ヒダカトオルとフェッドミュージック×キュビズモ・グラフィコと櫛引彩香 @ 新代田FEVER

ヒダカトオルとフェッドミュージック×キュビズモ・グラフィコと櫛引彩香 @ 新代田FEVER
「BEAT CRUSADERSを解散した後、ヒダカトオルがソロ名義での活動の他に、地元・千葉の後輩であるFedMusicと一緒にスタートさせた新プロジェクト」である「ヒダカトオルとフェッドミュージック」と、ヒダカの盟友と言っていいチャーベくんこと松田岳二の「CUBISMO GRAFICO」がゲスト・ヴォーカルにシンガーソングライター・櫛引彩香を迎えた「キュビズモ・グラフィコと櫛引彩香」。10月12日に4曲入りスプリット・シングル『OUR FAVORITE SONGS』をリリースしたこの両者の顔合わせが、ヒダカトオルとフェッドミュージックの千葉/名古屋/大阪/岡山/福島/東京と巡るツアーのうち千葉と福島を除く4ヵ所で実現。ツアーそのものは福岡/大分/松山と追加公演が決定してまだ続くのだが(対バン相手はbonobos!)、この両者での一連のスプリット・ライブはここ新代田FEVERでフィナーレを迎えることとなった。

“AOR”という曲もある通り、どちらのプロジェクトも「AOR」というキーワードが見え隠れするアクト。まずはキュビズモ・グラフィコと櫛引彩香がオン・ステージ、ルイ・アームストロングの“What A Wonderful World”をチャーベくんのエレピと古川太一(ex.riddim saunter)のパーカッションとともに風のように涼やかに披露したかと思うと、「『キュビズモ・グラフィコと櫛引彩香』改め、櫛引彩香トリオです! 今日は3人ともベレー帽をかぶって……あれ?(笑)」と、ベレー帽そのものみたいな髪型の古川太一を見て驚くビッキーこと櫛引彩香&「太一は最後までベレー帽を拒んでたんだけど、最初からかぶってんだよね!」と軽やかに言い放つチャーベのMCで、キャパ300人ほどのFEVERのフロアはあっという間に音楽の快楽とリラックス感で満たされていく。
ヒダカトオルとフェッドミュージック×キュビズモ・グラフィコと櫛引彩香 @ 新代田FEVER
「CUBISMO GRAFICOとかCUBISMO GRAFICO FIVEとかで、よく客演ヴォーカルで参加してもらってたんですけど……意外と曲ありますよね?(笑)。もともとは、10年以上前にバイトが一緒だったんで(笑)」「クッシーではなくビッキーです。ASPARAGUSのしのっぴ(渡邊忍)だけは『クッシー』って呼んでますけど」(チャーベくん)とビッキーを紹介しつつ、11月9日にリリースされたばかりのビッキーのアルバムから“花のように”(チャーベ&太一のプロデュース曲)やスプリット・シングルにも収録された“AOR”の日本語バージョン、SCAFULL KINGのトリビュート盤でCUBISMO GRAFICO Orchestra名義で参加した“WE ARE THE WORLD”、ピチカート・ファイヴ“メッセージ・ソング”など全11曲を、どこまでも軽やかに響かせていく。一応、チャーベくん:ギター、太一:パーカッション/エレピという持ち場はありつつも、曲によって3人のどシンプルなアンサンブルを太一がドラムで煽ったり、ビッキーがソロ曲をエレピ弾き語りで披露するところに太一がエキサイティングなパーカッションをかぶせたり、太一ピアノ&チャーベくんドラム編成もあったり……と、「女性ヴォーカル含めた3人」というフォーマットを最大限に楽しみ尽くすどころかその可能性をがんがん押し広げるようなアクトの熱量が、見ているこっちにまで伝染してくるようなステージだった。

そして20:09、ヒダカトオルとフェッドミュージックの登場! アコギを抱えたダカさん、そしてFukui Akihito(G)、Kikuchi Atsushi(B)、Akimoto Yusuke(Dr)、Kudara Riku(Vo・G/ここでは鍵盤担当)の5人で、まずはオーディエンスとギアを合わせるようにスプリット収録曲“DOUBLE FANTASY”のミドル・テンポのキラキラしたサウンドを聴かせ、そのままダカさんのネオアコ・ユニット=GALLOWの楽曲“somerset”の七色コーラス空間へと流れ込む。ベタさも雑味も皆無の、ポップ・ミュージックの核心にあるきらめきだけを丹念に拾い集めて空に放つようなサウンドスケープが展開されていく……のだが、MCに入るった瞬間、「何本かツアーをやって、だいぶキャラも定まったよね?」(ヒダカ) 「……だいぶキャラ作られました(笑)。俺なんか、『元ヤン』から『ゲイ』ですよ?(笑)」(Riku)とベタの極致のような世界へ突入。ヒダカが「『カジヒデキとリディムサウンター』を意識して、これですよ!」とさらに笑いを誘う。新たなロック凸凹師弟関係がまたひとつ生まれたことを感じさせる瞬間だ。

まだオリジナル曲のレパートリー自体が限られていることもあって、“cherrish”“1998”といったGALLOW曲に加えてシンディ・ローパー“Time After Time”のカバーも披露してみせていた5人だが、それでも“GENTLE SERENADE”“エミットボール”“フィルモアの奇跡”といった新曲群からは、BEAT CRUSADERSの爆裂パワー・ポップ/ポップ・パンク感とはまるで異なる、ロックとポップの歴史を丸ごと煎じ詰めた末に渾身の一滴を絞り出したような、高純度の輝度と強度を持ったメロディを聴かせていたヒダカ。特に“フィルモアの奇跡”で聴かせたヒダカの日本語ヴォーカル(!)のエモーショナルな響きには、自分でもびっくりするほどの新鮮な感激が身体を走った。

「フィーバーしてる? 言ってみたかったんだよね、FEVER出るの初めてだから(笑)」とか「基本的に俺たち、癒し系の音楽向いてないよね?」とか「カジくんと家でお茶したことあるんだよ? 『何出したらいいかな?』と思って、マカロン出してみた(笑)」とか照れ隠しのように言っていたヒダカだが、一方で「来年アルバム制作予定です!」とも言っていた通り、来るべき「次」へ向けての躍動感を感じていたことの裏返しでもあったのだろう。ということが、フロアのクラップとともにひときわ華やかに咲き誇ったラストのアンドリュー・ゴールドの名曲カバー“LONELY BOY”からも伝わってきた。
ヒダカトオルとフェッドミュージック×キュビズモ・グラフィコと櫛引彩香 @ 新代田FEVER
アンコールで再び登場したヒダカフェッドの5人、まずはビッキーをステージに呼び込む。「ツアーどうでした?」とヒダカに訊かれ「やっぱり下ネタが……聞こえないフリしてました(笑)」と苦笑しながら、ユーミンの“やさしさに包まれたなら”をビッキーとヒダカのハモリで披露。そこにチャーベくん&太一が加わる。「28歳がなんでツータックのパンツに(シャツを)インしてるの?(笑)」とひとしきり太一をいじった43歳ヒダカ、そのまま8人編成でスプリット収録のリンダ・ルイス“SPRING SONG”カバー、そして“AOR”英語バージョンで大団円!……と思いきや、さらなるアンコールの声に応えてもう一度、ヒダカフェッドの5人でゴダイゴの“ビューティフル・ネーム”カバー&GALLOW“TEENAGE CRISIS”でフィニッシュ! 音楽の楽しさをもう一度ゼロから手探りし始め、自身のソロ・バンドやヒダカフェッドでの活動を通していよいよ「その先」を垣間見せ始めたヒダカ。次のヒダカフェッドはツアーの追加公演1本目:福岡LIVEHOUSE CBにて! その前に、12月2日にヒダカBANDで参加する『New Audiogram ver.5 -New Audiogram 5th Anniversary-』@渋谷O-EASTでは、ともに出演するASPARAGUS・しのっぴとイッチャンことLOW IQ 01と何やらスペシャルなことを企てているらしい。「今」のダカさんは、まだまだ見逃せない。(高橋智樹)
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