髭(HiGE) @ リキッドルーム恵比寿

まず、先に下のセットリストを見て「本編9曲? 誤植じゃないの?」と思った方のために断っておくと、今夜はもともと髭(HiGE)の前代未聞の1曲40分勝負のニュー・ディスク『Electric』のリリース・パーティーとして告知されていたものであり、ということは当然1曲目に“Electric”をやるわけであり、普通なら6曲7曲余裕でやれるだけの時間を1曲に要するわけで、見た目あっさりしたセットリストになるのは当然といえばあまりに当然ではあるし、かといって須藤寿はじめ髭(HiGE)の5人が「前人未到! ワンマン・ライヴ2時間全編“Electric”1曲勝負!」とかやらかすほど不親切な変態プログレ実験くん集団でないことはみなさんよくご存知の通りだし――というバランス感がそのまま形になった、まさに今の髭そのもののセットリストということだ。

ステージは前後2列に機材が並んでいて、後列左からコテイスイのドラム・セット、宮川のベース&シンセ・ベースのセット、DJセットらしき卓、フィリポのドラム・セット。前列左の須藤のギター&鍵盤セット、中央のパーカッション・セット、そして斉藤のギター・セット……そんな変則的なエレクトロ・フォーメーション・オブ・髭のステージに、19:11に最初に登場したのはメンバーではなく、ウサギのマスクを被った謎のDJ=DJシラフ。フロアの歓声を受けて、ようやくメンバー5人が姿を現す。

“Electric”の異様な空気をそのまま再現しているせいか、バンドの演奏としては見た目にはかなり異様なものだ。最初の数分間はまともに楽器を構えていたのはギターの斉藤のみだったり、DJ卓で忙しく機材を操るDJシラフの横でフィリポはしばらく鈴を振るだけだったり(後で聞いたら、カオスパッドという機材を下を向いてひたすら操作していたそうだ)、いざクライマックス!という感じで轟音が炸裂する中で宮川はひとりウィンド・ホイッスル(幽霊みたいな音が出るあの笛です)をぴーひょろ吹いていたり……5人がパートの垣根を無視して縦横無尽に入り乱れながら、見たこともない形のエレクトロ・ロックの空間を生み出していく。オーディエンスは思い思いに揺らめきながら、ポップ・ミュージックの時間軸を歪ませたような40分間の音像に身を委ねている。

“Electric”が終わってバンドが退場。まさかほんとにこれで終わり?というオーディエンスの不安を「ただいまより、10分間の休憩に入ります」のアナウンスがかき消し……再び5人がステージに現れた時には、須藤は金太郎のコスプレで「1匹ワルいやつつかまえました!」とコテイスイを引っ張って登場。「みんな大好きなやつからやろう!」と“ロックンロールと五人の囚人”“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”“ギルティーは罪な奴”を連射! インディー時代のアルバム『Hello! My Friends』から気だるいスロウ・ナンバー“サマータイム・ブルース”コテイスイがドラムを叩いて披露した後、再びオーディエンスもろともスピード違反の加速と過熱ぶりを見せつつ、最後の“ダーティーは罪な奴”まで一気に駆け抜け、「第2部」終了。

そこからさらにアンコールを3曲やってフィナーレ……のはずが、鳴り止まないアンコールに応えてもう1回メンバーが登場! 「みんなおめでとう! 今日がいちばん! 地球ができてから今日がいちばん!」と須藤もご機嫌だ。 最後にやった“ハートのキング”を、あまりに久しぶりすぎて須藤がコードを忘れまくっていたために中断。「どんどんコード忘れてくんだよ! でも、僕が紡ぎ出したメロディだよ!」と照れる須藤、仕切り直してもう1回イチから“ハートのキング”をビシッと演奏。5人の爆音が真っ白にリキッドルームを満たして……終了。髭の音楽的冒険心と悪ノリ感が100%発揮された、最高の一夜だった。あと、アンコールで演奏したオルタナ・ギター・ロックど真ん中の新曲“夢でさよなら”が、“Electric”の実験モードから方向への揺り戻しが起こっていることを予感させて面白かった。やっぱり目が離せない、この人たちは。(高橋智樹)

1.Electric
2.ロックンロールと五人の囚人
3.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
4.ギルティーは罪な奴
5.サマータイム・ブルース
6.ブラッディ・マリー、気をつけろ!
7.黒にそめろ
8.溺れる猿が藁をもつかむ
9.ダーティーな世界(Put your head)

アンコール
10.寄生虫×ベイビー×ゴー!
11.夢でさよなら(新曲)
12.Mr.アメリカ

アンコール2
13.ハートのキング
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