相対性理論の企画イベント『解析II』。極端にメディア露出が少なく、しかしこの4月にリリースされた新型ポップ爆弾『シンクロニシティーン』の爆風に煽られてますます直の接触が切望される相対性理論なのである。幻想的でオリエンタルな響きのオープニングSEとともに光の三角模様がステージの幕を泳ぎ、メンバーのシルエットが浮かび上がる。まだまだ謎に包まれた部分も多いバンドでもあるからか、妙な緊張感を孕みながら静かに幕を開ける満場の赤坂ブリッツだ。
黒い小ぶりのハットを被ったやくしまるえつこが、相変わらず身じろぎもしない直立姿勢(正確には右足にやや重心が寄って、左足の膝を軽く曲げた感じ)で『シンクロニシティーン』の冒頭を飾る“シンデレラ”、そして前作収録の“地獄先生”と歌い出す。ミニマルで透徹としていながら極めて機能的なバンド・アンサンブルは、ライブとなると一層の凄みを増してゆく印象だ。4人がまるでひとつのマシーンのように「ポップ」を形作ってゆく。“ペペロンチーノ・キャンディ”は、アクロバティックな展開のアレンジが興奮を募らせるのだけれども、バンドの徹底して機能主義的なスタイルはむしろ安っぽい熱を拒むようだ。
「ミチコ・ロンドンと……えつこ・トーキョー……」。
やくしまるの謎過ぎる一言MCにも、会場のあちこちからくすくすと小さな笑いが漏れるだけである。聴く者の「萌え」回路を直撃する音波兵器としてのやくしまるの声。そこで求められるのは意味よりもむしろ効力の大きさなのだ。謎と言えばバンド自体が謎なのだが、今回、ブリッツの2階席からステージを眺めて思ったのは、やくしまると他の3人の立ち位置にかなりの距離がある、ということだ。これではひとつのバンドというよりも、アイドル歌手とそのバック・バンドである。しかしいざ演奏が始まってみれば、そこらのアイドルやバンドをまとめてなぎ直すような超高品位ポップ・チューンが畳み掛けられる。『シンクロニシティーン』でギタリストの永井が楽曲制作に一層深く関わるようになってからはむしろ、相対性理論の構造は更に強固で複雑に絡み合うものとなった。だからこそ、メンバーの立ち位置ひとつにも、ストイックに「ポップ」に身を投じる相対性理論のコンセプトが表れているのだろう。
まるで氷河の中で冷凍保存されたマンモスのようにフレッシュな80年代風ギター・ポップを現代に蘇らせる“三千万年”から、疾走する“気になるあの娘”の辺りで、いつの間にか鮮やかな七色の照明が走っていることに気付いた。楽曲の鮮やかでカラフルな展開と見事にシンクロしてしまっていて、いつからそうなっていたのか分からない。
「安心して。えつこが…行きます」。
“LOVEずっきゅん”ではメンバーの頭上で大小6個のミラー・ボールも回る。西浦のテクニカルなドラムも次第次第に熱を帯びてきた。音波兵器としてのやくしまるの歌は、リフレインするボーカル・フレーズの中で最も大きな威力を発揮するように思う。音源としては未発表の、のんびりとした穏やかなナンバーの中でもそれは証明されていた。
「やっと戻ってきた……ブーメラン」。
ポップが真っ当にポップを果たすことが出来ない時代、そしてオルタナティヴが目的化され形骸化してしまった時代に、相対性理論は極めて高度な、ポップとオルタナティヴの両立を鳴らしている。本編クライマックスは“ミス・パラレルワールド”だ。華やかなダンス・チューンに、レーザー光線までが踊っていた。永井のギターが狂ったようなフレーズを聴かせるものの、ポップを完遂してしまうバンドは見事だった。やくしまるが「つ・づ・く・」の一言を残して、メンバーは一度ステージを後にした。
「呼んでもらったからきたんだけど」と、やくしまると共にステージに姿を現したのは鈴木慶一である。相対性理論はムーンライダーズとの共演経験もあるが、これは凄腕ベテラン・ミュージシャンの寵愛も受ける彼らならではのスペシャル・ゲストだ。
「おとなも、こどもも、鈴木慶一も」。
まずはやくしまると鈴木慶一の二人で、同期シーケンスとともに一曲。このメロディ……なんと、鈴木が手掛けたスーパーファミコン
『MOTHER2』のテーマ曲である。6月にリリースされる鈴木のサ
ントラ・ベストで、この曲がやくしまるのボーカルで新録されているそうだ。作詞は糸井重里。ちなみに、「おとなも こどもも おねーさんも。」というのは、『MOTHER2』のキャッチ・コピーである。懐かしいなあ。そしてタイムレスだ。相対性理論のメンバー3人が再び登場し、“おはようオーパーツ”と“ムーンライト銀河”を披露する。“~オーパーツ”では鈴木もギターを弾きながらリード・ボーカルを取っていた。ラストはステージの背景が美しい星空となり、ドリーミーなサウンドがフロアを満たす。今回の『解析II』は、蓋を開けてみれば鈴木慶一をゲストに招いた相対性理論ワンマン、という形だったけれども、スペシャル感すら受け止められる大満足の内容であった。(小池宏和)
相対性理論 @ 赤坂BLITZ
2010.05.04