昨年1月にiTunesの独占販売でデジタル・リリースした2ndアルバム『ユニオン』が本国イギリスのiTunesオルタナティブ・チャートで2位(iTunes総合チャート4位)、アメリカのiTunesオルタナティブ・チャートで見事1位を獲得したザ・ボクサー・リベリオン。過去にはアラン・マッギーのレーベル<ポップトーンズ>と契約していたこともあるという彼らだが、すでに<ポップトーンズ>自体がなくなり、別のレーベルと新たに契約することにもあまり気が乗らないという姿勢もあって、『ユニオン』は7月に日本で世界初CD化されるまでフィジカル盤が存在しないという状態が続いていた(イギリスとカナダではその後HMVと提携して9月にCDリリースされた。HMVがこうした種類の提携を行うのは初めてだという)。
そんな『ユニオン』を携えてやって来たボクサー・リベリオンの来日ツアーは、今夜の代官山UNITと明日の大阪・心斎橋somaの2公演。4人のメンバーがステージに登場すると、剃刀の広告から出てきたみたいな好青年のネイサン(Vo/G)と伸ばしっぱなしの髪に無精髭のトッド(G)の好対照が目を引く。2人はそれぞれアメリカとオーストラリアの出身で、母の死をきっかけにロンドンに移住したネイサンがインターネットの掲示板でトッドと知り合ったのが今のバンドの始まりだったそうだ。
最初に今夜の調子を試すように“ジーズ・ウォールズ・アー・シン”を演奏すると、「また日本に戻って来られて嬉しいよ」とネイサンが言ってから2曲目で早くも“イヴァキュエイト”に突入。「iTunesシングル・オブ・ザ・ウィーク」に選出されて1週間で56万ダウンロード(無料)を記録し、『ユニオン』のブレイクの下地を作ったこの曲。一度聴いたら忘れられない切れ味のあるボーカルラインと強烈なビート、怒濤のギター・サウンドというボクサー・リベリオンの持ち味を凝縮したような曲だ。
4つ打ちのドラムに人懐っこいメロディの歌が乗せられて自然と身体が動く“スピッティング・ファイア”を終え、アコースティック・ギターに持ち替えたネイサンが「これはちょっとカントリーっぽい曲なんだけど」と言って始めたのは“ソヴィエツ”。そう言われて初めて思い出したけれど、ネイサンはアメリカの中でもカントリーの聖地ナッシュヴィルがあるテネシー州の出身で、このあたりのバリエーションの豊かさにも彼らが他のUKバンドと一線を画すポイントがあるのかもしれない。
トッドのギターも“フラッシング・レッド・ライト・ミーンズ・ゴー”のネイサンのファルセットに寄り添うようなクリア・トーンのものから“フォーシズ”のフィードバックを用いたノイジーでシューゲイジング気味のものまで幅が広い。それからボクサー・リベリオンを語る上で欠かせないのは、上述のようにネットの掲示板を通じてデュオになったネイサンとトッドがLondon Music School構内の(本物の)掲示板に貼ったメンバー募集のチラシを見て加入したアダム(B)とピアース(Dr)の技倆だろう。特にUNITのような小さめの会場だとその手元の動きだけで見とれてしまうようなところがあって、2人ともかなり複雑で凝ったプレイで寡黙に曲の世界を拡げている。
美しく悲しい、カタルシスそのもののような“サイレント・ムーヴィー”で本編が終了すると、「僕らは時間を無駄にしないんだ」と言って10秒も経たないうちにアンコールに戻ってくる4人。「アリガト」、「サンキュー」、「みんなの前で演奏できて本当に光栄だよ」と曲が終わるごとに語りかけていたネイサンはよほど楽しかったのか、予定していなかった“ジ・アブセンティー”も急遽披露してくれた。最後は代表曲“ウォーターメロン”。親密な空気に満ちたいいライブだった。(高久聡明)
セットリスト
1. ジーズ・ウォールズ・アー・シン
2. イヴァキュエイト
3. セミ・オートマティック
4. ウィー・ハヴ・ディス・プレイス・サラウンディド
5. ロックト・イン・ザ・ベースメント(新曲)
6. スピッティング・ファイア
7. ソヴィエツ
8. レイ・ミー・ダウン
9. フラッシング・レッド・ライト・ミーンズ・ゴー
10. カウボーイズ・アンド・エンジンズ
11. ミスプレイスト
12. フォーシズ
13. ザ・ニュー・ヘヴィ
14, ボース・サイズ・アー・イーヴン(新曲)
15. ネヴァー・ノウイング・ハウ・オア・ホワィ
16. サイレント・ムーヴィー
アンコール
17. ノー・ハーム(新曲)
18. フライト
19. ジ・アブセンティー
20. ウォーターメロン