というオープニングがまず、去年はなかったこと。他に去年と違った点としては、転換中に画面でくるりのサポート・ドラマーBOBO(54-71)による会場レポートが流れたり、昨日収録したという、くるりの二人&サポート・キーボードの三柴理によるこの公園の案内が流れたり、という企画があったこと。飲食エリアを移動・拡大して利便性をアップさせていたこと。昨年よりも入場者数を抑えて、場内の快適性を上げたこと(13,000人だそうです)。
で、逆に、去年あって今年なかったのは、大雨。去年は何度も大雨が降って往生こいたが、今年は小田和正が始まる前の転換の時、15分くらいパラパラ降っただけだった。しかし、それにしても、この時の参加者一同の対応の早さはすごかった。「ほらきたっ!」って感じで、一斉にカッパを出して瞬時に着込んでて。1年前にここで雨に祟られた記憶と、今日も午後にはゲリラ雷雨(この言葉、文章を書く人間としてはほんとにちょっとどうかと思うが、こうして使ってみると確かに便利だったりするのがまたむかつく)が降るという予報だったので、みんながっちり用意してきたようでした。なんか、フジ・ロックの参加者を見ているようでした。
ではひとことレポート。
1.ハンバート ハンバート
みやこ音楽祭に出演しているところをくるりが観て一目惚れ、京都音博への出演をオファーしたという、ボーカル佐野遊穂とボーカル&ギター&バイオリンの佐藤良成の2人組。ちなみに、ロッキング・オン・フェス事業部員で、ロック・イン・ジャパン・フェスの転換中に流れるBGM選曲担当上代朋子が、このユニットの最新アルバムから“同じ話”という曲(今日もやりました)を入れたところ、フェス終了後に公式サイトのBBSで「あの曲は誰の曲だ!?」という議論が巻き起こった、そんな人たちです。
シンプルの極地みたいな音と歌でライブはすばらしいもんだったが、ちょっと「あれ?」と思ったのは全5曲中4曲目にやった“国語”という曲。この曲の歌詞、よく使われるサブカルな英語――「アイデンティティ」とか「コラボレーション」とか「リスペクト」とか、ほんとはどんな意味なのかよくわからずにみんな雰囲気で使っている、それをおちょくったみたいな内容なんですが、だからそれらの単語が順番に出てくるんですが、その中に「オーガニック」という言葉と「スローライフ」という言葉が出てきた。確か、CDには入っていなかったと思う。曖昧な記憶なので、勘違いだったらごめんなさいなのですが。別にくるりはこのフェスをやるにあたって、そんなことは一切言っていないが、何かとそういう言葉と関連付けて語られがちな、野外フェスという場だから、あえて歌詞をこう替えていたとしたら、かなりのもんだと思う。好きですそういう人。
2.アシャ
ナイジェリアの女性シンガー。歌いながら登場、その段階でもう「うわ、CD買ってもいいわこれ」と思った。本人、ギター、ベース、キーボード、ドラムという編成で、ジャンルで言うともっとこうR&Bっぽくなりそうなんだけど、なんというか、安直な比較で申し訳ないが、パッと聴いてハナレグミを思い出してしまった。そういう、耳に心地よい声と、音の広がりがある人でした。2曲目にやった、Bメロまでのコード進行がイーグルスの“ホテル・カリフォルニア”とおんなじだった曲が特によかった。そんな誉め方があるか。
3.Lana&Flip
8月20日に、くるり主宰のノイズ・マッカートニー・レコードからアルバムをリリースしたばかりのウィーンのユニット。くるり『ワルツを踊れ』でオーケストラ・アレンジを担当したフリップと、ボーカル=ラナのユニット(RO69ラジオの佐藤征史NMR代表の番組で曲が聴けるのでぜひ)。なんかもう、超絶。歌がほとんどアドリブ。まるでジャズメンのようにインプロビゼーションで延々歌う感じ。アクロバットを観ている、いや、聴いているような、とにかく音と声が自由自在なライブでした。
4.細野晴臣&ワールドシャイネス
出た、御大。御大らしく、1曲歌い終えたと思ったら「あぢぃ……」とつぶやいたり、「……60歳以上の人は、退場したほうがいいですよ」とおっしゃったり(ちなみに御大は確か今年61歳)、「あと数曲やって、日陰に戻ります」と宣言したりしながら、淡々と、飄々と、しかしものすごい力を持つ歌を披露してくれた。芸のない言い方で申し訳ないが、とんでもない吸引力。全員猛暑の中、身じろぎもせずに聴き入っている感じ。確かに暑かったけど至福の時間でした。個人的には“はらいそ”が特にきました。
5.大工哲弘&カーペンターズ
昨年も出演。「去年、僕の時だけ、バケツをひっくり返したような雨が降って。でもみなさん一生懸命聴いてくれて、お陰で今年も呼んでもらえました」というようなMCまではよかったが、「今年は降ってません。みなさん、降らないように雨乞いをして」って大工さん。雨乞いしちゃダメ、逆! と、いきなりちょっとずっこけましたが、そのあとはじっくりしっかり聴かせてくれた。確かに去年は、大雨の中あわあわしながら観たのであんまり真価がわからなかったんだなあ、こんなにいい歌だったんだなあ、ってことが、今年はよくわかりました。
6.小田和正
こちらも昨年と連続出演。全4曲と短かったが、もう、殺す気か! と言いたくなるようなセットリスト。まずひとりでピアノ弾き語りで“言葉にできない”、続いてギター佐橋佳幸(世間的には、松たか子の夫として有名になっちゃいましたが元々その筋では知られたセッション・ギタリストで、くるりの横浜パシフィコのライブにも参加してました)を呼び込んで「もう16年前の曲になるんですね」というMCのあと“ラブ・ストーリーは突然に”、続いてくるりの二人&BOBOが加わって、くるりの“ハイウェイ”を岸田とデュエット! シメは同じメンバーで「今行っているツアーのテーマ的な曲です」と前置きして“今日もどこかで”。とにかく圧倒的でした。あとMCで、実は、お互いこれだけ長いキャリアなのに、一度も細野晴臣と会ったことがなくて、昨日初めて会って握手した、という意外なエピソードを披露してくれました。
7.rei harakami
ご存知だとは思うが、この人のライブは、ビジュアル的には、延々と機材に向かい続けてちょこまかと手を動かし続ける姿をただ観る、というものである。なので、視覚的には、はっきり言って全然面白くない。が、「聴く」って点で言うと、こんな気持ちいいもんはそうない。くるりを除くと、個人的には全出演者の中でもっとも耳によくなじんだ(普段聴いてる回数が多いってこと)曲たちが次から次へと出てきて最高だった。ただ、暑さはこの時がピークだった。ステージもまぶしかったようで、前に矢野顕子とROCK IN JAPANに出てくれた時みたいに、機材に手をかざして液晶の点滅を見ながら、プレイしておられました。
8.The Real Group
女性2人、男性3人の、スウェーデンのアカペラ・グループ。岸田&佐藤が出てきて「うろついてる方は足を止めてみてください、すっごいですよ」「僕ら、この次にやるの、イヤです」と紹介してから始まったんだけど、確かにすごかった。なんていうんでしょうか、それまで1000万円のスピーカー使って音を出してたのが、この人達の出番になったら5000万円のスピーカーに替わった感じ。なんだそれは。うまく言えませんが、それくらいステージから出ている音の質感が変わって、場の空気もほんとにサッと変わった。好き嫌いとか好みはともかく、耳に心地いい音が揃っているのは間違いない、というのが京都音博のアーティスト・セレクト。という感じはあるが、この人たちの場合もう、心地いいを超えて怖いくらいだった。
9.くるり
今のツアー・メンバーに、ニュー・シングル“さよならリグレット”で岸田とデュエットしている土岐麻子と、ハンバート ハンバートの佐藤良成を加えた特別編成。ステージの真向いに夕陽が見える最高のシチュエーションでスタート。あえて画面を使わずにやりきった1曲目“ブレーメン”。「さっき、四条通では大雨降ってたらしい。誰かミサイル撃ったやろ(笑)」という岸田のMCをはさんで、楽しげに、ていねいに、しっとりとプレイされた“飴色の部屋”。岸田がギターを置き、ハンドマイクで歌った“京都の大学生”。アイリッシュ・ブズーキー(と岸田が言ってました。でかいマンドリンみたいな楽器です)を持って「賀茂川の歌です」と言って歌った、日本ロック・シーンにおける賀茂川を歌った名曲2曲のうちの1曲、“リバー”(もう1曲はローザ・ルクセンブルグの“橋の下”)。そしてニュー・シングル“さよならリグレット”“真昼の人魚”、「では、JR京都線の音に包まれながら歌います」(すぐ横に線路があるのです)とマイクに向かった“ばらの花”……。
ここ1ヶ月半でくるりのライブは4回観ているが、今日はずばぬけて、圧倒的に、えっれえよかった。くるり史上に残る出来だったとすら言っていいかもしれない。岸田は何度も「みんなのおかげで」という言葉を口にした。何度も、幼稚園に上がる前の子供のような、あるいは沖縄の90歳ぐらいのおじいちゃんみたいな、底なしの笑顔を見せた。「もう、感無量です」と、“ばらの花”を歌う前に言っていたが、確かに感極まっているように見えた。初開催だった去年はそういう感じじゃなくて、今年岸田がこうなっているというのも、なんだかとてもよくわかる気がした。
京都市緑化協会や近隣の住民、出演アーティスト、スタッフに感謝を述べたあと、“宿はなし”で本編終了。アンコールではなんと、細野晴臣と佐橋佳幸も登場して、はっぴいえんどの“風をあつめて”をセッション。あらゆる人にカバーされている名曲だし、はっぴいえんどのアルバムで数え切れないくらい聴いた曲だけど、本人が歌うのを生で聴いたのは初めてだったので、細野晴臣があの声で歌いだした瞬間、思わず「うわ、本物」と声に出して言ってしまった。
ワンコーラスずつ細野→土岐→岸田、の順番で歌って終了。最後に出演者全員がステージに登場してあいさつし、とにかく濃く、でも軽やかで、そして幸せだった7時間が幕を閉じた。
岸田と佐藤、今日のビールは人生でいちばん旨いだろうなあと思う。(兵庫慎司)