WIRE11 @ 横浜アリーナ

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WIRE11 @ 横浜アリーナ - pic by MASANORI  NARUSEpic by MASANORI NARUSE
石野卓球がキュレーター(本人曰く)を務める日本最大級の屋内レイヴ『WIRE11』。13回目を迎えた今年は、国内外から総勢26組のアーティストが横浜アリーナに集結し、トータル約14時間という充実のロングセットの中で最高のパフォーマンスを繰り広げてくれた。フロアは昨年同様メイン・フロア、2Fのセカンド・フロア、4FのLISMOエリアの3つ。さらに今年は、地震の影響もあって恒例だったメイン・フロア上空のオブジェは最小限に留め、四面のVJスクリーンはフロア下のオーディエンスがいない位置に吊るすという安全面&節電もしっかり考慮された設計だ。今年のメイン・フロアのステージは1つで、DJブースはライブセット用ステージの左右にタワーのように設置されて交互に進行。スピーカーはステージ側の上空に3つと昨年より少なく、節電対策でもありそうだが、このレイアウトは個人的に好印象。フロアを囲む形で全面にスピーカーを設置するよりも音の被りや濁りが少なくなるし、音量の問題はスピーカーの近くに行けば解決。ガンガン低音が鳴っている。そして1ステージ制になったことから逆サイドにはシートゾーンが増設され、休みながら音を聴くこともできて、さらに快適な空間となった。では、総勢26組なのでさすがにすべてのアクトはフォローできませんが、以下僕が観たアクトを中心に駆け足でレポートしていきます!

会場に足を踏み入れたのは19:30をまわった頃で、メインには日本勢からDJ TASAKAが登場。先行してプレイしていたSHIN NISHIMURAは見逃してしまったが、DJ TASAKAはミニマル~テックハウスから、ダビーなBlack Roseの“Anthem”などもスピンした幅広いセットで、フロアをアグレッシヴに盛り上げていった。それに続いたダブファイアは、これがまた男気溢れるミニマル一辺倒のプレイで、ここまでストイックに見せられると彼がディープ・ハウス~プログレッシヴ・ハウスの名手ディープ・デッシュとして、ハウス・シーンに君臨していたことをすっかり忘れてしまうほど。徹底してミニマルで脳を研磨するような音の連鎖がありながらも、アッパーにぶち上げる展開ではしっかり歓喜を誘い、オーディエンスを自由自在に煽動する心憎いプレイであった。

一方のセカンドでは、ダニエル・シュタインベルグのDJ。昨年末にリリースした自身の1stアルバム『Shut Up』の勢いそのままにファンキー・グルーヴを紡いでいくセットで、ベルリンのファンク・サイドを象徴するアーティストというコピーにも納得のプレイだ。その後は、メインとセカンドを行ったりきたりしていたが、メインのKEN ISHIIは“Butter Bump”、“Ice Blink”、さらには“EXTRA”とまさにベスト・オブ・テクノ・ゴッド的な大盤振る舞いのセットでフロアを天井知らずに沸騰させていく。これはかっこいいぞテクノ・ゴッド!そして裏のセカンドには、アメリカはカリフォルニア出身、ダニー&ティファニー・パターソン夫妻によるデュオ、レインボウ・アラビアがオン・ステージ。ローファイなエレポップではあるが、人力ドラミングによるリズムは四つ打ちからアフリカン、さらにはダンスホールと無国籍であり、節操のないビート・センスもとてもいい。そこにティファニー嬢の舌足らずのボーカルと浮遊するギターが交錯するとなんとも能天気なサイケデリアが描かれ、こうしてみるとけっこうカオスな展開である。しかも彼女らが所属するレーベルは、理知的なエレクトロニック・ミュージックをリリースするあの<kompakt>というからまた面白い。これから注目していきたいデュオである。

そして22:45、続くメインにはいよいよ石野卓球の登場だ。毎年、卓球のDJプレイはオープニング・トラックが注目されるが、今年は山下達郎のニュー・アルバム『Ray Of Hope』から“希望という名の光(Prelude)”のボーカルのみが流れ、フェードアウトしたところに自慢のハードテクノを投下! ユーモア&グルーヴ、卓球貫禄のプレイは今宵も健在であった。序盤こそGary Beckの“Yes!”などのハード路線ではあったが、Nikola Galaの“The Beginning”のようなテックハウス、さらには言わずと知れたアシッド・トラック“Access”をスピンする。このバレアリックなムードはたまらない・・・。フロアは狂乱状態に突入し、気が付けばフル・セットで踊りっぱなしだ。後半は割りとディープな流れを展開し、ラストは再び“希望という名の光(Prelude)”で締める。・・・さすがだ。一斉にハンズアップしたオーディエンスの喝采を浴びるのであった。そして続くメインは、4年ぶりにWIRE帰還、タイムテーブルでも卓球と仲良く並んだ盟友、ウェストバム。卓球の流れをそのままに、エレクトロに片足突っ込んだようなバキバキのサウンドを展開する。エレクトロといっても昨今のものとは異なる、持ち前のオールド・スクールなエレクトロニック・ファンクとも言うべきトラックを次々とスピンし、オーディエンスの腰をうねらせていった。なるほどこうして聴いていると、ディプロあたりにも通じるバイレファンキとも近いものがあり、ファンクとエレクトロの交錯、その歴史を描き出すようなセットだったように思う。

日をまたいで時刻は1:00を回っているが、この時間帯はメインは1:25よりdOPのライブ、セカンドはすでにベロシマがライブ・アクト中、LISMOエリアの1:20よりagraphというタイムテーブル。フードコーナーで肉巻きおにぎりを頬張りつつ、どれを観るか塾考する。特にdOPは今春の来日を見逃していたのでぜひとも観たかったが、ここでagraph欲が上回り、ダッシュでLISMOエリアへ向った。途中セカンドを通り過ぎた時にはベロシマの“TVG”が聴こえ、息を切らしてLISMOエリアに辿り付くとちょうどagraphのライブがスタートした頃だった。agraphこと牛尾くんは、フレッドペリーのストライプ・シャツに同柄のネクタイという出で立ち。フロアには去年の倍以上のオーディエンスが詰め掛けている。エレクトロニカやIDMとテクノの境界線を揺らぐような音像の中に現れては消える控えめな4つ打ち。展開にはダンス・ミュージック・マナーな「上げる」部分もあるからか(それでもごく控えめにだけれど)、オーディエンスはゆらゆらと身体を揺らせている。彼の音は、レイ・ハラカミのように温かく柔らかであり、まりんのようにストイックでエレガントだった。どこまでもシンプルで、どこまでも無機質な音の連鎖なのに、それらが重なり合うとどこまでもロマンチックな空間が広がっていく。彼の音をWIREで聴けて本当に幸せな気分になった。ここからメインのフロアに戻るのがやや心苦しく感じるほどに。

LISMOエリアから再び高速移動でメインに戻ると、何やらサザンクロスの胸毛を装備し、キャップを被った半裸の怪しげなおっさんがステージ上で奇声を上げている。どうやらdOPのラストには間に合ったようだ。奥行きのある生々しいミニマル、ディープ・ハウスのトラックは超一流。それを下地に半裸のおっさんボーカル、ジョナサン・イレが暴れまわり、捩れたささやき系のセクシャルな声色がオーディエンスをさらにぶち上げる。うわ…なんてdOP無双・・・。なるほど、昨年で言うところの糸巻きチャーシュー、ボンレスハム…といった形容で話題をかっさらったハード・トン枠というわけか。この手のライブ・アクトはWIREにずらり揃ったストイックなアクトの中でも異彩でありながら、新鮮な風を吹かせてくれる。

続くメインは、4年ぶりのWIRE登場、かつて大トリを務めたこともあるフェリックス・クロヒャー。ハードミニマルやハードテクノから派生したジャンル、シュランツと言えばこの人なのだけど(4年前のWIREでは彼のシュランツに踊り狂って肉体を破壊された記憶あり)、近年はややテックハウス、ミニマルへシフトしたようで、フェードイン&アウトを細かく繰り返すなかなかクセのあるプレイ。身体になじむまでに少し時間がかかるも、一端馴染んでしまえば気持ちよく踊れる。今宵はフロアを激しくアジテートしていたクロヒャーがラストにスピンしたのは、Fischerspoonerの“Emerge”。深い時間にも関わらずフロアをしっかりと盛り上げていた。そろそろ脳をガンガンにシェイクするシュランツが聴きたいところでもあったけれど。

と、このままの勢いでメインのレディオ・スレイヴを観ようと思っていたが(ちらっと観た時にはちょうどURの“Transition”をスピンしていました)、個人的に今年のWIREで最も期待していたアゴリアを観るためにセカンド・フロアへ。この人は、ピアニストのフランチェスコ・トリスターノをサポートしているし、音源を聴けばシンセ・ストリングス、そしてピアノやホーンなど生楽器のループを活かしてスケールを描いていくタイプなので、DJもメランコリックで柔らかなセットを予想していたが(それだけにWIRE色に合うかどうかもまた興味深かった)、しっかりとWIREに照準を合わせたアゲアゲなセットであった。序盤はスネア・ロールを基軸としたトラックを多用してフロアを着火させると、所々にファンク&ディスコ、アシッドな展開を織り込みながら畳み掛けていく。中盤以降にはお得意のピアノネタを駆使していくあたりに、彼に期待していた持ち味が見られたこともよかった。常にタンテやミキサーを凝視していじくり倒すタイプではなく、ピンと胸をはった姿勢のよいスタイルでプレイし、常にオーディエンスをニカッとした笑顔で見つめている。彼のようなタイプはスピンするトラックはもちろん、自らの動きでフロアとの熱を循環しコミュニケートするので見ているこっちも楽しくなるプレイだろう。

そしてアゴリアでギリギリまで踊り倒した後は、カール・クレイグのメイン・プロジェクトの1つ「69」によるライブセットを観にメインへ行く。おお、やはりものすごい数のオーディエンスに圧倒される。スクリーンにはグリーンの幾何学模様。まずはミニマルなトラックでゆっくりと浮上し、ステージに姿を見せないカールの肉声による10分近いマイクパフォーマンス。程なくして、ブースからにょきっと姿を見せたカールは、黒いパーカーのフードを被って白い面を装着している。トラックも徐々にうねりを見せていくものの、緩急をつけたハイハットとドラムロールを淡々とループさせ、キックを出し惜しみしてフロアを焦らしていく展開だ。しかし、25分を超えたあたりでようやく本領発揮。ダンス・ミュージックにおけるビートと反復。ビートに頼らず、その反復の催眠性と陶酔性をより純粋な形で梳き出したセットだったように思う。INNERZONE ORCHESTRA、BFC、Psyche、Paperclip Peopleと様々な名義を使い分けるカールだが、その中でも「69」はもっとも実験的な形態だ。69名義の“Jam The Box”や“My Machines”のような強靭なビートも確かに聴きたかったが、終盤には“desire”もプレイしてくれたし、カールが描いたシンセを重層的に編みこんだサイケデリアは美しい陶酔の余韻を残していった。昨年の『WOMB ADVENTURE』で見たカールのDJセットとは対極にありながらも、彼の野心的な創造性が爆発した素晴らしいステージだった。

今年のWIREも残すところ後2組。メインはレン・ファキ、セカンドは田中フミヤがトリである。カールを引き継いだレン・ファキは、朝の到来を告げるようにFUSE(リッチー・ホゥティンの別名義)の“Train Trac”をドロップし、爆音サイレンでフロアを叩き起こしていった。ここで連れの友人から「田中フミヤは“サウンド・オブ・サイレンス”でスタートした!」というメールをもらい、すぐさまセカンドへ。固めの低音はしっかりとでているが、耳をマッサージしてくれるような心地良いパーカッシヴのミニマル、気持ちよく踊れるディープ・ハウス。身体を大きく揺さぶらずともビートが体に自然となじむ。時間帯を考慮しながらも、しっかりとフロアを沸騰させるセットはさすがのひと言。にしても、彼はいつも肩を斜めにスウィングしながら実に楽しそうに、セクシーにプレイする。(ボブっぽいヘアースタイルのフミヤさんはちょっと萌えの要素ないですかね?)彼のアルコールもいつも通りハイペースだ。(次から次へと新しいお酒がリロードされる状況)終盤には先刻プレイしていたアゴリアも駆けつけ、ブース上でハイタッチしたのは今宵のセカンドのハイライトだろう。そして再びメインへと戻り、レン・ファキのラストを見届ける。自身がリミックスしたPfirterの“The Dub Track”などを挟みつつ、終盤にはローラン・ガルニエの“The Man With The Red Face”をスピンし、フロアを大揺れに揺らしていった。彼のオーラスは、ミスティカルで眩いシンセと哀愁系のセクシャルなギターフレーズが交錯するDjuma Soundsystemの“Les Djinns”。焦燥と高揚を限界まで引き上げる美しいフィナーレであった。

WIREはテクノが告げる夏の終わりである。と書きながら赤面しそうになるけど、僕はトリのアクトが近づく度にいつもそんな風に思う。あといくつステップを踏んだら夏が終わるのだろう…と。フロアは朝日がとっくに昇った世間を横目に、7時を回ってもなお持てる体力を搾り出して踊っている。最近では、テクノの高齢化なんてことが度々言われるけれど、WIREに来れば若い人もテクノを求め、足を運んでいることがはっきりとわかる。(と同時に自身も着々と年を重ねているわけですが)翌週には『METAMORPHOSE』、その翌週には『TAICOCLUB camps』、さらには『ラビリンス』とフェス、レイヴはまだまだ続いていくけれど、『WIRE』はやはり日本のダンス・ミュージック、そしてテクノを彩るかけがえのない一夜だ。そして次の夏へと向かっていく一夜だ。そんな一夜を求めて、僕はやはり来年もこの場所で踊っていると思う。そして、電気グルーヴのマネージャー、ミッチーさんがツイッターにアップした出番直後の卓球氏、綾波レイ・コスプレでかました満面の笑み(→http://twitpic.com/6c2oay)と首にかけられたレイの花、彼がスピンした山下達郎の“希望という名の光(Prelude)”の歌詞「a Ray Of Hope For…」に秘められた彼なりのメッセージは、きっとオーディエンスにも届いていることだろう。(古川純基)
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