『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL

『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL
2006年9月の日比谷野外大音楽堂公演から約2年ぶり(この時はTHE BACK HORN)、凛として時雨の自主企画イベント『トキニ雨』。今回の同イベントは、福岡、大阪、東京と3公演のツアー形式で行われ、福岡にはストレイテナー、大阪にはBOOM BOOM SATELLITES、そして今夜のファイナルにはCHARAをゲストに迎えての開催となった。両者ともこの後にツアーが控えているしウォームアップ的な要素もありそうなものだけど、終わってみればトータル2時間強、実に濃密で凝縮された素晴らしいステージであったように思う。

まずは、オンタイムの18:00きっかりにCHARAがオン・ステージ。今夜はギターに車谷浩司を迎えた6人のバック・バンドを従えた編成。CHARAが今夜のオープナーに選んだ曲は“ゆらしたがる”だった。エレクトリック・ビートを基調としたCD音源は、ツインドラムが叩き出す8ビートの生々しいグルーヴへとアレンジされ、そこにCHARAのハスキーなウィスパー・ボイスが乗ってゆったりと会場を包んでいく。続く“Junior Sweet”のイントロでは「CHARAです。始めましての人も…。素敵な男子がいっぱいいるね」と一言。AORとレゲエの出会いのような緩やかなビート、バック・バンドとのコンビも盤石である。リズミカルなピアノ・リフが印象的な“Rachel”では、シティ・ポップ調の曲をジャジーにスウィングさせ、バラエティに富んだアンサンブルでオーディエンスを沸かせていた。そしてフロアが至福に満たされた“Swallowtail Butterfly~あいのうた~”では、祈るような歌声がバンド・アンサンブルのはるか上を飛翔するように響き渡っていく。コール・アンド・レスポンスとハンドクラップを曲のグルーヴとして取り込み、音源よりややテンポアップした“やさしい気持ち”では実に楽しそうな表情を見せるCHARAだった。中盤では11月にリリースされるミニ・アルバムから“Oshiete”と“Feeling Feeling”も披露。特に“Oshiete”は、重たく歪んだUSオルタナ調、ローファイなUSインディー調、という2種のギターの音色が交錯するようで、そこに屹立するCHARAの声が何とも形容しがたい不思議な高揚感をゆっくり立ち上がらせる楽曲だった。
『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL
終盤のMCでは「リラックスしてね。凛としてさんの時はすごい照明とかくるから。なに喋って欲しい?」とオーディエンスに問うとフロアから「時雨好きー?」の声が。これには「ラジオで流れてきた“I was music”で好きになったの。日本語の乗せ方とかすてき」と話していた。「Zipperで対談したの。ボーカルの人はこなかったから今日が初対面。ミステリアスだよね、来ないなんてミステリアス!って思った!」という発言にはフロアも大爆笑。その後はスペインのサグラダ・ファミリアで主任彫刻家を務める外尾悦郎の本を読んでインスパイアされ、子供向けに作ったという新曲“伝言”を演奏。CHARAはアコースティック・ギターを爪弾き切実に歌っていった。いつか野外で聴いてみたくなるオーガニックな手触りの楽曲でとてもよかった。

自分の選んだ音楽への誇り、喜び、そして愛情。それをオーディエンスとコミュニケートしながらひとつひとつ大切に伝えていくということ。それはいつからか空虚な無力感が空回り続けるようになった世界にとっては眩しく響く。しかし、真のソウル・ミュージックはいつだってそのように作用し、伝わっていったはずだ。CHARAの音楽にはソウルが宿っている。ラストは“Dark Candy”。メルヘンな鍵盤に引っ張られる童謡のようなアンサンブル、《盗みあう/見つめ合う》と反する感情が交互に響きわたる歌声。愛も喪失もすべて受け止め、音楽に昇華させていった彼女のピュアネスが聴き手の心を緩やかに温め、解放していった。彼女の長いキャリアにおいて、手繰り寄せてきたソウルあるいはポップスは、この時代においてもなお、いや以前にも増して生命的で根源的パワーを放っていると思う。新旧のCHARAが凝縮されたセットを、こんな短い時間で堪能できた今夜のオーディエンスは本当に幸せの一言につきるだろう。素晴らしいアクトだった。
『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL
CHARAが終わるといつものようにtoeの“I dance alone light on light mix”が流れ、時雨のライヴ前の空気がフロアを満たしていった。15分の転換の後、場内が暗転。大歓声に沸き立つフロア。そしてリアレンジされた“夕景の記憶”をSEに、TK(Vo/G)、345(Vo/B)、ピエール中野(Dr)の3人がステージに姿を現した。1曲目は“a symmetry”。静と動のコントラストが折り成すカタルシスの爆発、激しくも鮮やかな音像がフロアを満たしていった。7月のホール・ツアーでは、終盤のキラー・チューン連打の一翼を担っていたこの曲がいきなりオープナーにプレイされたことに驚いた人も少なくないだろう。TKのあどけなさと狂気が入り混じる絶叫と345ナチュラルなハーモニーの掛け合いが、必殺のギター・リフでズタズタに切り裂かれていった“テレキャスターの真実”。ピエール中野の凄まじい手数を誇るドラミングから、リズムやリフのパターンが次々に変化する彼らの方法論がこれでもかと敷き詰められた“COOL J”。3人でリフを鳴らし、3人でリズムを練り上げていくような強靭なアンサンブルは、ハードコア、メタル、スラッシュ、マスロック、グランジといった影響を感じさせながらそのどれにも当てはまることはない。「ロック・サウンドの未来」、「未知のハイブリッド・ロック」などと形容される時雨の未来はまぎれもなく今現在のことである。
『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL
『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL
『トキニ雨♯13 ~Tornado Edition~』 @ TOKYO DOME CITY HALL
「凛として時雨です」とTKが一言つぶやき、大歓声に揺れるホール。続く“I was music”ではTKと345の鮮やかなボーカル・リレーが決まり、“DISCO FLIGHT”ではハイブリットな音像の中で眩いTKのギターとピエール中野の硬質なドラムが格闘しながら無限のサウンドスケープを描いてゆく。回転する白色のライティングは、拳を振り上げてジャンプ・アップするフロアを美しく照らしていった。いつも思うことだが、譜面に起こしたら気が狂いそうになるくらいのこれらの音像はただ衝動的に鳴らされるわけでも、圧倒的な音の情報量で誤魔化されているわけでもないということ。しっかりと統率され、一体となったスペクタクルなアンサンブルとして放射されている。ライヴハウスだろうと、ホールだろうと、アリーナだろうとそれは揺るぎない。時に勇ましささえ感じるほどに。今夜の外の空気とシンクロした“秋の気配のアルペジオ”では、ボーカルに絡みつくような大音量のアルペジオが揺らめいていった。終盤のギター・カッティングと同調するTKと345のユニゾンも素晴らしい。

“illusion is mine”、“Can you kill a secret?”、そして“Telecastic fake show”、“感覚UFO”と新旧織り交ぜた鉄板の流れからラストに向かってバーストしていく時雨。フロアも腕を突き上げ、頭を振り、体を揺さぶり、クラウド・サーフ、モッシュ、ジャンプ、ハンドクラップ(そしてステージをじっと凝視し続ける者も)といった持てるアクションのフルコースでその高揚を表現し、次元の違うエモーションが何度も何度も循環し巨大なうねりとなっていった。そしてTKが「楽しいですね、こんばんは。『トキニ雨』に来てくださってありがとうございます」と感謝を告げる。「一緒にやってくれたCHARAさんありがとうございます。CHARAさんとは以前Zipperっていう雑誌で悩み相談をしたんですよ。ほんとは中野さん、ピエール中野さんだけ呼ばれたんですけど、高校の時からファンだったのでついていっちゃいました。夢のようでした」と語ったのは345。彼女恒例の萌え萌えな物販紹介を済ませると、ライヴもフィナーレへ。

ラストは春~夏のホール・ツアーでは演奏されることのなかった久々の“傍観”である。腕の一部のようにテレキャスターを弾き狂い、叫ぶTK。その小さな体を大きく揺さぶり、重たくも深淵なベース・ライン蛇行させる345。スティックを自らの指のように操りながら超人的なドラムアビリティを見せ付けるピエール中野。彼らのハイブリットな音像が、歌、ギター、ベース、ドラムという至極オーソドックスなフォーマットによって構成されているという事実は、過去のあらゆるロック・サウンドのフォーミュラをも突き抜け、ひたむきに音を研ぎ澄ませてきたその究極系としか言いようのないサウンドとして、今夜も広大なホールの隅々にまで届いていた。アルバムも散々聴いた、ライヴもこれまでに数多く見てきた。しかし見る度に新鮮で、こちらの想像や予測を大きく超えてくる。新たな音の衝撃を更新し続け、他のバンドがブレーキをかけるところを躊躇なくアクセルを踏み込んでいくことで巨大なポピュラリティーのうねりを産み出し、大きな支持を獲得していくこと。本当に凄まじいバンドであると思う。3人がステージを去った後も鳴り続けるフィードバックギター。オーディエンスはその残響が完全に消え去るまでステージを凝視し続け、音に浸っていた。

CHARAは11月から、そして時雨は早くも明日9月27日からそれぞれ全国ツアーをスタートさせる。今日のライヴを観れば、どちらも相当な完成度。両者の音楽は互いの方向性は違えど何にも恐れを抱かずに、真っ直ぐ純粋な想いで音楽に向き合うという真摯な姿勢が、言葉では説明できない共鳴を表出させていたように思う。両者の対バンツアーが組まれても何の不思議もないくらいに。ぜひそれぞれにライヴに足を運んで欲しい。なお、今夜はピエール中野氏によるヴァイヴスなMCタイムはなし。彼のtwitterによれば、少し前から股関節を痛めているがツアーは問題なく、整体にも通っているとのことなので一安心。(→http://twitter.com/Pinakano)体には気をつけてくれ!ピエール!ツアーでは、彼のヴァイヴスなMCを聴けることも楽しみにしています。(古川純基)

セットリスト
CHARA
1.ゆらしたがる
2.Junior Sweet
3.Rachel
4.Swallowtail Butterfly~あいのうた~
5.やさしい気持ち
6.Oshiete
7.Feeling Feeling
8.伝言
9.Dark Candy

凛として時雨
1.a symmetry
2.テレキャスターの真実
3.COOL J
4.I was music
5.DISCO FLIGHT
6.秋の気配のアルペジオ
7.illusion is mine
8.Can you kill a secret?
9.Telecastic fake show
10.感覚UFO
11.傍観
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする