まだ公演を控えているので詳しい内容は明かせないが、とにかくセットリストが凄かった。ベスト盤ツアーなんだから当然といえば当然なのだが、代表曲とヒット曲の乱れ打ち。山口が曲名を述べるたびに客席から「うおー!」という歓声が沸き起こり、ほぼすべての曲でシンガロングが発生するという大祝祭空間が描かれていく。しかもライブハウスに比べて空間が広い分、音の響きがハンパない。バンドが鳴らす爆音と客席いっぱいの大合唱が、高い天井に向かって上昇気流を描いていくさまは本当に壮観だった。座席があるため観客ひとりひとりの様子がよく見えるのもよかった。なりふり構わず拳を振りかざす女性、サラリーマン風の男性、さらには小さい体で精一杯ジャンプする子供まで……2階席から見下ろす光景の美しさに、序盤から何度も涙腺がゆるみそうになる。
また、ステージセットも秀逸だった。いつも通りメンバーと楽器以外なにもないシンプルなステージなのだが、ライトだけは大量にある。しかもそのライトの存在感が強烈で、“美しき人間の日々”ではステージ左右に設けられた4台のデッカいサーチライトが3人を執拗に照らしたり、“愛しき日々”ではステージ背後のライトがフラッシュバックのようにビカビカと点滅したりしていた。しまいにはアンコールラストでステージ背後の白いスクリーンがせり上がり、舞台裏に置かれていた木材やコンクリートの壁が剥き出しに! ただでさえ剥き出しのロックンロールの皮をさらに剥いでいくようなその演出が、なんともサンボらしくて胸が熱くなった。
その他、ハイライトを挙げればいくつもある。というか、ライブ全編がハイライトと言えるような、濃密なライブだった。なぜなら最初から最後まで、真っ直ぐで、嘘のない、本気のロックンロールが高らかに鳴っていたから。彼らの伝えたいことはただ一つ、「どんな苦しみや痛みや絶望があろうとも人生は美しい」。ただそれだけだ。それ自体はなんのヒネリも新しさもないメッセージだし、多くのバンドやアーティストが手を変え品を変えながら表現してきたことでもある。しかしサンボマスターの凄さは、それをオブラートに包むことなく、常に120%のテンションで放ちつづける潔さにある。普段は当たり前すぎて声を大にして言えない思いを爆発させるかのように、異常なほどに盛り上がる観客の姿がそれを力強く物語っていた。改めて、稀有なバンドだと思う。なお、このツアーは夏フェスシーズンをまたいで秋の後半戦に続く。そこでも、圧倒的にエモーショナルで熱いライブが繰り広げられることだろう。(齋藤美穂)