ユニコーン @ さいたまスーパーアリーナ

満員のさいたまスーパーアリーナ狭しと渦巻く熱気を噛み締めながら、「えー、昨日に引き続き早いスタートですけど……今日はさらに早いですけど、たくさん来ていただいてありがとうございます!」と、いつも以上にのんびりした調子で語る奥田民生。「4時スタートってどうなんすか? 4時にしたほうが、遠くからの人も来て帰れる、っていうことなんですけど……こっち的にはリハーサル気分ですよね? もしくは、トリじゃないフェス?(笑)」。そんなMCにげらげら笑いながらも、オーディエンスの1人1人が今この瞬間に立ち会えていることの高揚感を全身で謳歌していることがリアルに伝わってくる。5月26日・三郷市文化会館を皮切りに、ホール・ツアー(&仙台サンプラザホール振替公演のZepp Sendai×2公演)+アリーナ・ツアーという巨大ツアーで全国をサーキットしてきた『ユニコーンツアー2011 ユニコーンがやって来る zzz…』も、さいたまスーパーアリーナ2デイズの2日目となるこの日で39本目、あとは広島グリーンアリーナと大阪城ホール×2の3本を残すのみ。「こんな大きなところに集まったからには……終わるまではいてください!(笑)」(民生)という脱力コールすら最高の選手宣誓のように響かせてしまうほど鍛え上がった「自然体で最強」モードとアルバム『Z』&ミニアルバム『Z II』の楽曲群のパワーが完全に一体となったこの日のアクトは、終演までの3時間弱のどこを切っても最高のロックと歌とエンタテインメントで満ちていた。

“頼みたいぜ”“さらばビッチ”“オレンジジュース”“Z LIFE”といった『Z』の楽曲が軸を固め、解散前のナンバー数曲がスパイスとして機能して……というのはツアー初日の三郷で観た時からそうだったが、そこに“いちじく”“レディオ体操”など『Z II』の最新楽曲群がでっかい彩りを添えて「完成形」となったセットリストの威力! 広大な空間を貫いて僕らの期待値の遥か上を飛んでいく絶唱をみせた“ライジングボール”、火の玉の特効炸裂を遥かに凌ぐ爆発力を見せつけた“オレンジジュース”、会場丸ごと弾むようなシャッフル・ビートで聴く者の心も身体も開かせまくった“レディオ体操”をはじめとする『Z』『Z II』のメロディの強靭さとスケール感が、このアリーナ・クラスの巨大な会場こそまさにジャスト・サイズ!と思わせるタフな訴求力とともに展開されていた。そして何より、この日のユニコーンを観ていて強く感激した点は、あらゆる要素のグランド・クロスによって生まれた「奇跡の名演」が、決して一夜限りの儚い「夢物語」ではなく、ユニコーンがユニコーンである限り再現可能な「現実」のエンタテインメントであるということだ。

いつ壊れてしまうかわからないノー・フューチャーな表現だからこそ今この瞬間が素晴らしい――というロックの美学とはまったく異質な、鉄壁のロックンロール・ワンダーランドだからこそ味わうことのできる熱狂と祝祭感。それを描き出すために、最高の楽曲とパフォーマンスすら凌駕するほどに自らのキャパシティを拡大してみせる……という今のユニコーンの5人の闘い方が逆に、他の誰にも真似のできないロックの強度と輝度を生んでいた。「今しか観れない」という付加価値には目もくれず、それこそディズニーランドに何度も訪れたくなるのと同じく、観終わった瞬間に「また観たい!」と思わせるでっかい魅力を作り出そうとする意欲と圧倒的なサービス精神が、“WAO!”でのテッシー(手島いさむ)&EBIのワイヤー・アクションW飛翔演奏(!)や、EBIアコギ弾き語りを他の4人が段ボール・パーカッションでちゃかぽこちゃかぽこ盛り立ててみせた“いちじく”、民生/阿部/EBI/川西の演奏に乗せて「DJ TESHIMA」がファンの質問に片っ端から答え倒す“手島いさむ大百科”……といった数々の場面からあふれんばかりに滲み出してくる。

“WAO!”の後、阿部義晴の「今聴いていただいた曲は、全米No.1ヒットの“星降る夜にディスタンス〜キミの裸にサスペンダー〜”!」というコールに「裸にサスペンダー……どこでとめるんですか?」と素でツッコむ民生。「昨日も言ったんですけど、こんなにいっぱいの人を見るのは2年ぶりです! あ、昨日もか(笑)」と超天然MCをカマすEBI。“水の戯れ〜ランチャのテーマ〜”の後で「川西さんが手拍子煽ったもんでね、すごくやりづらかった! 手拍子ってさ、やってくれると盛り上がるじゃない? でも、あんまりアテにしちゃだめよ。みんなヘタだもん!(笑)」と愛情をこめて満場のオーディエンスをディスる民生。「えー……テッシーが総選挙でセンターになったので、テッシーが『やりたい』と言った通りの格好になりました」という民生の言葉に「私のことを嫌いでも、ユニコーンのことは好きでいてください!」とまんまAKB48なMCで応えるテッシー。“SAMURAI 5”でのお馴染み「阿部義晴ショー」前、困り顔のアンパンマンに扮して「(弱々しい声で)ゼ〜ッ……力が出ないよ」とすり寄る阿部に苦笑失笑しながら渋々「……新しい顔焼くよ!」と民生がジャムおじさん風に応え――た瞬間、ピンク・フロイドの豚の風船のように、ワイヤーに吊られて宙を飛んでくる新しいアンパンマンの顔!……それらのMCや寸劇チックな演出すべてが、“HELLO”“デジタルスープ”といったストイックなロック・ナンバーと矛盾しないばかりかお互いに熱量を高め合いながら、超高気圧的なステージの興奮をさらに絶頂へと煽っていく。

「こんな遅い時間までありがとうございます! 電車まだありますか?」とWアンコールのMCで冗談めかしていた民生(ちなみに、5人がステージから完全に姿を消したのは18時47分)。改めてのメンバー紹介で1人1人にMCを振っていた時の、「……感極まった……」と顔を拭うテッシーに、思わず胸が熱くなった。テッシー自身も言っていた通り、16年の空白を経て来年でやっと「デビュー10周年」を迎える(「昨日は『今年で10年!』って言っちゃいましたけど、9年目です!」と訂正してました)ユニコーン。再始動からもうすぐ3年になる平均年齢47.2歳の5人は、ロック・シーン最前線に躍り出ただけでなく、ファンも一見さんも誰彼構わずでっかい歓喜に直結する日本屈指のエンターテイナーとなった。僕らにはユニコーンがいる、という喜びを、最も高純度に見せつけてくれた一夜だった。「ツアーもうすぐ終わりますが……またやった時は、また来てください!」というざっくりした民生の言葉が、あったかく胸に残った。次は10月15日・広島グリーンアリーナ公演!(高橋智樹)
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