いわゆるロック系のライブを観ることの多い(というか普段ほぼそれしか観る機会のない)筆者のような人間にとって、この場所を「コンサート=晴れの場」と位置づけているであろう年配の紳士淑女の方々だったり、「至上のダンス・パーティー」と位置づけているに違いない気合いの入ったドレス姿のオネエサマたちであったり、「洋楽レジェンドの貴重な音楽体験」を一滴残さず堪能しにきたと思しき洒落っ気の乏しいオジサマやオニイサマたちであったり……といった人々が総勢5000人入り乱れたこの日の国際フォーラムは実に新鮮な場だった。が、19:10に開演した瞬間、そんな個々の理由づけは関係なく、平均年齢高めとお見受けする方々が1人残らず手を叩き腰を揺らし歓声を上げる一大ダンス・フロアと化してしまう。無理もない。アース・ウィンド&ファイアーだし。本物だし。2006年1月以来、約4年ぶりの来日だし。
もちろん前回の来日同様、2004年をもって正式に引退したモーリス・ホワイトの姿はそこにはない。代わりにEW&Fの顔となったフィリップ・ベイリー(Vo・Perc)、そしてラルフ・ジョンソン(Vo・Perc)、モーリスの弟ヴァーダイン・ホワイト(B)と、オリジナル・メンバーは3人しかいない。が、もう1人のVo・Perc=デヴィッド・ウィットワースはじめドラム/ベース/ギター2本/キーボード/ホーン・セクションとサポート・メンバーを擁して総勢11人の布陣でステージに臨んだEW&Fのクリアで豪華なサウンドには、聴き手を飽きさせる要素は1mmだってない。もはやメンバー個々の意志やキャリア云々よりも、EW&Fという音楽が大きくなってしまった……言い換えれば、40年がかりで練り上げられたEW&Fという名の壮大なミュージカルの最新形にして究極形が、本人たちの手によってこの上なく華やかに展開されていくような、不思議な感覚だった。明日もここ国際フォーラムでコンサートがあるし、まだ札幌&福岡公演も残っているのでセットリストは割愛するが、アンコールなし・2時間弱のこの日のメニューは先日行われた大阪公演×2とまったく同じ。おそらくはこのツアーのために「ミュージカル共同体=EW&F」が組み上げた鉄壁のリストなのだろう。
「セットリストは割愛」とはいっても、特に新作タイミングのツアーでもないので、曲目は見事に「誰でも知ってるEW&F」そのものだ。そりゃ“ブギー・ワンダーランド”やるさ。“レッツ・グルーヴ”やるさ。“セプテンバー”も“宇宙のファンタジー”もやるさ。どちらかといえば選曲的には2007年のトリビュート・アルバム『セプテンバー(原題『Interpretations』)に近いかもしれないが、現時点での最新作『イルミネーション』から見事に1曲もやってなかったのは笑えた。そして、とにかく全編にわたってメンバー全員腰をスウィングさせながら超絶テクニックでもって歌い、弾き、叩きまくる。さらに、御歳58歳のフィリップ・ベイリーのファルセットが冴える冴える。マイクを口から思いっきり離してもなお国際フォーラムの隅々まで届く声量! そして、特に“リーズン”の転調に次ぐ転調で絶頂へ昇り詰めた果てに聴かせた、トランペットかと思うような壮絶なファルセットの咆哮! 割れんばかりの大歓声が巨大な会場に響き渡る。後ノリ型のフェイクを駆使したフィリップの歌い方には、“宇宙のファンタジー”などでは「もっとリズムにジャストで歌ってくれたら気持ちいいのになあ」と感じる瞬間もあったが、それだってこの日のステージの価値を損なうものではまったくない。
ソウルとファンクとワールド・ミュージックとエレクトロニック・ミュージックの接点から壮麗な大輪の花を咲かせてきたEW&F。人間はどこまで「神秘」に手が伸ばせるか……その一点にすべてのエネルギーを注ぎ込んでいくかのようなストイックな音楽世界。発信者のエゴや内省でがんじがらめになった21世紀のポップ・ミュージックを鮮やかに批評するかのように、その鉄壁のアートフォームは至って軽やかに、ゴージャスに、圧倒的に美しく響いていた。(高橋智樹)
アース・ウィンド&ファイアー @ 東京国際フォーラム ホールA
2009.12.11