マイス・パレード @ 恵比寿リキッドルーム

マイス・パレード @ 恵比寿リキッドルーム - グレゴリー・アンド・ザ・ホークグレゴリー・アンド・ザ・ホーク
マイス・パレード @ 恵比寿リキッドルーム - マイス・パレードマイス・パレード
マイス・パレード @ 恵比寿リキッドルーム - マイス・パレードマイス・パレード
マイス・パレード @ 恵比寿リキッドルーム - マイス・パレード / pics by Kozaburo Sakamotoマイス・パレード / pics by Kozaburo Sakamoto
今夜のリキッドルームを皮切りに、名古屋と大阪で3日続けて行われるマイス・パレードの単独公演。サポートアクトにニューヨークのシンガーソングライターであるグレゴリー・アンド・ザ・ホーク、そして東京公演のみのゲスト・アーティストとしてPredawnを迎え、昨年9月にリリースされた3年ぶりのニュー・アルバム『ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ビー・レフト・ハンデッド』を披露する。

最初にステージに登場したのは、これまでandymoriやQUATTROの作品にコーラスとして参加し、昨年6月には1stミニアルバム『手のなかの鳥』をリリースしたPredawnこと清水美和子。小ぶりのギター1本だけを使った弾き語りスタイルではあるけれど、フォークとボサノヴァとララバイの作る三角形のちょうど真ん中あたりに位置しそうなそのプレイスタイルは驚くほど洗練されていて、冒頭から会場の注目を一身に集める。

彼女のギターには独特のタイム感覚というか、自発的なシンコペーションというか、リズム・パターンやアクセントの位置が曲の展開とともに自在に変化していくようなところがあって、それがイノセントな雰囲気のあるボーカルに奥行きのあるリアリティと説得力を与えているように感じられる。「あの、初めて観る方ばかりで分からないと思うんですけど、鼻声のPredawnです」と頼りなげに話したセットは20分程度の短いものだったが、充分なインパクトのあるステージだった。

マイス・パレードとは<FatCat>のレーベルメイトでもあり、同レーベルからのデビュー・アルバム『モーニー・アンド・キッチ』ではアダム・ピアースがプロデュースを手がけ、逆にマイス・パレードの最新アルバムにはボーカルとして参加しているグレゴリー・アンド・ザ・ホーク。ほんの少しハスキーでスウィートな歌声という点ではPredawnと似ているところもあるけれど、椅子に腰掛けて演奏されるギターのリズムはより直線的で、むしろそこに乗せられる歌のエモーションのほうに焦点が置かれている。

とは言ってもボーカルが熱を帯びていくわけではなく、昨年リリースされたニュー・アルバム『レチェ』のオープニング曲“For the Best”や小型のハープに持ち替えられた“Leaves”で語られる愛する者への思慕の情は、いつも彼女の静かでささやかな個人的領域のうちにある。パーソナルなものを一般化したり社会的意識に転じたりすることなく、あくまでパーソナルなものとして表現しようとするところは、今日の3組のアーティスト全てに共通していることかもしれない。

「あれ? なんか音がヘンな感じに聴こえるな」と言ってギターを鳴らし、「うん、大丈夫」とアダムが呟きながら始められたマイス・パレードの最初の曲は新作からの“In Between Times”だった。これまでの2組が静かに聴かせるタイプのアクトだったせいもあるのか、鮮やかな照明に彩られたステージから一斉に迸る音の奔流と、キャロラインの出だしのちょっと英語じゃないみたいに聴こえる天衣無縫のボーカルラインに圧倒され、鳥肌が立った。

編成は、前列にアダム、ダン・リッペル(G)、キャロラインがごく短い間隔で並び、彼らを囲むようにしてドラムのダグ・シャリンを含む3人のメンバーが位置取るセクステット。CDではあまりに高度に演奏が完成されているためになんとなく聞き流してしまう部分も、実際に一人ひとりのメンバーの動きを見ながら聴くと、生(なま)の楽器同士が複雑に絡み合って1つの曲を作り上げているのがよく分かる。まさに彼らの一流のライブバンド、ジャムバンドとしての側面を見せつけたステージングで、その演奏はなにしろ楽しい。

セットの軸になっていた『ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ビー・レフト・ハンデッド』の収録曲のほか、大歓声が上がった過去作品のいくつかの人気曲(明日あさっての公演があるので詳述はしませんが)も披露した今夜のマイス・パレード。個人的には、アダムがイベンターとレーベルに感謝の言葉を述べてから始めた“Recover”と、アダムがドラムに移動し、ダグがベースを抱えて演奏した“Do Your Eyes See Sparks”という新作からの2曲が特に良かった。

何より記憶に残っているのは、その“Do Your Eyes See Sparks”の短いコーラス部で満面の笑みを浮かべてドラムを叩きまくるアダムの姿で、比較的リズムの要素が稀薄で即興的な感じのするヴァースからコーラスに入ったときのグリップ(求心力)にはすごいものがあった。即興的な演奏とポップでキャッチーな演奏が1つの楽曲の中で自然に同居し、しかもそれらがちょうど呼吸をするように互いの効果を高め合うという独自の手法は、アダムのホーム・スタジオでレコーディングしたことがあるアニマル・コレクティヴなどのバンドにも確実に伝えられているものだ。

最後はエイフェックス・ツインのようなアンビエント・サウンドの中でメンバーたちが去っていき、それがかなりノイジーになったところで客電が点き、そのままダブのBGMに変わるという凝った演出。多くのジャンルを横断する多国籍のサウンドに定評があり、しかしそれゆえになかなかその本質が見えづらいマイス・パレードだが、今夜のライブはその答えが「ライブ」であり、それを裏打ちする強靭な即興性であることを端的に示していたように思う。(高久聡明)

マイス・パレード セットリスト
In Between Times
Corches & Carpets
Tales of Las Negras
Sneaky Red
Last Ten Homes
Recover
Double Dolphins on the Nickel
Do Your Eyes See Sparks
Ground As Cold As Common

アンコール
The Days Before Fiction
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