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    吉井和哉@日本武道館

    吉井和哉@日本武道館
    吉井和哉@日本武道館
    吉井和哉@日本武道館 - pics by 有賀幹夫pics by 有賀幹夫
    「吉井武道館へようこそ! みなさん、今年もいろいろあったでしょう。今日は一緒に浄化させましょう。今日は新曲、カバー曲、昔の曲も惜しみなく。最後まで楽しんでいってください!」
    12月28日。吉井和哉、毎年末恒例の日本武道館ライブの日。まさに、「浄化」という言葉がピタリとあてはまるような非常にすっきりとしたステージで、何より観客をゆっくりと見渡す吉井の表情があまりにも晴れやかなものだったことに驚いた。苦悩から解き放たれ、まるで憑き物がとれたような自然体の姿。そこからは溢れんばかりの自信が満ち溢れていたのだ。

    ジャクソン5の“Rockin' Robin”をSEに会場の温かなハンドクラップに迎えられながら、バンドメンバーのジュリアン・コリエル(G)、鶴谷崇(Key)、日下部正則(G)、吉田佳史(Dr)、三浦淳悟(B)が登場。そして、最後に姿を現した吉井はサングラスをかけ、なんと真っ赤なロングコートに身を包んでいた。もしやと思ったが、この真っ赤なロングコートは吉井が毎年12月28日に日本武道館に立つ始まりとなった、THE YELLOW MONKEY時代の『メカラ・ウロコ7』の時を彷彿とさせるもので(というか、そのものか? すみません未確認です)新たにたくさんのワッペンと背中一面にユニオン・ジャックをプリントしたものだった。『メカラ・ウロコ7』当時、自らTHE YELLOW MONKEY史上最高傑作と自負する作品となったアルバム『SICKS』の発売直前だったということもあり、その姿から想像するに、現在レコーディング中だという新作への自信、そして今日のライブがそれを物語るかのような出来になることへの確信を意味しているような気がしてならなかった。

    そして、ライブはいきなり新曲“アシッドウーマン”からスタート。1曲目にしてすでに来るアルバムの勝利すら予感させる素晴らしい楽曲でオーディエンスを沸かせる。続く、“PHOENIX”の《羽ばたけ 羽ばたけ 羽ばたけ 元気出せ 元気出せ もう恐れること勿れ》と歌い上げる部分や、“WEEKENDER”の《遠回りしても 良かったと言える 大人になりたい》といった言葉が、これまでの吉井のミュージシャン人生から血肉化されて紡ぎだされた素直な想いとして心を力強く揺さぶっていくのを感じた。とにかく、吉井の表情がとても柔和で歌がこれまで以上に真っ直ぐに届いてくる。痺れるようなブルース・ギターが冴え渡る“ウォーキングマン”も、アコースティックギターで歌い上げた“BLOWN UP CHILDREN”も、マラカスで妖しく彩った“20 GO”も、のどを鳴らすようにして全身全霊を込めて聴かせてくれた“Do The Flipping”も、すべてが魂に訴えかけるような響き方をしていた。たぶん聴く側もそれを素直に受け入れられる態勢だったのかもしれない。「今日はいいお客さんが多いですね。最近、
    44歳になって人とかモノとか土地とかの気がわかるようになってきていて。今日はみなさんいい気を持っていらっしゃる。ライブはそれが大事です」と吉井は言っていたけど、想いを素直にアウトプットする吉井と、それを素直に受け止めるリスナーとの間のバランスが今すごくいい状態にあるのだと思う。

    中盤では今年の「ジョン・レノンスーパーライブ」でオリジナルの日本語詞をつけてカバーした“Across The Universe”を披露。《目に見えないことは信用できないの/ポストに入らない手紙の方が多いのに/それから僕だけの美しい世界が広がり始めたんだ》という一節が秀逸すぎる。想像力をかき立てるような言葉の数々に今の吉井の好調さを感じずにはいられない。そして、このカバーからのTHE YELLOW MONKEY“Four Seasons”の流れには鳥肌が止まらなかった。一心不乱に歌う姿を拳を握り続けたまま凝視してしまったのは私だけではないだろう。吉井も思わず「いい曲だね」ともらしてしまうくらい神がかっていた。来年の春頃には現在レコーディング中のアルバムを届けられることを伝えると、新曲“オジギソウ”を披露。ふと去年の武道館で最後に「これからも魂に届くような曲を創りたいと思います!」という宣言をしていたのを急に思い出した。今、吉井からは魂に訴えかけるようなリアルな言葉とメロディが湧き出しているんだなと思う。

    終盤では「今年、いろんな出会いと別れがあった人に捧げます」と言って“BELIEVE”をプレイ。やはりここでも《あなたの心に届くように叫び続けていたい/永遠に魂に刻まれるように叫び続けてたい》というストレートな想いが歌われる。それとは対照的なフライングVを鬼気迫る勢いでかきむしる“ノーパン”の怒涛の攻め。今、吉井は聴く者の魂を揺さぶる説得力のある言葉とアルバム『VOLT』で手に入れた自らで鳴らす音の凄味を絶好のタイミングで組み合わせて新作を作っている。その順調さはやはり、THE YELLOW MONKEY時代にアルバム『SICKS』を出した頃の感覚に似ているのかもしれない。

    アンコールではまさかの“シルクスカーフに帽子のマダム”! THE YELLOW MONKEYのアルバム『未公開のエクスペリエンス・ムービー』に収録されている楽曲だ。「当時は男女の恋愛の歌を作ったつもりだったけど、今考えてみれば両親とか先祖とか、そういう人への想いを作ったのかなと思います。20代半ばに作ったブルースを聴いてください」と語った。ギターのアルペジオが鳴った瞬間に感嘆のため息が会場中に溢れかえり、44歳になった吉井が再び魂を注入して甦らせたブルースにじっと聴き入る。そして、「やっぱり、これをやらないと年は越せないよねー」とアコギを抱え、これまたまさかの「東京ブギウギ」(「おそそブギウギ」)! 大阪公演ではバーニーが披露したということで、ほかのメンバーが一人ずつボーカルを披露。ジュリアンはクイーンの“Crazy Little Thing Called Love”を織り交ぜつつ、吉田佳史はサングラスにもじゃもじゃ頭で「吉田ようすぃふみです!」と井上陽水に扮して歌い、会場の笑いを誘う。そのあとはもちろん、“アバンギャルドで行こうよ”(この流れは『メカラ・ウロコ』での定番の流れなのです)!
    狂喜乱舞する会場は大合唱で一丸となり、そのままの勢いで“FINAL COUNTDOWN”へ突入し大団円を迎えた。最後に来年約40本のツアーをまわることを告知し、2月16日発売されるシングル『LOVE & PEACE』を披露。生まれ変わったような清冽さに満ちた想いが2010年の終わりに区切りをつけ、2011年への明るい未来を予感させる力強い一夜となった。(阿部英理子)

    1.アシッドウーマン(新曲)
    2.PHOENIX
    3.WEEKENDER
    4.ヘヴンリー
    5.ウォーキングマン
    6.人それぞれのマイウェイ
    7.BLOWN UP CHILDREN
    8.20 GO
    9.Do The Flipping
    10.リバティーン(2011.2.16発売シングル『LOVE & PEACE』収録)
    11.Across The Universe(from The Beatles)
    12.Four Seasons(from THE YELLOW MONKEY)
    13.オジギソウ(新曲)
    14.TALI
    15.BELIEVE
    16.ノーパン
    17.ビルマニア

    アンコール
    1.シルクスカーフに帽子のマダム(from THE YELLOW MONKEY)
    2.アバンギャルドで行こうよ(from THE YELLOW MONKEY)
    3.FINAL COUNTDOWN
    4.LOVE & PEACE(2011.2.16発売シングル『LOVE & PEACE』収録)
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