藍坊主 @ 恵比寿リキッドルーム

メジャー5作目となるアルバム『ミズカネ』を携えての、『aobozu TOUR 2010「こぼれるシルバー」』。いよいよ恵比寿リキッドルームでキックオフである。『ミズカネ』収録曲のうち幾つかは昨年末のワンマン・ライブやCOUNTDOWN JAPAN 09/10でも披露されていたのだが、アルバムをしっかり聴き込んだファンが集まるツアーとなればまたずいぶん話は違う。フロアの隅の方までオーディエンスと期待感でみっちりと埋まった、連休初日のリキッドルームなのである。

オープニングから新作の収録曲が立て続けに披露される、あからさまに自信満々のセット・リスト。幻想的なサウンド・スケープの中に真理を暗示するような詩的な歌が浮かび上がる曲があれば、衝動まかせに突っ走るナンバーもある。優しく真っ直ぐなメッセージが盛り込まれた、藍坊主の原風景と呼ぶべき柔らかいメロディの美曲も健在だ。『ミズカネ』は、藍坊主が10年のキャリアの中で培い、そして一歩一歩切り拓いてきた独自のロックのありとあらゆる種子が、一斉に芽吹いて視界一杯の花を咲かせたようなアルバムである。彼らのキャリアにおける幾度もの「最高到達点」が、すべて等価に現在の藍坊主の「標準」に昇華された作品なのである。

それにしても、hozzyの歌いっぷりが凄い。これまたかつての「最高到達点」が「標準」レベルのスキルとして完全に血肉化されてしまったような、堂々たるボーカリストの風格を漂わせる歌だ。バンド・サウンドに次々と実験的なアイデアを持ち込むことで新陳代謝を図ろうとするロック・バンドというのは、意外とこういう地味な肉体レベルのスキル・アップにまで手が回らなかったりするものだけれども、藍坊主の場合はアイデアも肉体も両立しながら進化している。それは、多彩なリズムを叩き出す渡辺のドラム・プレイや、藤森の作曲スキルにおいても同様だ。

さらに今回不思議に思ったことは、藍坊主のライブに参加するオーディエンスが、ほとんど全力で暴れたり、弾け回ったりしないということだ。アップ・テンポな曲、エキサイティングな曲というのは幾らでも披露されるのに、そうはならないのだ。はっきりとは分からないけれども、hozzyの歌唱というのは、そして彼らが生み出すメロディというのは、力強かったり激しかったりしても、どこかで常に聴く者の心をなだめているような、そういう要素があるのではないかと感じられた。大人しく聴け、という言葉があるわけではない。藍坊主の音楽の中に、聴き入って浸っていたくなるような成分が含まれている気がするのである。「今回不思議に思った」というのは、これまではごく自然に、この不思議な藍坊主ヴァイブスに呑み込まれていたということである。

終盤になってようやく“ウズラ”や“ジムノペディック”といった過去の代表曲が披露されたが、『ミズカネ』が大きな一本の柱となっていることに変わりはない。やたらストロング・スタイルな「新作ツアー」である。本編が幕となったところで、ある男子ファンが「アンコールいきまーす!」と掛け声を発し、フロアから藍坊主コールが巻き起こった。それまでも歓声と冷やかし声が半々という感じで投げ掛けられていたステージに再び姿を見せたhozzyは「これだけコミュニケーションとれるバンドって余りないんじゃないかな。藍坊主と皆さんの良いところだと思いますので、大事にしていきましょう」と告げた。ギターの田中は演奏中に、来場していた彼のお母さんと目が合った、マザーの前で“マザー”とか歌ってんの、と騒いでいる。親孝行じゃないか。名曲である。“マザー”は。

『aobozu TOUR 2010「こぼれるシルバー」』は、4月から大阪、名古屋、岡山、福岡、長野、仙台、札幌と各地を転戦し、そして7月4日には東京・日比谷野外大音楽堂でのパフォーマンスが予定されている。(小池宏和)
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