LITTLE CREATURES / ZAZEN BOYS / toe @ 恵比寿リキッドルーム

「3時間の長丁場—―これ1000人超えてるんだよね、たぶんね? 今日は集まってくれてどうもありがとう!」という栗原務の言葉通り、ZAZEN BOYS/toeのアクトを経てLITTLE CREATURESのアンコール終了まで3時間半近かったこの日のステージでも、1音1音を貪欲に楽しみきろうとする満員のフロアの熱意は最後の最後まで高まり続ける一方だった………デビュー20周年というタイミングで、約5年ぶりの新作オリジナル・アルバム『LOVE TRIO』(昨年12月)、レーベルの垣根を超えたオールタイム・ベスト・アルバム『OMEGA HITS!!!』(同)、さらにUA/clammbon/くるり/CORNELIUS/SPECIAL OTHERS/toe feat.コトリンゴ/トクマルシューゴ/HIFANA & 鎮座DOPENESS/ハナレグミ/向井秀徳といったミュージシャンたちとリトクリの楽曲から生まれる化学反応を焼きつけた「カバー“お願いします”アルバム」こと『Re:TTLE CREATURES』(今年1月19日)の3作を惑星直列のように立て続けに発表したLITTLE CREATURES。そして、この日リキッドルームで開催されたイベントのタイトルは、そのものずばり『LITTLE CREATURES presents Re:TTLE CREATURES』。カバー盤にも参加したtoe、向井秀徳率いるZAZEN BOYSを招いての「対バン“お願いします”イベント」である。

19時05分、開演と同時に登場したのはZAZEN BOYS。「マツリ・スタジオからマツリ・セッションをひねくれ上がってやってまいりましたZAZEN BOYS!」といった向井のいつもの口上と、最後の「リキッドルーム、乾杯!」というコール以外、MC一切なし。“Honnoji”からあの、切れ味鋭いヘヴィな鈍器で快楽中枢をがんがんぶん殴られているような衝撃が50分間にわたって続く。“Himitsu Girl's Top Secret”でカシオマン(吉兼聡)/吉田一郎/松下敦のプレイを何度も止め、いっぱいいっぱいに気合いを溜めてドン!みたいな緊迫感あふれる空気感の中で、その張りつめたテンションすら楽しむようにビールを喉に流し込み、マイク・スタンドでスライド・ギターをかましてみせる向井。“Daruma”で「1、2、3、4!」のコールをわざと「1、」で止めてカシオマンを微妙にずっこけさせる一方で、カシオマンのインプロ・ギターと向井のシンセが繰り出すチャルメラで無尽蔵のカオスを生み出し、“Cold Beat”では超硬質フリー・ジャズとでも言うべき音の居合い抜き感を演出してみせる。『Re:TTLE CREATURES』での“HOUSE OF PIANO”カバーは向井秀徳名義なのに対し今日はZAZENでの出演、ということで、“HOUSE OF PIANO”はやらなかったが、ラスト“Asobi”までその迫力を存分に見せつけていった。

続いてはtoe。アコギ2本とサポート・キーボードのシンセリード音が響き合いながらオリエンタルな音の熱風を巻き起こす“ラストナイト”に始まり、“1/21”の眩い音像とダンサブルなビート、“After Image”のドラマチック&エモーショナルな狂騒感!と、1曲ごとに音楽の神秘の扉がでっかく開いていくような、実にマジカルな音楽体験。ポスト・ロックの構築感とジャム・バンドにも通じるオーガニックさを併せ持ちながら、身体から感情と才気のすべてを振り絞るように悶え弾く山嵜はじめ美濃/山根/柏倉のストイックな熱演が、その音楽にスピリチュアルと呼んでもいいほどの強烈なヴァイブを加えている。中盤に華を添えたのは、『Re:TTLE CREATURES』同様にゲストVo=コトリンゴを招いて披露した“He Passed Deeply”。で、ZAZENとは対照的に、山嵜は「明けましておめでとうございまーす」に始まり「リキッドルームと(代官山)UNITってごっちゃになりません?」「緊張しちゃう! みなさんどうですか年明けは? みなさんどうですかバレンタインは?」「いつものことなんですが、ライブの時はTバックはいてるんです。お尻が擦れないように」「今年もあと10ヵ月ぐらいあるんですか? なんとなく生きていければいいなと」などなど、あの限りなく独り言に近い口調でマイペースにしゃべり倒す。が、そんな彼の語りが、音楽の真摯さと不思議なマーブル模様を描きながら心に染み込んでくるから不思議だ。最後の“Path”まで約45分、充実のアクトだった。

そしてLITTLE CREATURES! 熱い拍手喝采を受けて、真っ白のシャツでキメた青柳拓次/鈴木正人/栗原務の3人がゆっくり登場。ピアノの響きとニューウェーヴ感が手に手を取って踊り回るような1曲目“FOOLISH KING”から、リキッドルームの空気がバキッと音を立てて塗り替わったような爽快なテンションがフロアを駆け抜ける。90年のデビュー以降、それこそロックもジャズもテクノも民族音楽も貪欲に取り入れ、音楽への情熱とオルタナティブな批評精神をその楽曲に籠め続けてきたLITTLE CREATURES。ステージ上の3人の佇まいは至ってクールだが、何しろ繰り出される1つ1つの音の情報量と説得力と存在感がとんでもない。ちなみにこの日の選曲は、『Re:TTLE CREATURES』の楽曲というよりは、“THE SAND CAGE”“DRAGONFLY DAY”をはじめ、どちらかと言えば新作『LOVE TRIO』を基調としつつ、そこに“NIGHT PEOPLE”“HOUSE OF PIANO”“MOSQUITO CURTAIN”といった『OMEGA HITS!!!』収録曲(『Re:TTLE CREATURES』ではそれぞれCORNELIUS、向井、SPECIAL OTHERSがカバー)を盛り込んだもの。音楽を国籍やカテゴリーから解放し、ひたすら高純度な核心そのものまで磨き上げることによって、ユニバーサルなポップ・ミュージックとしての輝度とフォルムの美しさを獲得していく……という彼ら3人の音楽的冒険の軌跡が、そのアンサンブルを通してこの日のリキッドルームの隅々まで共有され、オーディエンスの感情を静かに、しかし確かに揺り動かしていた。

アンコールでZAZEN/toe&コトリンゴ、そして観客に丁寧に感謝を述べていく栗原。「最後、我々が1曲やって締めます」という言葉とともに、鈴木のピアノと青柳のギター、栗原のドラムがアグレッシヴに絡み合う“TURQUOISE SEA”で堂々のフィナーレ! そして4月にはコトリンゴをゲストに迎えての『Re:TTLE CREATURES』第2弾も開催決定!(高橋智樹)
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