ステージにはグランド・ピアノをはじめ、アコースティック楽器の数々がスタンバイされ、その後方の中央には大きなクロス(十字架)が、我ら聴衆を睥睨するように据えられている。そう、ここは、品川にあるキリスト教会である。その静粛でホーリィなムードに包まれて、普段は信仰というものからは縁遠い身勝手な筆者でさえ、なんだか敬虔な心持ちになってしまうのである。アーメン。
去る2月19日に赤坂BLITZで盛大なフィナーレを迎えたRiddim Saunterの「Days Lead Tour」、今夜はその追加公演として企画された教会でのスペシャル・ライブ=「Days Lead at Church」なのだ。午後7時すぎ、「ビ――ッ!」っという開演のブザーが鳴り、客席中央のエントランスからリディム・メンバーと5人のストリングス隊、そしてパーカッションの松田“チャーべ”岳二が登場(全員スーツ姿でビシッとキメている)。しばしの調律の後、HOMMA(a.k.a.アニキ)が立ち上がって弦楽五重奏をコンダクト。今夜が特別な夜であることを告げるように、上品なストリングスの調べが朗々と響き渡り、そこにバンドの生演奏が加わって“Sweet&Still”へ。普段のライブ・ハウスとは違った、ふくよかで温かい、奥行きのあるアンサンブルに瞬く間に引き込まれてしまう。続く“Dear Joyce”ではオーディエンスが手拍子で演奏の輪に加わって、次第に場内のムードが上気していく。「思った以上に静かですね(笑)。あの、楽にしてもらって大丈夫なんで。しゃべったりしても良いですよ。飲食はダメですけど(笑)。ゴスペルとかできるわけじゃないんで、いつも通りやります。よろしくお願いします!」――そんなKEISHIのMCで、ちょっと張り詰めていた空気がほがらかに。続く“Big Yellow Taxi”や“The Three Wishes of a Dwarf”では軽やかなリズムを刻むTA-1のスネアがオーディエンスを心地よくスウィングさせ、曲を追うごとに少しずつ、しかし確実に場内の一体感は増していくのだった。
中盤にはTA-1がグランド・ピアノを勢いよく奏ではじめるも、痛恨のミステイク! (「ちょっと荷が重いッスねえ」と苦笑いのTA-1)。その直後にはトランペットのアニキが「息が吸えなくて」中断(笑)。そんなちょっとしたハプニングが逆にアットホームな空気を醸成する好結果となって、いつの間にか教会内にはチアフルな雰囲気が広がっているのだった。なかでもハイライトは、KEISHIが客席に降り立って完全なオフ・マイクで届けられた終盤の“Hey,Please Tip Me Off”。完全な静寂のなか、気持ちをこめて届けられる演奏にオーディエンスは固唾を飲んで傾聴。それはまるで、音楽の神様から特別に与えられた恩寵のような、本当に感動的なモーメントだった(マジでちょっと鳥肌立っちゃったほど!)。歌い終えて思わずガッツ・ポーズのKEISHIに、客席からは惜しみないオベーションが贈られたのだった。
「教会で、オーケストラ編成でやりたい!」という純粋は好奇心から出発したこの企画だが、それはまったく誤魔化しの効かない、バンドの実力がモロに露呈するようなシビアな現場でもあって、そんなシチュエーションでのステージを見事にやり遂げたリディム。子供のようなピュアな心持ちで音楽と向き合い、また、アーティストとしてのアンビション(野心)も旺盛な彼らだからこそ成しえた偉業だと思う。夏には「FUJI ROCK FESTIVAL '10」への出演も決定。まだまだ僕らを楽しませてくれそうだ。(奥村明裕)