sleepy.ab @ 東京キネマ倶楽部

昨年11月にメジャー移籍アルバム『paratroop』をリリースし、11月から全国ツアーを行ってきたsleepy.ab。東京公演は彼らの馴染みの場所でもある東京キネマ倶楽部にて行われた。

昭和のキャバレーの趣が残る独特の雰囲気を醸すこの場所。半螺旋階段のようなゴージャスな造りの階段を降りてステージに姿を現したメンバー。sleepy.abのイメージとはちょっと違うから、階段を下りてきた瞬間なんか少し滑稽に見えてしまったのだけど、そんなことは1曲目が始まった途端に問答無用。壮大なサウンドスケープに身を投じ、ずぶずぶと引き込まれてしまった。前半は彼らのPVも手がけている映像監督、小嶋氏によるVJがステージのバックに広がり、揺れる水面のその奥へと飛び込んで、深淵まで落下していくような彼らの世界観に浸かっていった。sleepy.abの音楽は元々映像を喚起させるようなところがあるから、よりビビッドな映像が脳裏に刻み込まれることで、一つひとつの音が大きく心を奮わせていった。

成山の包み込むように優しいファルセットはどこまでもクリアに響き、両足で数多のエフェクターを巧みに操り神秘的なサウンドを創り出していく山内のギターはまさに職人技。そして、それらを支えるタイトで分厚い音ながらも非常に繊細なグルーヴを奏でる田中、津波によるリズム隊の存在はsleepy.abの肝心要を担う。“メロウ”の気だるい雰囲気や、緩やかなレゲエのリズムに乗った“ドレミ”のような幻想的な世界も、“インソムニア”や“flee”のようなグルーヴで牽引していくような毒気に満ちたナンバーも、両方表現しうるこのバンドの揺ぎない強さが感じられる。

パイプオルガンのように聞こえる山内の荘厳なギターのイントロで始まる“メリーゴーランド”は息を呑むような神聖さに満ちていて、美しいメロディとともに非日常的な世界へと誘う。その一方で、楽しいとか嬉しいという感情の裏側には必ず悲しいとか悔しい感情があるという日々の何気ない感情をぶつけた歌詞が印象的な“メロディ”では少しずつ自らの感情を紐解いて解放させ、現実としっかり向き合う。その感情の高鳴りは成山の声にしっかりと震動して高らかに響いていた。

「僕たちが拠点としている札幌から全国へと発信していきたいという思いを込めて『paratroop』と名づけました」とアルバムについて田中が説明していた。11年間の活動でじわじわと札幌から全国へと落下傘のようにゆっくり舞い降りたsleepy.ab。成山は「新しい土地に行って、4年間待ち続けましたって言われたのが感動しました」と感慨深さを語る。拠点を移すことなく札幌在住のまま彼らのペースで思うように活動を続けてきたが、今回のツアーでたくさんの人たちが彼らのライブを待ち望んでいたことを知ったことも確かな自信となったのだろう。「札幌を拠点に活動して、このまま札幌で続けたいという4人の意思表明です」といって“メトロノーム”をプレイした。落下傘でフワリと降りてきたsleepy.abが地に足をつけて、これから広大な大地を前進していこうとする確かな足取りを見せてくれたような気がする。

ツアーは1月30日(土)の地元札幌・道心ホールでファイナルを迎える。このツアーが終わった後は、早くも次の曲作りにとりかかるそうだ。頑張って年内、もしくは2011年の今頃にはその作品を届けたいと意気込んでいたので、期待していたい。(阿部英理子)
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