冒頭から「また日本に来れて嬉しいよ!」「いい夜になりそうだ!」と1曲ごとにパッと咲き誇るティム(Vo・G)の満足げな笑顔ももちろんだが、何より爽快なのは、ブロック・パーティーのギタリスト=ラッセルをサポート・メンバーに迎えた「4人アッシュ」のサウンドの制御不能なエネルギー! 「デジタル配信と7インチ盤で2週間に1曲新曲をリリース」「それを1年間(=52週間)続けることで、計26曲のシングルを発表」というとんでもないペースでの活動を発表し、すでにその前半=13曲にボーナス・トラックなどを加えて全20曲(日本盤)収録のアルバム『A-Z ボリューム1』(日本先行で4月7日発売)を完成させたアッシュ。だが、実に3年ぶりとなるそのニュー・アルバムのリリース・パーティーとして、ここ代官山UNITでたった一夜だけ実現したスペシャル・ライブから浮かび上がったのは、そんな過剰にアグレッシブな新曲攻勢でも収まりきらないほどに燃えたぎっているティム/マーク(B)/リック(Dr)の衝動だった。
日本語の欠片を片っ端からちりばめた“カマクラ”のはちきれんばかりの爆裂ポップ感。ピアノの旋律とともにシンセ・ストリングスの海を漂うような“ネオン”のサウンドスケープ。“ジョイ・キックス・ダークネス”の、USオルタナのラフなバンド感をざくざくと切り刻んで気合い一閃えいやっとくっつけ直したみたいなビート……かつての紅一点ギタリスト=シャーロット在籍時と同じ4人編成で再現されているとはいえ、ラッセルのテレキャスのカラッカラに乾いたサウンドがもたらすドライブ感とともに、「あの頃」の清冽な蒼さや切れ味とはまったく違う、ごつごつがしゃがしゃしたアンサンブルが展開されていく。で、他でもないそのがしゃがしゃした音が、そして『A-Z』の新曲群をがっつり織り込んだセットリストの1曲1曲が、これまで何度も観ているアッシュの演奏を鮮やかに刷新するような、わくわくするようなロックの楽しさと底力を伝えてくるのだ。
“ア・ライフ・レス・オーディナリー”のユニゾン・ギター・ソロや、“ザ・デッド・ディサイプルズ”のダークなリフ、“エンジェル・インターセプター”のツイン・リード・ギターなど、ハード・ロック/メタル魂炸裂しすぎじゃないか?という場面が続出。その一方で、ぶりぶりのシンセ・ベースが鳴り響く“スペース・ショット”あり、ちょっと強引なくらいにシーケンスを絡めてマッドチェスター以降のUK横ノリ・ビートを再構築するかのようなハイブリッド・ファンク“リターン・オブ・ホワイト・ラビット”あり……と、今のダンス・ロックの流れ的に言ったらイケてるのかどうかの座標から飛び出すくらいに思い切った同期ものやシンセの使い方も思いっきり盛り込まれている。まったくもって音楽的な禁じ手なし。シャーロット脱退後、「3ピース・バンド=アッシュ」として自らの可能性と限界を極限まで突き詰めた『トワイライト・オブ・ジ・イノセンツ』(07年)を経て、欲しいサウンドに貪欲に喰らいつき血肉化していくことで未曾有の突然変異を遂げつつあるアッシュ。言ってみれば、今のアッシュにとって、自分たちのUKシーンにおける立ち位置とか時代性とか、ぶっちゃけどうでもいいのかもしれない。ともすれば(楽曲のアーカイヴ以外は)自らの過去など何一つ顧みない! 今がすべて!とでも言いたげな潔い挑戦モードが、その音をどこまでも攻撃的に響かせていた。
“トワイライト・オブ・ジ・イノセンツ”の重厚かつ壮大なストリングス同期アンサンブルも、ラッセルとのWディストーション・パワーでフロアを歓喜の渦に巻き込んだ“カンフー”“ガール・フロム・マーズ”“バーン・ベイビー・バーン”といったお馴染みのアンセム群も、すべてをアッシュというでっかいパースの中で矛盾なく存在させながら、さらに「その先」を目指そうとしている……この日、幾度となく沸き上がったオーディエンスのハンドクラップや大合唱やコール&レスポンスは、そんなアッシュのさらなるロック・アドベンチャーをたたえる最高の凱歌だったのかもしれない。本編18曲+アンコール4曲を約1時間40分で駆け抜けた3人+1人は、「フジ・ロックでまた会おう!」というティムの言葉を残してステージを去っていった。『A-Z ボリューム2』もフジ・ロックも、今から楽しみで仕方がない!(高橋智樹)