毛皮のマリーズ@恵比寿リキッドルーム

「かっこいいロックンロールとは、人が喜ぶロックンロールだと思います。人が嫌がるロックンロールよりは良いでしょ。だからいろんな人が、一人でも多くの人が喜ぶロックンロールをしようと思います」

活躍の場をメジャーシーンに移し、バンドとして大きな変革の時を迎える毛皮のマリーズがセルフタイトルのデビューアルバム『毛皮のマリーズ』をひっさげて、全国17都市のライブハウスで彼らの新しいロックンロールを打ち立てる『Restoration TOUR 2010』、ツアーファイナルの恵比寿リキッドルーム。志磨の話では発売から2分でソールドアウトとなったという今日の会場には、開演前にしては異様なほどの熱気が立ちこめていた。

フロアの天井に吊られたミラーボールから突然光が放たれ、続く「レディースエンドジェントルメン!」というアナウンスに、フロアのあちこちで歓声が起こる。そしてステージの幕が開き、越川、栗本、富士山、ソウル・フラワー・ユニオンからのゲストキーボーディスト、奥野真哉のセッションが始まる。少し遅れてステージ袖から水色のスーツに水色のフリルシャツと、どっからどう見てもロックスターな志磨が登場し、“金がなけりゃ”の演奏が始まる。序盤から越川の切れ味鋭いギタープレイと、富士山のダイナミックなドラミングが、これでもかというほどオーディエンスを煽りまくる。

「最後までロックンロールしかないからよろしく頼むよ」というMCからの、越川の強烈なリフにのって志磨がステージの端から端まで暴れ回る“ガンマン、生きて帰れ”、ロカビリーサウンドで疾走する“犬ロック”で立て続けに衝動的なエモーションを爆発させたかと思えば、“サンデーモーニング”、“悲しい男”というようなシリアスな楽曲を披露する。明るい楽曲の時には手が付けられないほど衝動的に暴走し、暗い楽曲の時にはどうしようもないくらい暗く悲しげな声で歌う。志磨のここのところの振れ幅の大きさは半端ではなく、もはやオリジナリティと言ってしまってもいいほどのレベルだ。

そして彼らのシリアスさが極地に達した9曲目の“それすらできない”では、NATSUMENのホーンパートの3人がゲストとして演奏に参加。ホーンが加わり更に厚みを増した強靭なアンサンブルで届けられる《もうこれ以上悪くなることは何も無い》という前向きなメッセージがオーディエンスに突き刺さる。今までに見せてきたような仰々しいパフォーマンスとはうって変わって、右手を握りしめながら絞り出すように言葉を発する志磨のボーカルが、最高点に達したはずのシリアスさに更なる拍車をかけていた。

「今回のツアーで初めて思うことがありまして、こうやってここからステージが見えるわけじゃないですか。今回のツアーでここから見える景色が変わった気がする。初めて可愛く見えた。語弊が無いように伝わってるかな。前まではお客さんはだいたい年上で、ナメられちゃだめだと必死に殺気立って、血気盛んになってお前ら全員殺してやるってぐらいの気持ちで演奏してた。ステージの前に広がる景色はまるで世界みたいで、それは怖いものでした。周りみんな敵ばっかり。でもロックはリラックスさせてくれる。そういうものにだけ心を開いてた。でも今は、昔の自分もこんなだっただろうなってみんなが可愛く見える。僕そっくりの似た者同士が1000人。ひねくれてて、理屈っぽくて、話が長くて……頭は良いんだよね。でも馬鹿正直で痛い目を見る。似た者同士、僕たちにしかわからない歌を歌います」

そんな言葉から始まったインディー時代からのアンセム“ビューティフル”は、個人的に今まで見てきた“ビューティフル”の中でも抜群に良かった。バカがつくほど正直な生き方しかできなくて、何かあるたびに摩耗して、立てなくなるほど苦しくなるけど、それでも最後には正しいものが、ロックンロールが勝つのだ。それを確かに伝えるための、歌という形態を成すことすらもおざなりになった志磨の鬼気迫るボーカルに、オーディエンスが全力のシンガロングで応える。こんな全感情むき出しのコミュニケートが当たり前のように成立しているのは、志磨が、毛皮のマリーズが、そしてオーディエンスがこの曲にある真実を、ロックンロールを絶対的に正しいものだと信じているからだ。何事もそつなくこなし、うまく生きているだけの人には一生その素晴らしさがわかりっこない美しすぎる一瞬。汗だくになりながらも言葉をぶつけ続ける志磨の姿は、まさにロックンロール・ヒーローそのものだった。

そして“ビューティフル”の狂熱をそのままに、続く本編ラストの“バンドワゴン”の希望溢れるこの日最大の爆音が、この日の感動的なステージを締めくくる。「ロックンロールありがとう!」という志磨の言葉を会場全員が噛み締めた、多幸感に満ち満ちた圧巻のライブアクトだった。

オーディエンスの心からのハンドクラップに迎えられたアンコールでは、新曲“コミック・ジェネレイション”が披露された。《愛も平和も欲しくないよ だって君しか興味ないもん》という歌詞のわりに、愛も平和も全部巻き込んでしまうほどの莫大なエネルギーでかき鳴らされるロマンチックなこの楽曲が、今日のライブが決して彼らの最終到達地点ではないことを確信させてくれた。

3度目のアンコールで一人ステージに姿を現した志磨は、インディーズの頃に見せていたような破壊衝動が支配する血まみれのロックンロールと決別し、今日のライブで見せてくれたような希望に満ちた再生のロックンロールを鳴らすようになった理由を語ってくれた。それがこのライブレポの冒頭に書いた言葉だ。色々なものを失いながらも、それでもロックンロールだけは頑なに手放すことをしなかった志磨の根底に存在していたのは、人を喜ばせるためのロックンロールだったのだ。そして志磨は首からさげたハープを吹きながら”晩年”を披露し、新たな、一人でも多くの人を喜ばせるためのロックを鳴らしていく決意を高らかに歌い上げる。曲の途中でメンバーがステージに現れ、スローバラードだった楽曲を一気に加速させる。ラストに向けてどんどんとドライブ感を増していくこの演奏を聴いていて、根拠は無いが「ああ、これは、毛皮のマリーズがやろうとしているロックンロールは絶対に大丈夫だ。間違ってない」、心からそう思った。全19曲、最初から最後までドラマチックというかドラマそのものの、本当に素晴らしくて美しいライブアクトだった。(前島耕)


[セットリスト]

1. 金がなけりゃ
2. COWGIRL
3. ボニーとクライドは今夜も夢中
4. DIG IT
5. ガンマン、生きて帰れ
6. 犬ロック
7. サンデーモーニング
8. 悲しい男
9. それすらできない
10. BABYDOLL
11. すてきなモリー
12. ビューティフル
13. REBEL SONG
14. バンドワゴン

アンコール1
15. コミック・ジェネレイション(新曲)
16. ジャーニー

アンコール2
17. YOUNG LOOSER
18. 愛する or die

アンコール3
19. 晩年
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

フォローする