山中湖畔で8月を締めくくる、というスタイルが定着したスペースシャワーTV主催のフェス=SWEET LOVE SHOWERは、この2011年も大成功のうちに幕を閉じた。2日間開催の2日目の模様をレポートしたい。前日は雨天に見舞われてしまったものの、2日目は午前中に小雨がパラついた程度であとはほぼ終日、涼しい風が吹き抜けるしのぎやすい天候に恵まれた。雲が出ていたので残念ながら富士山の御姿を望むことは叶わなかったけれども、山中湖と美しい山々のパノラマ、そこにうっすらと雲がかかった幻想的な光景は、これはこれで素晴らしい。SLS 2011公式ホームページでは既にセット・リストを含めた各アクトの詳細なレポートがアップされているので、以下、「観ようと思えば全アクトが観れる」SLSならではのステージ配置とタイムテーブルに則り、駆け足で2日目の模様を振り返っていきたい。「なんでこの曲に、このMCに触れないんだ」という部分も多々あるかと思いますが、その辺りは何卒ご容赦を。
まずは山中湖畔の淵も淵に設置されたWaterfront stageにコトリンゴが登場。「早起きが三文の得になるよう、頑張ります」と演奏をスタートさせた。ギター&コーラスでサポートを勤めるのは、以前からベーシストとして彼女とともにプレイしている村田シゲ。演奏はもとより、まるで夫婦漫才のように息の合ったMCでのサポートぶりもお見事だ。ザ・バグルス“Video Killed The Radio Star”のカバーではオーディエンスに間の手のハンド・クラップを求めながら緊密なライブ空間を形作ってゆく。湖面にはコトリンゴのウィスパー・ボイスに引きつけられたカヌーやカヤック、ジェット・スキーの人々も集まり、最後の“ふたり”で一羽の白鳥(遊覧船ではなく本物の)までが寄ってきたのは出来過ぎなぐらい美しい光景であった。Mt.Fuji stageにオープニング・アクトとして登場した高橋優は、バンド編成のダイナミックなアンサンブルの中に雄々しくエモーショナルな“素晴らしき日常”の歌声を轟かせてスタート。虚飾のない、素っ裸の歌でコミュニケーションを計る。「幸せだな、とか、今、自分こそが最高だな、と思える瞬間が増えるように気持ちを込めて歌います」と披露された“福笑い”まで全4曲、短い時間ながら彼の持ち味をきっちり伝える熱演であった。そしてLakeside stageのトップ・バッターはTHE BAWDIESだ。サウンド・チェックの段階でROYは「朝ロックいきますか! 皆さんの頬にビンタ張るぐらいのつもりでやりますんで!」と意気込みを迸らせている。序盤は小雨が降りしきる中での、それでもオーディエンスがばんばかと跳ね回るロックンロール・パーティだ。“KEEP ON ROCKIN’”ではボ・ディドリー・ビートのハンド・クラップだけをフィールドに残し、それに合わせて演奏を再開するというファンを信頼し切ったプレイも見せる。その後ROYが「4人中3人が二日酔いですか?」とチクリ。「ロックンロールですから! 明日のライブは朝早いから、とかダサいでしょう!?」と応酬するTAXMANに、ROYは「健康ロックだって、毛皮のマリーズの志磨くんもあの顔色とルックスで言ってましたよ!」とやり返す。まあTAXMANの気持ちも分からなくはないし、前日にクロージングDJを務めたから、という理由もあるのだが、自慢の喉のコンディションをこの日も万全に仕上げていたROYは立派だ。
正規ステージとして設営されたForest stageのトップはOKAMOTO’S。ユニオン・ジャックのジャケット姿が華やかなオカモトショウがマイクスタンドを高く掲げ、バンドは太いグルーヴのロックンロールを炸裂させる。“笑って笑って”では《SWEET LOVE SHOWERでぶちかませ》と歌詞を変えてオーディエンスを焚き付け、“Baby Don’t Stop”のフックでフィールドに拳が突き上げられた後にはショウ、「今年で2年目です。平和的でこのフェスはすごく好きです。昨日、岡村ちゃん観ちゃったからさ、気合い入ってるんだ俺たち!」と語る。9/7リリース予定のアルバム『欲望』も楽しみだ。先ほどまでの雨はすっかり上がって、Mt.Fuji stageで突破者としての実力をまざまざと見せつけたのはONE OK ROCK。ボーカリストのTakaは「この素晴らしい景色と、素晴らしい音楽と、皆さんの音楽への情熱のおかげで、少しずつ晴れ間が覗いて来ました!」と語りながら、激しく交錯する重量級アンサンブルの中で力強さと抜けの良さを兼ね備えた歌声を響かせる。ワンオク・プロデュースのかき氷がまったく売れていない、という話は笑ったが、これは天候の不運もあるだろう。「皆さんの声がステージに届いて、初めて出来る曲になってます!」という“アンサイズニア”の大きなコーラスが広がるフィールドは壮観であった。そしてLakeside stageに登場したくるり。岸田繁は「ほなら、くるりが富士山、見したります……どしゃぶり降らせたらぁー!」と意味不明の意気込みを告げて新曲“IPPO”をスタートさせる。カラフルなバンド・サウンドにトボケた感じの様々な思いが交わるナンバーだ。続いては“リバー”と、歌詞に雨が登場する曲が並んでいるのが可笑しい。「前回出演したとき、めっちゃ雨降らしてもうたんですよ。今回も呪いをかけておくんで、雨具の用意をしといてください」とか言っているものの、その直後に届けられるのは“ワンダーフォーゲル”、“ばらの花”、“ブレーメン"という珠玉の名曲たちだ。今の5人のくるりで届けられる音や歌のハーモニーの豊穣さは実に素晴らしく、“ブレーメン”の迫力のアウトロがまたすこぶるカッコいい。ラストは“奇跡”。曇りがちな天候すら味方につける、見事な選曲のステージであった。
Forest stageにはアルカラが登場し、既存のロックが内蔵からひっくり返るような超絶アンサンブルを展開する。反射神経が剥き出しになって、歌詞ごと未知の領域にリーチしてしまうようなパフォーマンスにオーディエンスは瞬く間に沸騰。“チクショー”ではフロントマン稲村、「昨年このステージに出たとき、僕は宣言しました。来年はメイン・アクトで出る、って。どうよ? おお、じゃないやろ! こういうときはYES,WE CANやろ! 来年は向こうの、東京ドーム・ステージでやるから、何だったら向こうで1年間、待っててもらっても。もし1年間待っててもらって、来年僕たちが出なかったら……チクショーチクショー!」と中断していた演奏を突然再開させるという爆笑&驚愕の1コマもあった。そんな彼らに見入っていたらMt.Fuji stageのSEKAI NO OWARIがスタートしてしまって、2曲目の“虹色の戦争”を披露しているというところ。ギタリストの中島が「富士山が見えないですねえ。去年も見えなかった。来年もやりたいです」という早くもリベンジの意志が混じった希望を表明している。リリースされたばかりのニュー・シングル『INORI』からピック・アップされた“不死鳥”では、ギタリスト中島のカッティングが踊る中に諸行無常を見つめる深瀬の少年性を残した歌がたなびく。名曲“幻の命”では藤崎のピアノがドラマティックな活躍を見せ、この曲の深い詞世界を後押しした。そして“天使と悪魔”では「世界を変える方法」を暴き、この上ない親切設計のポップ・ソングとして提示してみせる。持ち時間も演奏曲も多くはないが、SEKAI NO OWARIというバンドの力が濃縮されたようなステージであった。さてLakeside stageには真っ赤な髪の難波章浩 –AKIHIRO NAMBA-がバンドと共に立つ。まるでサッカー・スタジアムにいるような雄々しいコーラスが浴びせかけられる“PUNK ROCK THROUGH THE NIGHT”を経て、凄まじかったのは“MY WAY”、ハイスタ“STAY GOLD”、ダフト・パンク“ONE MORE TIME”という難波ヒストリーのダイジェスト版みたいな楽曲群の連打である。ファストなパンクで転がり続け、もうこの歌の1フレーズがパンク魂だ、という熱演ぶりにクラウドサーフも次々と舞う。「人生楽しんでる? そうだよな。でも、怒りのエネルギーってのもあるわけじゃん? それで1曲作ったんだ。俺たちの怒りはレベル7を越えた、って曲」と新曲“LEVEL 7”によって今を生きるパンク表現者としてのスタンスもきっちりと見せてくれた。“未来へ〜It’s your future”がラスト1曲だと言っていたのに、更にハイスタ“TURNING BACK”を詰め込んでしまうサービス精神もさすがである。
Forest stageでは、サポートにギタリストとキーボード奏者を迎えた5人編成のWEAVER。杉本の瑞々しいピアノの音色と歌声が、波紋のようにフィールドに広がる。この2日目は、コトリンゴ、SEKAI NO OWARI、WEAVER、そして後の上原ひろみと、屋外ステージに響き渡るピアノの音色が実に印象深い1日になった。終盤2曲の“Shine”と“管制塔”では、杉本の「もっと盛り上がっていきますか!」という言葉を合図にロックな手応えのアンサンブルを発揮する。フィールドでは一斉に腕が上がり、オーディエンスは全身でサウンドを浴び続けるのであった。続いてMt.Fuji stageではSISTER JETのパフォーマンス。ワタルSの甘いボーカルと、骨太にして鉄壁の3ピースのアンサンブルが絶妙に配合されたパーティ・ロックンロール・ショウだ。つまり、本来なら手垢のついたロックンロールというフォーマットを、青春のバック・トラックとして永遠に、フレッシュに鳴らすことが出来てしまう。グッド・メロディが書けてしまって仕方がない、それをみんなに聴いてほしくて仕方がない、という相変わらずの楽しそうな素振りでカバーや新曲を交えながら次々に楽曲を繰り出していった。そしてLakeside stageには、SLS4年連続出場のNICO Touches the Wallsが登場。“妄想隊員A”に始まってフロントマン・光村が「ぶっ壊れろー!」と煽り立てる“Broken Youth”で一気に爆発力を見せつける。凄い。「SWEET LOVE SHOWERの人も、じゃあ晴らしておいて、とか軽く言ってくれて、今年は雲の手厚い歓迎を受けてますけれども。皆さんも気持ちいいんじゃないですか?」と光村が笑っている。“THE BUNGY”で裏拍の手拍子を要求したり、新曲“手をたたけ”で間の手を取らせたりと、オーディエンスとの一歩踏み込んだ音楽的交流にも余念がない。シスジェといいニコといい、作風の変化というより実力が底上げされている感じのライブ・アクトの成長を観ることができるのは、とても感慨深い。
さて、この日2度目となるWaterfront stageには、藤原ヒロシとYO-KINGによるユニット=AOEQが登場だ。いきなり藤原が「セッティングに手間取ったんで、これが最後の曲になります」と笑いを誘って、それぞれがアコースティック・ギターを手に穏やかでマイペースな歌のハーモニーを届けてくれる。個人的に移動が気になってしまって“pink cloud”と“ミスター・ロンリー”の2曲しか聴くことが出来なかったが、湖畔にゆったりとした時間が流れたひとときだった。そういうわけでForest stageのavengers in sci-fiも残念ながら僅かな時間しか観ることが出来なかったのだが、エフェクトを噛まされたロック・サウンドが四方八方に弾け飛ぶアヴェンジャーズ本来のスタイルの中でも、長谷川の叩き出す強力なトライバル・ビートを中心にバンドの音像がギュッと収束して届けられるような新曲の威力は凄まじかった。引き続き急ぎ足でMt.Fuji stageに向かい、日本初披露となる上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat.アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップスのパフォーマンスへ。アンソニーは5弦ベースを操る凄腕セッション・プレイヤーであり、サイモンはジェフ・ポーカロ亡き後のTOTOを支えてきた名ドラマーだ。が、とにかく上原の自由闊達でエモーショナルなピアノに度肝を抜かれる。ダンス・ミュージック成分をグランド・ピアノの上に置かれたキーボードで演出しつつ、見せるためではなく音楽の瞬間の中を生きているから衝動的にそうなってしまうのだ、というふうに足を踏み鳴らし、或いは椅子の上にその足を乗せてしまう。アンソニーとサイモンも楽しそうに上原の呼吸を読み取りながら、ときに挑発して凄まじいアドリブの応酬へと持ち込む。最も扇動的に、かつスリリングに展開した“XYZ”まで4曲を披露し、3人は肩を組んで大きな喝采の中に頭を下げ、去っていった。そしてLakeside stageには、こちらもニコと並んで4年連続・最多出演となるサカナクションが登場。フィールドに溢れかえった期待に正面から応える、豊かな情感に満ちた最高のパフォーマンスを披露してくれた。もう、シンセ・ポップ混じりのダンス・ロックがまるで壮大なシンフォニーとして届けられてしまうようなこの完成度はどうだろう。作品でもステージでもより多くの人に届けたいというポップな意志と、ソングライティングやサウンドで冒険しようとする意志との間に、まったく妥協がない。ひたすら公倍数を求め続けるように、サカナクションは活動を続けている。山口は、「9/28に『DocumentaLy』というアルバムをリリースするんですが、まだ出来ていないんですよ」と冗談めかして話していたが、この音楽の快楽の奥にある苦闘は笑い事ではないはずだ。「レコーディングで全員、閉じこもっているわけですよ。なので今日は皆さんと一緒に発散したいと思います」と舌を突き出しす山口。“『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』”、“ルーキー”“アルクアラウンド”、メンバーが見えなくなるほどのスモークが炊かれた“アイデンティティ”と、真にキラー・チューン連打ではっちゃけるメンバーの姿も印象的な、熱いステージであった。
いよいよ残すところは出演者3組。Forest stageのアンカーは[Chanpagne]だ。“For Freedom”を皮切りに思う様ロックンロールを転がし、一気にフィールドに流入するオーディエンスを弾けさせる。まったく、なんという機動力のロックンロールだろう。ロックの歴史の重みに絡めとられていない、ロックンロールを100%、自分たちの武器にして振り回している。川上が「SWEET LOVE SHOWER、訳すと、甘い愛のシャワー。ちょっとエッチ。そういうの好きです。次は新曲ですけど、最初からみんな歌えると思うんで」と語って新たなアンセム級ナンバー“言え”を披露し、叫びともつかないシンガロングが広がっていった。スリリングに舞踊るリフの“Cat 2”、そして迷いをくぐり抜けてゆくような日本語詞が印象的な“city”と、堂々のトリを務めていた。一方、Mt.Fuji stageには毛皮のマリーズが登場。[Chanpagne]とは打って変わって、こちらは歴史から受け継いだロックンロールのロマンの、骨と随だけをありったけの思いを込めて披露する。別に書かなくてもいいかも知れないが、ドラム・セットの中には2日間、来場者の誰もが待ち望んでいた富士山が収まっている。「こんな素晴らしい夜に相応しいナンバー、僕たちの最も新しいナンバー」と志磨が告げて“HEART OF GOLD”もプレイされた。つくづくロマンチックで、悲しくて、無敵のロック・バンドだ。“ビューティフル”で「さあ、歌おう!」と歌詞をオーディエンスに丸投げしてしまう姿は、真にトリに相応しい貫禄であった。さあ、この日の、そしてSLS 2011の2日間を締めくくるべくLakeside stageに登場した大トリは、サンボマスターである。フェスでもお馴染みの狂騒ロック・チューンの数々が投下され盛り上がる中で、やはり今回のトピックとなるのは「ここから300kmぐらい北に行ったところに俺の故郷の福島があって、福島は今、大変なことになってる。福島だけじゃない、日本中が大変なことになってる。山中湖も大変なことになってる。この曲は俺が故郷のことを思って歌うけど、みんなはみんなの故郷のことを思って聴いてくれ。俺は歌で、その思いをひとつにしたいんだ!」と山口が語って嗚咽を押さえ込むようにしながら歌った“I Love You & I Need You ふくしま”だろう。そこから「ここにいるみんなには希望のにおいがする」とソウルフルな“あの鐘を鳴らすのはあなた”へと連なる一幕は感動的であった。アンコールで披露された“歌声よおこれ”まで、祈るような思いを目一杯の爆音で鳴らし、歌い、今を生きる人々を繋ぎ止める。そういう役割を引き受けてみせた、大トリのサンボマスターであった。ステージ上空には花火が大輪を咲かせ、こうしてSWEET LOVE SHOWER 2011は幕を閉じた。
なお、今年の2日間の模様は、1日目を10/15(土)と16(日)に渡って、また2日目を10/22(土)と23(日)に渡って、それぞれ21時から、スペースシャワーTVで放送される。参加した方も参加できなかった方も、2日間を振り返る4夜の放送予定を、ぜひ楽しみにしていて頂きたい。(小池宏和)
SWEET LOVE SHOWER 2011(2日目)@山中湖交流プラザ きらら
2011.08.28