪天)+カタル&ナボ(ニューロティカ)“ビール・オア・ダイ”
最初のMCから、「楽屋が開演前から大宴会状態になってる」「オヤジくさい」「お父さんの臭いがたちこめている」などとみんなが口々に言っていたが、超満員のAXのオーディエンスは全員、この、再来月44歳になる、成田出身の、酔っぱらった双子の登場で「……ほんとだ」と思い知ったのだった。
「俺ら焼酎か日本酒しか飲まねえけど、今日はこの歌を」(はる)と、2人で大はしゃぎ&大暴れしながら“ビール・オア・ダイ”を披露。トモはあるけど、はるの楽器なし&ハンドマイクというのは、考えたらとてもレア。
ただし、曲後半の間奏で、2人で腕を組んでくるくる回って大ウケしてたけど、酔った勢いでやったのではなく、ちゃんと「曲のここでこうやって回ろう」って決めてあった感じだったのが、好感が持てました。


6 増子直純&上原子友康(怒髪天)+渡邉龍一(DMBQ)+楠部真也(RADIO CAROLINE)+セイジ(ギターウルフ)“不惑 in Life”

ここでようやく、今日初めて増子直純、歌う。プラス、何よりも、「人のバックで弾くセイジさん」「人の曲を弾くセイジさん」というのがすっごいレア。あ、人の曲は、MC5やキャロルのカヴァーやってるか、ギターウルフで。でもとにかく貴重な画で、かつ傍若無人なギターがやっぱりすげえかっこよくて、AX全体が明らかに「うわあ、めったに観れないもん観てるわ」という空気になる。
ただ、終わったあとのトークで、セイジさん、さんざんいじられてました。曰く、「前もってリハやったんだけど、セイジさん、2回通して演奏したと思ったら『帰ります!』って帰った」「しかもその2回のうち1回は弦が切れてた」「この曲、そもそもレコーディングにもセイジさんに参加してもらったからお願いしたんだけど、その怒髪天の音源を聴いてセイジさん、『……このギター、俺に似てるねえ。シャウトも俺みたいだねえ』って、完全に忘れてた」。
とにかく、カリスマだと思いました。


7 梶芽衣子+怒髪天(-増子直純)“うたのうた”

あの、女優の、梶芽衣子です。会場中、「梶芽衣子の歌を聴ける」という以前に「生身の梶芽衣子が目の前にいる」という事実に唖然。でもご本人は至って気さくに、「ほんとは“唐獅子牡丹”歌いたかったんだけど、でも怒髪天の記念ライブなんだから、怒髪天の曲歌わなくちゃ! と思って」と、“うたのうた”を朗々と歌う。怒髪天の曲って昭和歌謡っぽいとこがあるので、妙にマッチしていました。
怒髪天と同じレコード会社の所属で、今年25年ぶりにシングルを出して、その関係で雑誌で対談したところ意気投合し、この日の出演に結びついたそうです。とりあえず、タランティーノが観たら、歓喜のあまり発狂したと思う。


8 斉藤和義+上原子友康(怒髪天)“なんかイイな”

これは2人でアコースティック・ギター弾き語り。斉藤和義の、あの、のんきで孤独でちょっとくぐもった声で歌われるこの曲、大変によい。いいなあ。こんなにいい歌だったっけ。とか思いながら聴いていたら、増子本人も同じことを思ったらしく、歌が終わったところで「俺、もうこの曲歌わない! 斉藤くんにあげる!」と宣言。一同大笑い。でも、こんなクサいまでに素朴な人間賛歌を、聴き手に「そうだよな」と思わせてしまうマジックにおいては、増子直純の歌もひけをとらないと思います。


9 BEAT CRUSADERS+吉村秀樹(bloodthirsty buthchers)“酒燃料爆進曲”

おなじみのこの組み合わせ、吉村秀樹は一升瓶を振り回しながら登場、はる&トモ以上の泥酔状態。撮影の関係上か、ビークル全員、お面をかぶったままのプレイでした。ちなみにカトウタロウは、この秋のツアーから、AC/DCアンガス・ヤングのコスプレからエディ・ヴァン・ヘイレンのコスプレにスイッチ。
あと、ケイタイモ、キーボードの前でクネクネ踊ってるだけで、とうとう最後まで一回も弾かなかったよなあ、と思いながら観ていたら、トークで増子に「何にもしてないよね? 奥野のキーボードの前にいただけだよね」と、しっかりつっこまれていました。


10 TOSHI-LOW(BRAHMAN)+菅波栄純(THE BACK HORN)+上田ケンジ+武藤昭平(勝手にしやがれ)

現在さまざまなバンドを手がけるプロデューサーであり「札幌の首領」、上田ケンジがベースを弾く(そういえばこの次に出たthe pillowsのメンバーでもあった人だ)、というのもレア、そしてそこに武藤昭平と栄純が加わっているのもレア。
しかし、なんといってもTOSHI-LOW。演奏が始まったら、ミラーゲート側ではなく司会者席側から登場。しかも、横山やすしのコスプレ(最近ではユニコーンがやっていたあれね)。TOSHI-LOWがだよ? まさかあのTOSHI-LOWがそんなことするとは誰も思わないであろう上に、サングラスをかけていたため、お客の大半が彼だとわからず、当分の間「……誰? あれ。ザワザワザワ」状態。でも、サビにさしかかり歌のテンションが上がるとTOSHI-LOWのあのボーカリゼイションになり、「……もしかして。嘘? でも、まさか……」みたいな空気になったところで、間奏でサングラスを栄純にかけ、帽子を武藤昭平にかぶせて素顔を出し、フロア「うわああああ!」と大爆発。
TOSHI-LOWさん、楽しげに後半も歌いきったと思ったら、トークなしでサッと帰っていきました。正に今日、BRAHMANはNO USE FOR A NAMEの来日公演のゲストで赤坂BLITZに出演、その出番が終わってからタクシーでかけつけたそうです。


11 the pillows“小さな約束”

そして札幌時代の盟友、the pillows。が、山中さわお、はる&トモ、吉村秀樹に勝るとも劣らない酔っぱらいぶりで、出てくるなり歌いもせずに「掟ポルシェ! 7年前、中野の同じマンションに住んでた!」と暴露。掟「え? マジですか?」山中「そう、でも最初は自信なかったんだよ。『掟ポルシェかなあ』と思うんだけど、髪縛ってて、タンクトップに短パンだったから。でもある日、白ランで廊下歩いてるとこを見て、『間違いない!』って」。
場内爆笑。掟「ロマンポルシェ。のジャケット、あのマンションの屋上で撮ったんですよ」山中「pillowsのベスト盤もそうだよ!」、とここで増子が「俺らは全然関係ない共通の話題、ありがとう」とさえぎり、曲へ。
と思ったら山中さわお、まだ一人でしゃべり始める。しかし、途中で「あれ? 薄々気づいてたんだけど、もしかしてロレツ回ってない?」と発言。また場内爆笑。大丈夫かなこの人、と思ったが、あんな状態でも歌って歌えるんだなあ、というくらい、いい歌でした。曲の魅力が倍掛けになっていた。


12 氣志團“愛の嵐”

これもまさかの超豪華ゲスト、出てくるなりフロア阿鼻叫喚。で、この曲を選ぶってとこも氣志團っぽい。で、歌い終わったと思ったら團長が「最後は怒髪天じゃないと!」みたいなことを叫び、トークなしでそのまま、


13 怒髪天“サスパズレ”

ヘ、突入。ここまでのゲストもほぼ全員登場、大変なお祭りムードの中、全編が終了しました。


アンコール
14“美学”

客電が点いてアナウンスが流れも誰も帰らず、手拍子も止まず、急遽予定外のアンコールを怒髪天4人で行う。途中で増子、感極まって「ダメだ!……いや、泣いてる場合じゃない!」と絶叫するも、もう大決壊、最後まで泣きながら歌い続ける。最後にはまたゲストみんな出てきて、メンバーを順番に胴上げ。2時間40分に及ぶ(でも曲数は13曲)ライブは、幕を閉じた。


25周年で、トリビュート・アルバムっていうのも考えたけど、どうせだったらみんなが実際に観れたほうが面白いから、こういう企画にした。と、増子直純は言っていたが、それにしても、レアにもほどがあるイベントだった。
普通できない、こんなこと。それぞれが、たった1曲のために曲を覚えてリハーサルしなきゃいけないし、スクービ・pillows・氣志團以外はメンバー以外の人も入ってるか、まったくこのためだけに集まったセッション・バンドかのどっちかだから、少なくともリハと本番の2回、全員のスケジュールを合わせなきゃいけない。
なお、最初のトークで明かされていたけど、ギャラは、一律1万円だったそうです。1人1万円だったか1バンド1万円だったか忘れたが、いずれにしても手間ヒマを考えると、「いらねえよそんなはした金」レベルの話だ。

あと、別の場所で本番やってかけつけたTOSHI-LOW以外も、相当無理して集まったと思う。フラカンは翌日と翌々日に札幌でワンマンだし、それ以外も、僕がパッと見てわかっただけでも、スクービ、ピーズ、バースディ、斉藤和義、ビークルは、今正にツアーまっさいちゅうです。明らかに、無理しないと来れなかったはずだ。

じゃあなんでこれだけ集まったのか。増子直純という人の人徳だ。というのは誰が見ても明らかだけど、ちょっとそこを考えたい。つまり「そんな人徳って、一体どんな人徳なのか」ということを、つっこんで考えてみたいわけです。なお、僕は増子直純さんとは面識ないし、会ったこともない。ライブとCDでしか知りません。なので、以下は100%、個人的な私観です。

まず、その人徳、ものすごい尊敬されているとか、カリスマ視されているとか、そういう類いのものではない気がする。いや、尊敬はされているだろうけど、「絶対的な先輩」みたいな感じじゃない。で、「断ると大変」とか「あとあとめんどくさい」とか、そういう「怖い」方面のそれでもないと思う。
じゃあどんな人徳なのか。なんというか、「盛り立てたい」と思わせる人徳なのではないだろうか、この人の場合。「ここで俺らがかけつけたら、増子さんの株上がるだろうな」「ファンみんな増子さんに感謝するだろうな」「業界とかも『増子直純ってすごいんだ』とか思うだろうな」「じゃあ行こう」「集まろう」みたいな、そういう感じなのではないかと。何の根拠もないが、観ていてなんだかとてもそう感じた。
要は愛されてるってことなんだけど、情けなさやダメさも含めて愛されているし、かといってバカにされてるわけじゃなくて、ちゃんと尊敬もされている、というような。「尊敬」と「愛される」と「相手が後輩でもかわいがられる」を、いっぺんに身にまとっている感じというか。
そういう人徳って稀だなあ。と、改めて思った一夜でした。

あと、もうひとつだけ。AXのロビーの一番いい位置に、桃屋「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が、どーんと展示してありました。(兵庫慎司)
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