鶴 @ 新宿BLAZE

鶴 @ 新宿BLAZE
鶴 @ 新宿BLAZE
5月4日発売の5曲入りミニ・アルバム『秘密』のリリース・ツアー。ミニ・アルバムだからなのか、ここんとこ東京でのワンマンは赤坂BLITZが多かったけど、今回はその3分の2くらいのキャパの新宿BLAZE(昨年末に歌舞伎町にオープンした新しいライブハウスです)。で、ミニ・アルバムだからなのか、今回は、東名阪3本だけのショート・ツアー。ただし、「だから」できることもあるわけで、何かというと、『秘密』の5曲中3曲に参加したゲスト・ギタリスト、エマ:菊地英昭が全箇所参加、ということをやったのでした、鶴は。たとえば、20本のツアーではこれを実現しようと思うと、きっとなかなか大変なわけで、「東京だけ」とかになったのでは、と思います。

で。音楽性だけ考えると「そもそもなんで鶴にエマ?」という話だと、私も思います。音楽的に共通するもの、ある? ソウル/ディスコ・ミュージックをギター中心のロック・バンド編成でやる、という鶴の音楽性を考えると、イエロー・モンキーよりも、ウルフルズとか、サンボマスターとか、山下達郎とかの方が近いんじゃない? “夏の魔物”なんて、もうモロに山下達郎の「RIDE ON TIME」じゃない? と思うところですが、「思うところですが」って誰が思っているのかというと私が思っているんですが、実は鶴は、もともと、ザ・イエロー・モンキーのコピーバンドだったのでした。より正確に言うと、高校生の頃、別のボーカルがいて、秋野=エマ、神田=ヒーセ、どんくん=アニーという役でイエモンをコピーしまくっていて、高校を出て解散して、しばらくなんやかんややっていて、オリジナルをやるバンドを組もうっていうんでまた集まって、やっぱりその時も別のボーカルがいたんだけど、いろいろあって、ボーカル以外の3人で組んで、エマ秋野がボーカルも兼ねることになって始まったのが、鶴だったわけです。という話を、数年前、初めて鶴の取材をした時に、きいたことがあります。まだインディーズの頃でした。

というわけで。鶴、もう終始、天にのぼりまくり。エマのギター・プレイにフロアから歓声がとぶと、秋野、「おい、鶴のライブだってこと忘れんなよ! 俺もつい忘れるんだよ! ギター弾いててフッと横見ると『あぃやっほうう!』ってなるんだよ!」とわめいたり、うれしさのあまり「名古屋・大阪と回ってきて、今日が僕の命日になるかもしれない」と口走ったり、「エマさーん!」という歓声に「おい、鶴のライブだぞ! でも気持ちはわかる! 俺も! エマさーん!!」と絶叫したり。アドリブでいきなり「TVのシンガー」と「TACTICS」のイントロを演奏して、エマに「ほんとに3人とも曲よく覚えてるよねえ」と感心されたり。9曲目、“ニーハオ・イーカオ”の間奏にのっけて「アバンギャルドでいこうよ」を歌ったり、曲の後半の演奏がだんだん“Burn”になっていって、秋野&エマでギター・バトルしたり。というフリのあと、とうとう10曲目で「LOVE LOVE SHOW」、フルコーラスやりました。アンコールでも、“楽園”をやりました。もう、ただのファン。

にしてもエマ、ゲストというよりほとんどサポート・メンバー状態だった。普通こういうのって、バンドだけで何曲かやってから「ゲストです!」って呼び込まれるもんだと思うが、オープニングSEにのって、メンバー3人と一緒に出てくるし。そのあとも、1ブロック弾いて、1ブロックひっこんで、また1ブロック出て、みたいな構成。で、音も、弾く姿も、エマ、もうほんと、華ありまくり。鶴の曲って、リズムが4つ打ちの曲が多かったりしてディスコっぽい軽さを持っているんだけど、それがエマのギターによって力ずくでハードロック方面に押し流されていて、そのさまが、めちゃめちゃかっこよかったし、新鮮でした。
なお、秋野、ペグの色以外はエマとお揃いの青いレスポールを弾いていて、エマがひっこむといつもの黒いレスポールに持ち替えて、またエマが出てくるとまた青いレスポールにチェンジ、と、いちいち合わせていたのが微笑ましかったです。「今日はなんとかして、ギター、間違えて持って帰ろうと思ってます」と言って、ウケてました。

セットリストはこうでした。

1 フライハイ
2 こんばんは鶴です
3 恋のガソリン
4 花のフライデーナイト

ここでエマはけて、3人で、
5 ワンダーランド
6 夏の魔物
7 線香花火
8 桜

ここでまたエマが加わって、
9 ニーハオ・イーカオ
10 LOVE LOVE SHOW
11 小さくても世界は変わってる

で、またエマがはけて、
12 秘密
13 踊れないtoフィーバー
14 恋のゴング
15 Tonightはパーティー

アンコール
16 あなたへ

で、ここでまたエマ登場して、
17 熱量
18 楽園
19 アイタリナイ

以上、19曲。イエモン・カヴァー以外の目玉は、今「ING計画」と銘打って、毎月必ず1曲新曲を作ってライブでやることを自らに課している鶴の、6月度の新曲だった5曲目と、4月度の曲だった16曲目。いずれも、今の鶴がいい状態である、ただし「のりにのってます」みたいな、ハイないい状態じゃなくて、「己に厳しくある時期です!」みたいなストイックないい状態であることを表すような、強い強いメロディと強い強い言葉を持った、すばらしい曲だった。
つまり、ただ浮かれていただけではなかった、ってことです。かなり浮かれてはいたけど。

いや、でも、まじめな話、今の鶴には、何かこう、「もっと!」という気迫を感じる。もっと伝えたいし、もっと届けたいし、もっとわかってほしいし、もっとわかりたいし、というような。単純に、メジャー契約を持って活動しているプロのバンドとして、もっと売れないと、というのもそりゃあると思うが、それだけではない、なんで音楽をやるのか、なんで歌をうたうのかという根っこの部分から、ピュアに湧き上がってくるような「もっと!」を、とても感じるのです。浮かれつつも、そんな意志に貫かれたステージでした。

あと、アンコールのMCで発表していましたが、次の東京のワンマンは11月30日、赤坂BLITZだそうです。で、その日が次のツアーのファイナルであって、そしてそのツアーは、各地で、新曲を収めたCD付きのチケットを販売するそうです。という、新しいトライアルも行う、2011年下半期の鶴でした。なお、ROCK IN JAPAN FES.2011には、初日:8月5日(金)に出演です。

あ。ひとつ書き忘れてた。本編最後の曲で、なんかこじつけていきなり人の曲を演奏しはじめる、というの、鶴、ワンマンでもフェスとかでも必ずと言っていいくらいやりますが、今回は、光GENJI「ガラスの10代」でした。このツアーのタイトルが、「秘密ツアー ~今日あったことは内緒で~」なので、曲の途中で、「内緒で。言わないで。言わないで……」と秋野が言ったと思ったら音が止まって照明が落ち、いきなりどんくんにスポットが当たり、「♪言わないで~言わないで~」と、アカペラで「ガラスの10代」を歌いだす、というネタでした。大ウケ。
ただ、前の日の渋谷クラブクアトロで、HINTOが同じく光GENJIの「パラダイス銀河」をやった、というのと、妙な符号を感じました。偶然ですが。詳しくはこちら。http://ro69.jp/live/detail/52734

あとひとつ。終演後、関係者へのあいさつの席で、どんくん、「今回はほんとに最高でした。イエモンのコピーもできて……」とコメントし、エマに「カヴァーね、カヴァー。コピーじゃなくて」と、正されてました。(兵庫慎司)
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