エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド @ 横浜アリーナ

エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド @ 横浜アリーナ - pics by (c) 森 信英 (GEO)pics by (c) 森 信英 (GEO)
エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド @ 横浜アリーナ
11/17の札幌公演から12/10の東京・日本武道館における追加公演まで、約1ヶ月をかけて日本国内を廻るジョイント・ツアー。ブラインド・フェイスとしての過去、そして今日までそれぞれにロック・シーンの第一線で活躍してきたキャリアが、ライヴ音源化もされた全米ツアーや今年5月のロンドン/ロイヤル・アルバート・ホール公演に続いて、たっぷりと日本国内で披露されるということである。クラプトンは2年ぶり、ウィンウッドは2003年のフジ・ロック以来の来日公演だ。今後、11/21・22の大阪、11/24の福岡、11/26の広島、11/28の金沢、11/30の名古屋、そして12/2・3・6・7・10には日本武道館での公演が残されている、というか始まったばかりなので、参加予定の方は以下レポートの閲覧にはどうぞご注意を。

バンド・メンバーにはスティーヴ・ガッド(Dr.)、ウィリー・ウィークス(B.)、クリス・ステイトン(Key.)、そして女性コーラス隊が2人という編成。開演時にはクラプトンが中央やや上手寄り、ウィンウッドが下手寄りというポジションでそれぞれにギターを携え、ウィンウッドによる「グッド・イヴニング!」の挨拶から、彼の歌唱でブラインド・フェイスのアルバムの冒頭を飾る“Had to Cry Today(泣きたい気持ち)”をスタートする。一方、まずは小手調べとばかりに軽快なギター・リフを鳴らすクラプトンである。ジャパン・ツアー初日となった札幌公演のセット・リストは既にインターネット上で公開されているし、そもそもこの2人によるジョイント・ライヴの大半はこのナンバーで幕を開けているのではないかと思われるが、それでもファンにはたまらないものとなったはずだ。この曲を終えるとクラプトンは「ドーモアリガトウ!」と声を弾ませる。何かとても楽しそうな印象だ。

ツイン・ヴォーカルで軽快にカントリー・ブルースを転がす“ロウ・ダウン”を経て、ウィンウッドはステージ下手に設置されたハモンド・オルガンへと向かう。待ってました。マルチ・プレイヤーとして多彩な魅力を見せてくれる彼だけれど、個人的にはやはりこの人のオルガン・プレイをとても楽しみにしていた。2人はバンドと共にタイトなグルーヴを鳴らし始める。クラシックな楽曲群だけれど、素晴らしく同時代的なグルーヴが生まれ来ては響く。それは決して若ぶっているというのとも違って、2人の現役感が世界中のオーディエンスとの交感の中で育んできたというような、とても風通しの良いグルーヴなのだ。この序盤に、早くも珠玉のソウル・ナンバー“プレゼンス・オブ・ザ・ロード”を持ってくる。ウィンウッドからクラプトンへと、リード・ヴォーカルのバトンが繋げられる。クラプトンも渋く、しかし張りのある歌声を聴かせて喉は絶好調のようだ。彼のギターは次第次第にブルージーな熱を帯び、2人の才人の力が高いレヴェルで交錯するさまがはっきりと伝わってくる。

エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド @ 横浜アリーナ
ウィンウッドのヴォーカル曲では、トラフィック名義のレパートリーとして作品に残されたものも多く取り上げられている。というか、ブラインド・フェイスは短命なバンドで、メンバー間の緊張感から1作のアルバムのみを残して解散してしまったのは有名な話だ。しかしとりわけ、生き生きと楽しそうにプレイするクラプトンを直に目の当たりにすると思う。表面的な仲の良さや言葉尻では到底辿り着けない、剥き出しの思いをぶつけあったからこそ得られる特別な信頼感というのは、音楽に限らずあるのではないか。彼らほどの才能の衝突には当時、凡人には想像も及ばないようなストレスがあったのだろうし、もしかしたら生涯修復不能の傷となっていたかもしれない。今、この2人のステージを観ることが出来るのは、もしかしたら真に奇跡的な偶然なのかも知れない。言葉遊びをするつもりはないけれど、40年の時を費やしてこの2人は他の何物にも代え難い「ブラインド・フェイス(盲目的な信頼)」を獲得したのではないだろうか。

ウィンウッドは時折エレピにスイッチしたりしつつ、女性コーラス隊がハンド・クラップを煽り立てて披露されるのはユーモラスな曲調とアレンジ解釈が光る“We’ll All Right(オールライト)”だ。そしてクラプトンが熱く歌い上げ、ギターを鳴らす定番ブルース“フーチー・クーチー・メン”。もう、この人は生涯でどれだけこの曲をプレイしてきたのだろう。一転して疾走感に満ちたダイナミックなバンド・サウンドで届けられる“ホワイル・ユー・シー・ア・チャンス”、くたびれた感じのブルースの中でエモーショナルなフレーズがせめぎあう“キー・トゥ・ザ・ハイウェイ”とヴァラエティに富んだ選曲が楽しい。“Georgia on My Mind(我が心のジョージア/愛しのジョージア)”は、切々としたウィンウッドのヴォーカルに、ここぞとばかりに繰り出されるクラプトンの泣きのギターという、もうそれしかない、それ最強、という組み合わせの名演だった。

クラプトンが椅子に腰掛けてギターをスイッチし(ちょうどヘッドがこちらを向いてしまう形でうまく見えなかったのだが、セミアコだろうか)、スロウなR&Bナンバー“ドリフティン”で味わい深いオルガンのインプロも加えられる。そしてウィンウッドもアコギを手にとり、2人の歌声とアコースティックなギター・サウンドを活かした濃密な時間が練り上げられてゆく。タイトなバンド・サウンドに始まって、徐々にその深みに引き込まれるような展開である。両者のアルペジオが絡み合うイントロで喝采を誘うのは、ブラインド・フェイスの“Can't Find My Way Home(マイ・ウェイ・ホーム)”だ。“オールライト”のときも感じたけれど、とにかく深みのあるアレンジの凄さを、今になって思い知らされる。そして、なんだかんだ言ってウィンウッドのギターも、クラプトンに見劣りせずプレイされるのだから最高である。行間から大きなスケール感が立ち上ってくるようなパフォーマンスであった。

エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド @ 横浜アリーナ
終盤で再びのエレクトリック・セットは、華々しく打ち鳴らされるロックンロール“ギミ・サム・ラヴィン”から、ウィンウッドが当時レコーディングに参加したジミ・ヘンドリックスの“ヴードゥー・チャイル”だ。ダーティーなブルース・ギターを思うさま弾きまくるクラプトン。ド迫力のサウンドがロング・プレイで届けられる。いよいよの本編は、2人でそれぞれギターをプレイしてクラプトンの名レパートリー“コカイン”へ。オーディエンスに最後の《Cocaine!!》のフレーズを預けてフィニッシュした。アンコールは、ウィンウッドのヴォーカルで締めくくるトラフィックのナンバー“ディア・ミスター・ファンタジー”。沸々と盛り上がりを形作ってゆくこのナンバーで、約2時間のステージは幕を下ろしたのであった。

札幌公演で披露されたという“いとしのレイラ”は横浜アリーナには響かなかったけれど、大した問題ではなかった。そんなことないか。ウィンウッドがどう絡むのか聴いてみたかったか。でも、「そういえばレイラやらなかったな」と思ったぐらいで、それ以外にも無数に見所が存在するステージだったのだ。「セット・リスト公表して、2公演目でレイラはずしちゃうけど余裕」みたいな意図すら感じられる。今後の公演に参加予定の方は、そういうつもりで臨んで頂ければと思う。それぞれ単独でもビッグ・ネームだからという意味ではなくて、やっぱり凄いのだ。エリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドの共演というのは。(小池宏和)
エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド @ 横浜アリーナ
セット・リスト
01. Had to Cry Today (Blind Faith)
02. Low Down (J.J. Cale)
03. After Midnight (J.J. Cale)
04. Presence of the Lord (Blind Faith)
05. Glad (Traffic)
06. Well All Right (Buddy Holly)
07. Hoochie Coochie Man (Muddy Waters)
08. While You See a Chance (Steve Winwood)
09. Key to the Highway (Big Bill Broonzy)
10. Pearly Queen (Traffic)
11. Crossroads (Robert Johnson)
12. Georgia on My Mind (Hoagy Carmichael)
- 以下 Acoustic set -
13. Driftin' (Johnny Moore's Three Blazers)
14. That's No Way to Get Along (Robert Wilkins)
15. Wonderful Tonight (Eric Clapton)
16. Can't Find My Way Home (Blind Faith)
- 以上 Acoustic set -
17. Gimme Some Lovin' (The Spencer Davis Group)
18. Voodoo Chile (Jimi Hendrix)
19. Cocaine (J.J. Cale)
encore
20. Dear Mr.Fantasy (Traffic)
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