木下「えーと……(宇野に)なんか話せば?」
宇野「えー、今日は『14SOULS』ツアー・ファイナルにこんなにたくさんお越しいただいてありがとうございます」
木下「……」
宇野「……」
観客「(くすくす含み笑い)」
木下「……ファイナルってこんなにやりにくかったっけかな?(笑)」
これは、9月30日から全国23本にわたって行われてきたART-SCHOOLの『14SOULS TOUR2009』のれっきとしたファイナル=赤坂BLITZワンマン公演中の最初のMCで、木下理樹(Vo・G)と宇野剛史(B)の間で交わされた会話だ。“14souls”“ローラーコースター”“HEAVEN'S SIGN”“CATHOLIC BOY”など、最新アルバム『14SOULS』からの楽曲を序盤戦から積極的に織り込んだセットリストも、ロックとしての強度を格段に増したバンド・サウンドもいちいち最高だった。が、MCになった途端に上記の有様である。が、別に「だからダメ」ではない。逆に、いわゆるエンターテインメントとしての他所行きの「交流」とか「共有」とかではなく、あくまで楽曲でオーディエンスとの秘めやかな関係性を確かめ合おうとするART-SCHOOLというバンドだからこそ、その本質がツアー・ファイナルという場で浮かび上がった貴重な瞬間だったとも言える。とはいえ、次のMCでの……
木下「(宇野に)もっとお客さんとコミュニケーションとらないとダメだよ」
宇野「シーンとしてますけど」
木下「しょうがないよ、俺たち鬱バンドだもん。お客さんも鬱なんだよ(笑)」
宇野「今日でツアーも終わってしまうので、また鬱な日が……」
木下「……」
宇野「……」
木下「そこは逆にネガティヴ・パワーっつうか……生き抜いてってほしいよね」
……という会話には、さすがに苦笑するしかなかったが。
「00年代内省型シューゲイザー・ギター・ロックの代表格」と評されることの多いART-SCHOOLではあるが、特に今年、バンド最年長だったドラマー=櫻井雄一から最年少となる新ドラマー=鈴木浩之へ交代したことによって、そのバンド・サウンドの構造は明らかに変わった。グランジの鋭利さとひりひり肌を刺すような痛みから、ロックンロールのダイナミックさへ。聴く者の鼓膜にギターで斬り込むスタイルから、ビートとグルーヴで揺さぶるスタイルへ……もう何度もライヴで観ているはずの“水の中のナイフ”にはプライマル・スクリームのような肉体性を感じたし、暴力的な福音とでも言うしかない“HEAVEN'S SIGN”の壮大なスケールのアンサンブルも、“LOVERS LOVER”の16ビート・ファンク調のリズムも、鈴木のドラムを軸にパワフルかつしなやかなロックンロールとして炸裂していた。
“Grace note”では戸高(G)がヴォーカルをとってみせた後、“wish you were here”の疾走ディスコ・ファンクと“LILY”のヘヴィなギター・アンサンブルとタイトなタム回しでフロアの温度が上がったところに「まだまだいきますよ暗い曲!」という理樹の言葉から“LOVE/HATE”へと雪崩れ込み、挙げ句に理樹の「ツアー、楽しくなかったよ(笑)。『ツアー楽しい』なんていうバンド、やだよ! (ART-SCHOOLは)楽しい音楽じゃないからさ……楽しいもんではないじゃない?」(木下)、「ま、僕は楽しかったけど」(宇野)という衝撃(?)のMCまで飛び出し……あらゆる意味でART-SCHOOLならではの、というかART-SCHOOL以外にはあり得ない緊張の瞬間の連続だった。それでも(いや「だからこそ」か)、ド派手なシーケンスが鳴り響くART-SCHOOL流エレクトロ・ロック“STAY BEAUTIFUL”以降の終盤戦でステージを見つめるオーディエンスの視線は1曲ごとに熱気を増していたし、“ロリータ キルズ ミー”の強烈なスピード感にはたまらずフロアから拳が突き上がったし、本編ラストの“FADE TO BLACK”の核爆発のように真っ白に弾けたサウンドスケープには会場全体が絶頂感に包まれていた。
いったん退場後、アンコールで再びステージに登場した4人。「何か話しようかな?」と理樹。注目するオーディエンス。しかし、続く言葉は「……Wiiマリオ買ったんですよ」。すかさず宇野が「(木下に)マリオに出てるよね? キャラクターで」と突っ込む。「……あの、キノコみたいなの?」と理樹。ようやく、魔法がとけたようなホッとした笑いがフロアに広がる。そこへ広がる“tonight is the night”の理樹&戸高の音響ギター! “foolish”の大爆走ビート! そして必殺アンセム“あと10秒で”が、会場一丸の高らかな手拍子とともに、彼らの3ヵ月感の健闘を称える凱歌のように高らかに鳴り響いた。
木下「今日は親密なライヴだと、さっき感じました。そう思わない?」
宇野「そう思いますね」
木下「僕らの音楽は突き放した感じだけど、こういう親密な感じも悪くないと……」
十二分に緊迫感に満ちたこの日のアクトを、2度目のアンコールでこう振り返っていた彼ら。僕らの心と感情の危うさをよりいっそうリアルに描くために、なおも強度と輝度を増すART-SCHOOLの音楽。その場限りの高揚感や祝祭感とは一線を画す「共犯関係としてのロック」が、今年最後のワンマンの場でこの上なく鮮やかに咲き乱れていた。(高橋智樹)
ART-SCHOOL @ 赤坂BLITZ
2009.12.10