デヴェンドラ・バンハート @ 代官山UNIT

デヴェンドラ・バンハート @ 代官山UNIT
デヴェンドラ・バンハート @ 代官山UNIT
デヴェンドラ・バンハート @ 代官山UNIT - pic by Yuki Kuroyanagi/写真は2月4日の公演のものpic by Yuki Kuroyanagi/写真は2月4日の公演のもの
昨年はオアシスやフェニックスのリミックス曲を発表したり、ベックのカバー企画「Record Club」に参加したり、2年ぶりのニュー・アルバム『ホワット・ウィル・ウィー・ビー』をリリースしたりと、多方面で意欲的な活動を行ったデヴェンドラ・バンハート。サマーソニック06で一度来日しているものの、彼が日本で単独公演を行うのは今回が初めてで、2日続けて代官山UNITでライブが行われる。今夜はその2日目。

最近の写真では剃り落されていたはずの髭はまた大分伸びていたが、ブルーのシャツに白のパンツ、明るい色合いのハットといういでたちで、白ワインを片手に「コンバンワー」と言いながら登場したデヴェンドラはかなり端正な印象。セットリストとしては、ギター×2とベースとドラムの4人によるバック・バンド「The Grogs」を従えたバンド・セットということもあって、どちらかといえば肉体性を重視した選曲になっていた。

個人的には“ハード・サムバディ・セイ”とか“クリップル・クロウ”、“バッド・ガール”といった内省的だけど温かい曲を好んで聴いていたのでそれが演奏されなかったのはまあ残念といえば残念だったけれど、それを補って余りあるくらいバンドの演奏が良かった。デヴェンドラの曲には聴いていると自然と1つの風景が浮かんでくるという不思議な特徴がある気がするのだが、それがバックのメリハリの効いた抜けの良い演奏によってうまい具合に引き出され、リアリティのあるサウンドスケープが作り上げられていたと思う。

ジョン・コルトレーン版“マイ・フェイヴァリット・シングス”の変種みたいな呪術的なリフに循環呼吸を使っているかのようなデヴェンドラのボーカルが乗せられた“シーホース”、彼のカエターノ・ヴェローゾへの偏愛が伝わってくるトロピカリズモな“カルメンシータ”、デヴェンドラ1人で演奏したジョニー・サンダースの名曲“ユー・キャント・プット・ユア・アームズ・アラウンド・ア・メモリー”のカバーは特に良かった。“ア・サイト・トゥ・ビホールド”などの古い曲から最新作の“アンジェリカ”や“フーリン”まで、キャリア全体からバランスよく楽曲が披露されたのも嬉しかった。でもやはり圧倒的だったのは、オープニングの“ロング・ヘアード・チャイルド”と、アンコールでの“チャイニーズ・チルドレン”から“アイ・フィール・ジャスト・ライク・ア・チャイルド”へのメドレーだろう。

タイトルに「Child」という言葉が入っているこの3曲がライブの最初と最後に持って来られるというのもなんだか象徴的な気がするけれど、これらの曲でのデヴェンドラはまさに「子ども」というか、曲のユーモラスな歌詞が自分でもおかしくてたまらないといった様子で突発的な身振りやシャウトを次々に繰り出していた。例えば“ロング・ヘアード・チャイルド”は、毛のない頭が寒くてしょうがないという男が、ウィッグを買おうか、それとも髭を長く伸ばして頭のほうまで持っていこうかと煩悶しながら、とにかく自分の息子は床屋に行かせないで髪の長い子ども(ロング・ヘアード・チャイルド)にするぞ!と決意するというかなりナンセンスな(ナンセンスに見える)歌詞がついた曲だが、そんな男の役に尋常じゃないくらい入り込んでいるデヴェンドラの様子が吹き出してしまうくらいおもしろい。「子宮から墓まで、僕はずっと子どもなんだ」と“アイ・フィール・ジャスト・ライク・ア・チャイルド”で宣言するデヴェンドラは、ちょうど子どもが自分の作った砂場の山を感嘆の眼差しで眺めるように、自らの作品と戯れる心を持ち続けているのだろう。

「今日の演奏はマキ・アサカワに捧げるよ。彼女はニコやマリアンヌ・フェイスフルみたいに素晴らしい女性だった」と言い、先月亡くなった浅川マキへの想いを語ったデヴェンドラ。生きることへの愛に満ちた温かいライブだった。(高久聡明)
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