撃鉄 @ 新宿LOFT

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血走ったビートの硬質なパンク・ロックを超絶テンションでぶちかまし、ライブハウスシーンで強烈な存在感を放ちまくっている4人組バンド撃鉄の、“撃鉄『撃』リリースツアー「はじまりの時」”。そのファイナル公演となる自主企画イベント「撃鉄presents『第二回撃人間コンテスト』」が、新宿LOFTで開催された。「インディーズシーンを騒がす『撃人間』を決める」というコンセプトで行われた本イベントは、普通のライブではまずありえないであろうギミックがふんだんに仕込まれた、その名の通り衝撃的なイベントとなった。

バースペースに隣接するサブステージで行われたオープニング・アクトに登場したのは赤痢オルガン鳥。この春高校を卒業したばかりだという、まだあどけなさが残る顔立ちをした彼らが鳴らすのは、「青春」という甘酸っぱいキーワードが入り込む余地のない、破壊衝動剥き出しの純然たるパンク・ロック。ステージ上をのたうち回りながら攻撃的な言葉を吐き出すフロントマン清水タカヒロを中心に、どす黒いガレージ・サウンドを一心不乱にかき鳴らし、短い時間ながらもしっかりとオーディエンスを臨戦態勢へと導いた。

舞台をメインステージに移しての2番手は、70歳を過ぎてから本格的に活動を開始し、米寿でメジャーデビューという変わった経歴を持つ御年89歳、日本最高齢のラッパー(といってもほとんどラップはしないが)坂上弘。「宣誓! 我々は撃人間シップに則り、正々堂々と闘うことを誓います!」と、いきなり不意打ち気味の選手宣誓をかまし、呆気にとられるオーディエンスを尻目に、89歳とは思えない声量で尾崎豊の“卒業”を含む全4曲を高らかに歌い上げた。恐らく本人の意図するところではないアナーキーさが全開になったアクトだった。

セットチェンジを挟んでの3番手は、撃鉄や神聖かまってちゃんのマネージャーとしても活躍しているベーシスト、劔樹人が所属するエレクトロ・ダブバンド、あらかじめ決められた恋人たちへ。ベース、ドラム、ジャンベ(パーカッションの一種)が生み出す土着的で、本能に直接訴えかけるような力強いダンス・ビートの上を駆け抜けていく、鍵盤ハーモニカとテルミンの叙情的なメロディ。そんな、激しくも柔らかい、彼らの唯一無二のサウンドスケープに酔いしれながら、オーディエンスは思い思いに体を揺らしていた。

続いてはトラックメイカー・デュオFragmentの、彼らが主宰する音楽レーベル「術ノ穴」に所属するMC DOTAMAを迎えてのライブセット。激鉄の“部屋”のFragmentリミックスをプレイしてフロアを湧かせた前半から、DOTAMAが独特のハイトーン・フロウを駆使して積極的にオーディエンスとコミュニケートを図った後半まで、一貫してヒップホップのマナーに拘りながら進行していったこのアクトからは、あくまでも自分達のやり方でイベントを盛り上げようとする彼らの強い気概が感じられた。
撃鉄 @ 新宿LOFT
撃鉄 @ 新宿LOFT
ジャンル不問の濃厚なゲストアクトを終えて、イベント開始からおよそ2時間半、いよいよ大トリの撃鉄が登場。オープニング・ナンバーの“部屋”が始まるやいなや上着を脱ぎ捨て、ヒョウ柄のタイツ姿で現役のアスリート並に引き締まった筋肉を使った、キレのある動きを披露したフロントマン天野ジョージ(Vo)を中心に、彼らのカオティックなステージングはこの日も絶好調。森岡義裕(G)の鋭利なギターリフが暴れ回る“犬”から雪崩れ込んだ“東京”では、ステージ上の異様なテンションがフロアにも伝播したのか、会場が一体となって狂ったようにダンス、ダンス、ダンス! 続く天野のMCでは、今日の「撃人間コンテスト」の内容と、それぞれ「第1ステージ」「第2ステージ」「GOAL」と書かれた紙が貼られた、フロアに設営された3つの小規模なステージの説明が行われた。要点だけを説明させていただくと、以下の通り。

・イベントを通してメンバーそれぞれが最も気になった人、すなわち「撃人間」には後ほどプレゼントがある
・フロアに組まれたステージは、天野が「撃人間×SASUKE」というアスレチック企画に挑戦するために特別に作った
・鉄棒で繋がった各ステージ間を渡り見事ゴールまで辿り着くと、矢が1本もらえるというルール(『東京フレンドパーク』方式)
・2週目以降は虎のぬいぐるみを股に抱えて挑戦し、クリアすると矢が2本もらえる
撃鉄 @ 新宿LOFT
撃鉄 @ 新宿LOFT
そしてその後の“セミ”の最中で天野がフロアに降りてきて、1週目の「撃人間×SASUKE」がスタート。まずは超人的な身体能力を生かしてスルスルと鉄棒を渡り、危なげなく第2ステージへ。続いて2本の鉄棒に沿って垂直に設置されたパイプを滑らせて移動していく「パイプスライダー」の要領でゴールへ辿り着き、ステージに戻り雄々しく咆哮。そしてSASUKEの成功によってググッと高まったフロアの狂騒に更なる拍車をかけるべく、一際激しくライブ定番の“P.S”をプレイ。その後も段々とパンク・バンドのライブの領分を逸脱し、総合エンターテイメントのような様相を呈してきたライブの勢いは加速。何故か「風呂ネタ縛り」となったツアーの思い出を語るMCなどで緩急を付けながら、あっという間に後半戦へ。
撃鉄 @ 新宿LOFT
バンド初期からの楽曲“豆”を終えたところで、天野以外のメンバーによる、今日のイベントの撃人間の発表。田代タツヤ(B)は、今日は来られないと聞いていたのに何故か会場にいたという、毎回ライブに来てくれる男性に、自分のサイン入りの『初めてのイタリアン』という料理本を。森岡は、ほとんどステージを見ていなくて撃人間を見つけられなかったということで、「欲しい人ー?」という呼びかけに即座に応えた女性に、Animal CollectiveのDVDを。近藤駿(Dr)は、見ていた限りライブ中一度も口を開けていなかったという男性に、メンバーの全員のサイン入りの『キン肉マン』1巻を。それぞれのプレゼントが無事撃人間に受け渡り、ライブはいよいよクライマックス。天野が虎のぬいぐるみを股に挟んで挑んだ2週目のSASUKEを成功させてから“場違い”へ。ラストに向けて激しさを増していく、田代のうねりまくるベース・ラインと森岡の硬質なギター・フレーズのぶつかり合いが臨界に達した頃に、天野がステージ袖から一回り大きなホワイト・タイガーのぬいぐるみを持ち出して、3週目のSASUKEへテイク・オフ! オーディエンスが見守る中、無事にGOALに辿り着き、ライブ本編は終了。
撃鉄 @ 新宿LOFT
アンコールでは天野が、「東京フレンドパーク展」(恐らく毎年夏に赤坂サカスで行われる、「夏サカス」内のアトラクションのこと)に田代と行った時に撮った写真を、初めに決めた男性の撃人間から、急遽変更してその隣でその写真を羨ましそうに眺めていた女性にプレゼントしてから“はじまりの歌”へ。曲中SASUKEで獲得した5本の矢を会場に打ち込み、最後の1本で仕込んであった林檎を打ち抜くというパフォーマンスで今一度フロアを沸かし、そして最後は新曲を披露。焦燥感をまき散らしながら性急なビートで踊り狂う、これまでの方法論をそのままに、より洗練された印象を受けるパンク・ロックだった。

『SASUKE』に『東京フレンドパーク』という、いかにもフィジカルな2つを選んだり、「2週目以降は虎を股に挟む」という過酷な自分ルールを課したりと、随所にアスリートっぽさを滲ませながら、ライブハウスに総合エンターテイメント空間を作り出した撃鉄。腹抱えて笑わせてもらいました!(前島耕)
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