なお、このツアーの最終日は12月6日の渋谷クラブクアトロ公演なのだが、「超満員すぎてゲスト入れられません!」ということで、今夜のライブをレポートすることになりました。以下セットリストなども明記しているので、これからクアトロへ足を運ぶ方は、注意してお読みください。
アンコール含めて全17曲、あっという間の2時間弱。いつものように、衝動を燃やし放題燃やし尽くして去るような、余計なたるみや休息を感じさせないライブだった(あ、栄純(G)と岡峰(B)が鳥カツが旨い定食屋について語っていたMCを除いては)。しかし今までと違ったのは、これまで観てきた中でいちばん演奏がしっかりしていたように感じられたこと。目の前にあるすべてのものを切り裂いていくような鋭さやテンションはそのままに、それぞれの表現がよりタフで豊かなものになっているように感じられた。ツアー終盤であるにもかかわらず、張りと伸びを失わない山田(Vo)の歌声。龍神のごとく場内を駆けめぐる栄純のギター。何より、松田(Dr)の地響きのようなバスドラを中心としてバンドを力強く支えるどっしりとしたリズム隊がすばらしい。
前述したように、『アサイラム』はこれまで以上に多彩な音が盛り込まれたアルバムだ。今まででもっとも時間をかけて作り込んだアルバムなだけに、メロディがユニークだし、随所のアレンジがいちいち凝っているし、1曲ごとの展開の触れ幅が大きい。そこでバンドをじっくりと練り上げてきたからこそ、ひとつひとつの音に込めるエネルギーが自然と大きくなっているのではないかと思う。『アサイラム』の楽曲はもちろん、“声”や“カラビンカ”などの性急なナンバーから“怪しき雲行き”や“ヘッドフォンチルドレン”などの少しゆったりしたナンバーに至るまで、過去の楽曲も明らかに厚みを増した音になっていたのには驚いた。
しかし、何といっても4人のパフォーマンスだ。モニターに足を上げて激情を露にする山田、裸足でギターを掻き鳴らす栄純など、その動きはいつものライブと変わらない。変わらないんだけど、何度見ても胸をカッと熱くさせられるようなドラマ性が、その佇まいからは感じられるのだ。それは、彼らが世界の暗部や心の闇と向き合いながら、その先の光を見ようとしているからに他ならない。「バックホーンのロックとはこういうものだ」という業を背負いながら、愚直に、そして必死に勝負しているからこそ、彼らのパフォーマンスは観る者の心を大きく揺さぶるのだろう。本編ラストの“パレード”に入る前に、山田は「ツアーは終わるけれど何も終わるわけじゃないし、これからも我々バックホーンとともに歩いていこう」と言っていた。その言葉が象徴するように、戦いつづければ必ずや道は拓けるとでも言うような、絶対的な確信が、バックホーンのライブにはある。そんな一点の曇りもない彼らの魂がオーディエンスの心に乗り移って、でっかい希望を生み出した“パレード”や大ラスの“無限の荒野”は、とにかく美しかった。
ちなみに。個人的に印象深かったのが、中盤に連続でプレイされた“海岸線”と“冬のミルク”。単に狂気や攻撃性で押し切るだけじゃなく、広がりのある世界観やあたたかみを感じさせるライブになってきた気がするのだけど、こういったメロウなナンバーがライブ全体を風通しのよいものにしているように感じた。
あと、今夜のZeppはとにかく暑かった。ただ立っているだけでこんなに汗ばんだZeppのライブは初めてなんじゃないかってぐらい。たまに曲間で空調が入るものの、次の曲が始まった途端に涼しさがかき消されてしまうほどの、窒息してしまうぐらいの熱気に満ちていた。バックホーンの年内ラストライブは大晦日のCOUNTDOWN JAPAN 10/11。ここでも、あっついライブをブチかましてくれるのが今から楽しみ。(齋藤美穂)
セットリスト
1.雷電
2.ラフレシア
3.声
4.再生
5.罠
6.カラビンカ
7.怪しき雲行き
8.ヘッドフォンチルドレン
9.海岸線
10.冬のミルク
11.閉ざされた世界
12.ペルソナ
13.コバルトブルー
14.戦う君よ
15.パレード
アンコール
16.刃
17.無限の荒野