Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト

Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト
Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト
Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト
やばい。置いていかれる。ステージ上を凝視しながら、そんな焦燥感がドクドクと溢れ出て体内を駆け巡るライヴ体験だった。Galileo Galileiのスタジオコースト・ワンマン『【草】はっぱカッター【草】』。そもそも、2011年はまず、2月にガリレオとファンにとって素晴らしいメジャー・デビュー・フル・アルバム『パレード』がリリースされた年であり、つまり後々までそういう年として記憶されるだけでも充分だったと個人的には思っていたのだ。ところが、札幌に自宅兼プライヴェート・スタジオを構えて共同生活を始めたバンド・メンバーたちは、それまでのガリレオ像を軽く逸脱してゆくような新作シングルを次々に放つことになる。シングル表題曲はTVアニメやドラマのテーマ曲として起用され、アルバム後に発表される3作目のシングル(メジャー通算6作目、12/7リリース予定)のシングル『明日へ』は、アニメ『機動戦士ガンダムAGE』のテーマ曲として既にオンエアされている。

ただし、今回のライヴ中に「置いていかれる」という感覚に捕われたのは、上記のようなガリレオの活動とそれを取り巻く状況によってではない。スタジオコーストに鳴り響いた音像、その劇的な飛距離の跳躍によって、「置いていかれる」という感覚に駆り立てられたのだ。初めのうちはまだ、「あれ? 何か面白いことをやりはじめたな」という心持ちで見つめていた。それが「ん? 以前とまったく違ってるぞ」となり、そして「これ、もしかしてバンドがずっと先をぶっ飛んでいるじゃないか!?」とようやく慌て始めた、というのが正直なところである。

フロントマン・ざき兄こと尾崎雄貴の前に置かれたMacbookやサンプラーの卓(バンドのマスコット=ラブちゃん(ト○ザらス出身)もここに鎮座)、それ以外にも幾つかの機材ラックが配置されたステージ。“さよならフロンティア”のカップリング曲である“4”を皮切りに、“青い栞”そして“さよならフロンティア”といったアルバム後のシングル曲群が並べ立てられる序盤だ。やはりというかエレクトロニックなサウンドを配し、ギター/ベース/ドラムスといういかにもロック・バンドらしいサウンドから大胆にシフトしていることがわかる。その新しいガリレオ・サウンドは作曲そのものにも影響を及ぼしているようで、従来なら豊かな動きのあるグッド・メロディを数多く紡ぎ上げ、歌っていたざき兄が、“さよならフロンティア”などでは特に、エレクトロニックなサウンド処理を利用しつつ、時間をかけて次第次第に大きくドラマティックに展開してゆく旋律を描き出している。つまり、ガリレオの新しいサウンドは飛び道具や変化球ではなくて、既にバンドの血肉となっているのだ。

序盤からガリレオの現在地を見せつけてくれたところで、この後はライヴ定番曲が並ぶのかと思いきや、一層大変なことになった。“明日へ”のカップリング曲である“マーブル”を始めとして、まだリリースすら決まっていない(中にはタイトルすら決まっていない)新曲が畳み掛けられたのだ。佐孝仁司(B.)や、メンバー最年少でサンタ帽を被った尾崎和樹(Dr.)のリズム隊は、このダンス成分の強い楽曲群と向き合うためのスキル・アップは免れなかったろう。キーボード担当としてサポートの定位置に収まっている野口一雅は、サウンドの構成上、活躍の場が増えている。岩井郁人の煌めくギター・フレーズはさすがに華やかなエレクトロニック・サウンドとも相性が良いが、他の音に埋もれないフレーズとギター・サウンドを編み出さなければならない、という点で、実は今後一番大変なのは彼かも知れない。そんなことを勝手にゴチャゴチャと考えさせられてしまうぐらいに、新鮮で刺激的な音像なのである。

多くのオーディエンスも同じような心持ちだったのではないか。壮大なストーリーテリングを宿したタイトル未定の新曲から、《君の居場所はここじゃないからさよならだよ》(歌詞は筆者聴き取り)というハーモニーのコーラス・とダイナミックなダンス・ロック・サウンドで届けられる“Imaginary Friends”への流れはすこぶるアップリフティングなものだったが、跳ねたり躍ったりではなく、食らいつくようにステージ上を見つめている人も目につく。今のガリレオに訪れている変化を、見極めようと必死になってしまうのだ。ガリレオは、いつでもそこに居てくれるバンドではない。必死で追い掛け回さなければならないバンドだ。優れたロック・バンドにはそういうバンドが多い。世界を変えようとする人は自分自身が変わろうとするし、そばにいる人を変えようとする。そのような緊張した関係の中では、なかなか落ち着いた安心感は得られないことだってある。

「新曲ってやりにくいんですけど、やりたいんですけど(笑)、集中して聴いてくれてありがとうございます」とざき兄が語る。高校卒業を控えた和樹は、「大学に行くのにこんなサンタ帽被って。そろそろこういうキャラも卒業しようかなと」。それも寂しい話ではあるけれど、確かに成長とともに受け入れなければならない変化のひとつかも知れない。そして“くそったれども”に込められた命懸けの、現状脱出に掛ける想い。丁寧に選び抜かれた言葉の陰に、爆弾を隠し持ったざき兄の歌だ。いつだって彼らはこんなふうに、バンド・サウンドを次のレヴェルに持ち込みたくて仕方がないのだろう。“明日へ”の強く急き立てるようなエモーションの迸りとメッセージは、彼ら自身が抱える想いときっちりシンクロしている。

シングルを含めた新曲群、というか新しいガリレオそのものの猛攻を受け切ったところで、往年のポップなギター・バンド・サウンドが届けられる。オーディエンスが一斉にタオル回しを敢行する“Monday7s”から“夏空”へ。でもなんだろう、もうずいぶん遠ざかってしまった景色に見える。そして“ハローグッバイ”なのだが、ドラム・セットを離れて前線のサンプラーに向かう和樹の姿にどよめきが走る。佐孝が同期サウンドを繰り出し、岩井も鍵盤を弾くという、驚くべき編成での新アレンジ版“ハローグッバイ”だ。それも、まるで今年7月に惜しくも他界したレイ・ハラカミを彷彿とさせるような、緻密に構築されたエレクトロニカ・バンド・ヴァージョン。不意を突かれたのと素晴らしいアレンジだったのとで、思わず視界が霞んでしまうほどだった。後半はそのままメンバーそれぞれのポジションに戻って、強いバンド・サウンドで展開してゆく。バンドにとって、一度完成した楽曲を再構築するというのは大変なことだ。だから例えばリミックス作業というのは、外部のミュージシャンが手掛けることが多い。でも、ガリレオはそれを見事な形でやった。世界が変わる音がした。この後には本編最後に“僕から君へ”がプレイされたのだが、衝撃の余韻が大きすぎて、申し訳ないが余り良く覚えていない。
Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト
Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト
Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト
Galileo Galilei @ 新木場スタジオコースト

アンコールの催促にフロアでは“ハローグッバイ”の歌詞が広がり、ラブちゃんを抱えて再登場した和樹が物販Tシャツの宣伝を済ませると、ざき兄は「新曲いっぱい聴いてもらって嬉しかったんですけど、今度はライヴであんまりやらない曲をやります」と言い置いて、“フリーダム”がプレイされ始める。ギター・フレーズが弾む、バンドで音を鳴らす喜びが目一杯詰め込まれたナンバーだ。このサウンドをではなく、この感覚を守り抜くために、ガリレオは変わってゆくのかも知れない。「前のめりに頑張ってるバンドなんで、ちょっと違ぇよ、って思うこともあるかも知れないけど……」「大丈夫! みんな楽しんでるよ!(男性ファンの声)」「ありがとうございます! みなさんに楽しんでもらうことと、自分たちが好きな音楽を伝えることにかけては自身があるので、これからもGalileo Galileiをよろしくお願いします」。それがすべてではないか、と思える一幕であった。そして最後にバンドの広がりのあるサウンドが、以前よりも伸びやかなざき兄のファルセット・ヴォイスが、“スワン”をスタジオコースト一杯に描き出してゆく。

変化を求める思いをそのままサウンドに仕立て上げようとする、ガリレオのスピードについてゆくのは大変だ。例えば、もっとライヴで触れ合うチャンスが多くあれば、そのスピードと方向性をより確実に分かち合えるだろうか。巨大な歓喜の中にも、さまざまなことを考えさせられる、オーディエンスとしてのリアクションが求められるライヴだった。Galileo Galileiは12月28日、千葉・幕張メッセで行われるCOUNTDOWN JAPAN 11/12の初日に登場予定となっているので、ぜひとも多くの人に今のガリレオを目撃して頂きたい。(小池宏和)

セット・リスト
1:4
2:青い栞
3:さよならフロンティア
4:マーブル
5:フロイト
6:新曲(タイトル未定)
7:Imaginary Friends
8:くそったれども
9:明日へ
10:Monday7s
11:夏空
12:ハローグッバイ
13:僕から君へ
EN-1:フリーダム
EN-2:スワン
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