歓声の中でステージに姿を現すなり、アカペラで“希望の炎”を伸びやかに歌い上げるKREVA。コーラス・パートの1センテンスだけであったが、この歌を聴く度に彼の歌唱力の向上には驚かされる。お馴染みDJ SHUHOと熊井吾郎が叩き出す、ゴージャスで重量感のあるトラックが鳴り響き、『OASYS』収録の“かも”へと傾れ込んでいった。そして無数の、巨大な火柱が吹き上がりレーザー光線の迸るステージ上から“ストロングスタイル”、続けざまにオレンジとスカイブルーのリボンがキャノン砲でアリーナ一面に放たれ“成功”と畳み掛ける。開演15分でクライマックスか!? もう終わりなのか!? そんな印象のこの導入部には度肝を抜かれた。さらに“Have a nice day!”へと繋がれる。楽曲そのものはSHUHOと熊井による直球のヒップ・ホップ・ビートであり、SHUHOのスクラッチングも冴え渡るのだが、音響も演出も、このスケールの大きさは流石の一語に尽きるものになっていた。
“THE SHOW”のリリックを満場のオーディエンスに預けながら、「ようこそ武道館へ! ようこそ『意味深3』へ! ここからは『意味深』らしく、今までライブで歌ったことのない曲とかを歌いたいと思います!」と告げる。恒例「When I say DOCTOR, you say K! DOCTOR!?」「K!!」「DOCTOR!?」「K!!」のコール&レスポンスを巻き起こしながら、DJ HAZIMEのミックスCDに収録されたDABO/ANARCHYとのコラボ曲“I REP”、ステッパーズ風のトラックに印象的な歌メロが泳ぐ“Nothing”、そして「一生リリースされないであろう曲です。胸に刻み付けて帰ってくれ!」と前置きして披露されたKREVA×Perfumeの勝手にリミックスシリーズ vol.5“575 Remix”など、貴重なパフォーマンスを連発してゆく。先にド派手にヒット曲をプレイしておいてこういう展開に持ち込むのも上手いが、なによりワーカホリックなKREVAだからこその、引き出しの数の多さでもある。熊井吾郎・作のトラック“good boy, bad boy”の後、再び“THE SHOW”に戻る形で、怒濤のメドレー攻勢をフィニッシュしたのであった。
「ここからはみんなが知っているであろう、かつ、じっくり聴ける曲をやります。少しずつ、アレンジを変えてあるから」と、マニアックにして大舞台な『意味深』ならではの絶妙な配慮で今度はミディアム・テンポのシングル曲群を披露してゆく。“音色”はアンダーワールド“ボーン・スリッピー”のイントロのようなシンセ・リフが加えられていて、“アグレッシ部”は光量の多いステージ上から、ほぼビートレスでストリングスのウォール・オブ・サウンドが織り成す荘厳なナンバーに仕立て上げられていた。メロディを歌うKREVAはオートチューンを頻繁に駆使しているのだけれど、今の彼なら生のボーカルでも充分にその歌を堪能できるのではないか、と思う。
「知ってる人もいると思うけどここで、座って観ましょう、のコーナーです……おまえら座るの早いよ! 昨日も今日も!」。みんな手慣れているのである。KREVAのライブは、それだけポピュラーになっているということだろう。DVDも出てるし。さて、『意味深』では、パフォーマンス機材の機能を丁寧に紹介して楽しませるコーナーが盛り込まれることもあるのだが、今回はデジタルDJ講座である。KREVAはラップトップ上のDJソフトで、楽曲の中に打ったいくつものCUEマーク(再生箇所)を自在に行き来する機能を紹介。そこにスクラッチングのSHUHO、MPCのパッドを引っ叩いてビートを打ち鳴らす熊井が加わって、3人でセッションを行うという展開になった。スピッツの“チェリー”が次第にクールなヒップ・ホップ・ブレイクスへと変化していったり、久保田利伸の“missing”をネタにしたパフォーマンスで「これは誰の曲でしょう?」とクイズを出したり(かなりピッチを変えてあったので、僕にはまったく正解が分からなかった)。また、このコーナーの間だけ巨大スクリーンが用意されていて、3人の「真剣勝負なだけに楽しい」という表情が映し出されるのだった。
「最後も、共演したことのある人です」と三浦大知の“Your Love feat. KREVA”がリアルタイム・リミックスされたところで、真っ白なスーツ姿の三浦本人がステージに躍り出てくる。今回も豪華共演なるか、と一瞬思わせたのだが「でも、共演した曲もうやっちゃって、ネタがないんだよね」とヤル気満々の三浦をイジメ始めるKREVAであった。さんざん出し惜しみした挙句、披露されたのは“生まれてきてありがとう”のデュエットだ。オートチューンを通した三浦の美声が場内に広がる。「ていうか出てきてくれてありがとう! 三浦大知!」のKREVAの言葉とともに、満場の歓声を浴びせかけるオーディエンスであった。この2人、つくづくステージ上での相性が良い。
『意味深3』もいよいよ大詰め。ここからは豪華バンド・セットでのステージだ。この豪華バンド・セッションでは、『OASYS』収録曲を披露。“道なき道”をプレイしたのち、バンマス=柿崎洋一郎を始めとする面々を順に紹介してゆくKREVAである。最後に「俺がこの名前を紹介するとは思わなかったぜ」とステージ上手に陣取るキーボード奏者に向けて掌を掲げた。「小室哲哉!」。ウェルカム・バックである。まったくの余談ですが、僕が前回、生TKを観たのもこの武道館でした。2007年12月の、TMネットワークのライブです。感無量であります。そして「今日唯一の女性だぜ」とSONOMIも招き入れられ、“たられば feat. SONOMI”に突入していった。そしてステージの背景が一面の星空へと移り変わり、KREVAが螺旋状に電飾されたスタンド・マイクを前に電飾ゴーグルを装着して歌った“エレクトロ・アース・トラックス”へと進められてゆく。
《なんで気がつかない/リアリティはリアルじゃない/現実味と現実は/いちご味といちごくらい違うじゃないか》という秀逸なメッセージが届けられるラップ・ソング“最終回”。KREVAはソロになってから、ラップの情報伝達性能を兼ね備え、かつ人々の間で分かち合われるメロディとしての歌を追い求めてきた。優れたシンガー達と共演し、或いはオートチューンやヴォコーダーを駆使し、自らの歌唱力そのものも鍛え上げて、『心臓』や『OASYS』といった独自の歌の境地に到達したのだった。ヒップ・ホップ・ビートの多様性のある符割りとラップのフロウ技術を活かした彼の歌とソング・ライティングは、現在ヒップ・ホップの母国であるアメリカでトレンドとなっている新しいスタイル(例えばキッド・カディやドレイクらのそれ)と不思議にシンクロするものでもあるが、KREVAが独自のキャリアによってその境地に辿り着いたことは、彼の活動を追っている人なら誰でも知っている。新しい/届く言葉と音楽を追求した副産物として、彼はヒップ・ホップの母国に「追いついてしまった」のだ。彼のライブを観ていると、興奮しながらもときどき「今、自分はとんでもないものを観ている」と恐ろしいような気分になることがある。
バンドに三浦大知とSONOMIを加えた編成によるこの日2度目の“かも”がプレイされ、本編最後の“Changing Same”では、武道館の天井から何か雪のようなものが降り注いでくる。それは無数の、真っ白な鳥の羽根であった。美しいフィナーレだ。そしてアンコールが始まると、ステージ上ではSHUHOと熊井がビートを刻み始めるのだが、なかなかKREVAが登場しない。すると、観客席から唐突に凄まじい歓声があがった。なんとKREVA、1階観客席のど真ん中に姿を現して“あかさたなはまやらわをん”を歌い始めたのだ。最後まで徹底したサプライズと密なコミュニケーション。狂騒の中でステージに駆け上がり、彼はこんなことを語った。「俺が子供の頃に、ステージ一杯に機材を積み上げて演奏していた小室さんを観て、すげーなあ、って思ってました。ここにいるキッズが、小学生か中学生か高校生かわからないけど、いつか俺をステージに呼んでくれたらと思います」。ゆったりとした4つ打ちに、沸々とした情感のメロディが乗せられた新曲“EGAO”を披露して、『意味深3』は幕を閉じた。KREVAのパフォーマンスには、具体的で緊密なコミュニケーションがある。具体的な夢と希望がある。そんなことを、改めて感じたステージであった。(小池宏和)
セット・リスト
1:希望の炎
2:かも
3:ストロングスタイル
4:成功
5:Have a nice day!
6:THE SHOW
7:I REP
8:Nothing
9:575 Remix
10:忘れずにいたいもの
11:good boy, bad boy ~ THE SHOW
12:音色
13:スタート
14:アグレッシ部
15:J-POP HIP HOP section
16:生まれてきてありがとう
17:道なき道
18:たられば feat. SONOMI
19:エレクトロ・アース・トラックス
20:最終回
21:かも
22:Changing Same
EN1:あかさたなはまやらわをん
EN2:EGAO