吉井和哉 @ 新木場STUDIO COAST
2011.12.16 13:24
本来ならば春に行われる予定だった今日の新木場STUDIO COASTでのライヴ。震災の影響により延期となった各地での公演、そして、年末恒例の大阪城ホール、日本武道館での公演と併せて発表された新たなツアー『Flowers & Powerlight Tour 2011 ~born-again~』が12月からスタートした。このツアーのサブタイトルが『~born-again~』と発表された時、無性に胸がうずうずしたのを覚えている。7月の東京国際フォーラムでの公演で見事な大輪の花を咲かせた吉井和哉が、「born-again」=「生まれ変わる」とはどういうことなのか。その答えを早く知りたいと思って今日の日を心待ちにしていた。そして、11月に発売されたミニ・アルバム『After The Apples』を初めて耳にした時、呼び覚まされた人間の本能が剥き出しになった"Born"を聴いて早く生で体感したいと強く思った。黒革のジャケットに黒シャツ、黒のパンツ、と黒尽くめでステージに現れた吉井和哉。照明はほぼバックに流れている映像の明かりのみという最初の場面で、なんとなくアルバム『WHITE ROOM』リリース後のツアー『AT the WHITE ROOM』の頃のライヴの雰囲気を思い出してしまったのだが、吉井の第一声を聴いた瞬間、これは全く違う、新しい吉井和哉のロックだと確信した。最新のミニ・アルバム『After The Apples』からの楽曲はもちろんのこと、2月に配信シングルとして発売される"煩悩コントロール"からYOSHII LOVINSON時代、そしてイエロー・モンキー時代の楽曲まで、吉井和哉の音楽人生を辿るようなセットリストに終始興奮が抑えられなかった。しかも、「みんなが知ってるようなシングル曲は2曲しかやってない」と吉井が言っていたように、『After The Apples』に通じる吉井和哉という人間の匂いを感じるような隠れた名曲ばかり。「吉井和哉の最新と古い、けど新しい濃厚な世界を楽しんでいってほしいと思います」という吉井の言葉どおり、過去の楽曲が単独のピースとして存在するのではなく、すべてが混ざり合って今に繋がり、吉井和哉の新しい世界が生まれていたのだ。今回のツアーでは、吉田佳史(Dr/from TRICERATOPS)、三浦淳悟(B)、鶴谷崇(Key)、日下部正則(G)というお馴染みのツアーメンバーに加えて、生形真一(G/from Nothing's Carved In Stone)が新たに参加していたのだが、バーニーと生形のツイン・ギターに身を任せ、吉井はくねくねと体をくねらせ、時にひざまづきながら妖美なロックスターの姿を見せたり、獣のような野蛮さでエネルギッシュな咆哮を上げたり、大きな愛を以てオーディエンスを包み込むように伸びやかな歌声を聴かせたり、かと思えば、急にギタリスト然としてエレキギターを無心でかき鳴らしたりもする。自由度がさらに増した中で吉井のライヴでの表現はどんどん深まり、かつ新しさを感じさせるものがあった。その新しさというのが、まさに"母いすゞ"の衝撃だ。古ぼけたスピーカーから流れてくる壊れたレコードの音、昭和の日本を思わせるノスタルジックな音が流れて始まった"母いすゞ"は、会場の空気を一変させた。シンプルなサウンドの中から聞こえてくる魂のブルースのようなギターの響き、ドゥーワップのコーラス、そして、何より吉井が歌わなければ成り立たないあの歌詞のフレーズに鳥肌が立ってしまった。吉井が自らに流れる血と向き合い、本能のままに曲としてアウトプットしたこの"母いすゞ"には希望のような強さが宿っていて、オーディエンスに限りない力を与えていたような気がする。そして、この"母いすゞ"とは真逆の意味で新しいといえば、ダチョウ倶楽部とのコラボで話題の「マサユメ」だ。吉田の軽快なリズムをバックに「今年はいろいろありましたけど、来年こそ夢をマサユメに!」と叫ぶ吉井。こんな時だからこそ夢を見たり、それを実現させようと動くことが自らの力になるということを吉井なりのユーモアで表現していて、オーディエンスの熱気もすごかった。「ムッシュムラムラ!」と会場一丸となって大合唱する様は滑稽すぎて思わず笑ってしまったけど、多幸感に溢れる瞬間でもあった。ちなみに、曲中の「訴えてやるっ!」はバーニーが叫んでました。「ありがとう! 大好き!」と思わず口に出したり、下ネタ満開のトークで会場を引かせたり、吉田のことをアンパンマンと言って、何度も「アンパーンチ!」と連発したり、自らを「家政婦のミタです」と紹介して、斉藤和義の"ずっと好きだった"を口ずさんでしまったり。そんな妙なハイテンションも、吉井が今絶好調である証拠だろう。吉井は終盤でこんなふうに語っていた。「いろんな時代の曲を聴いてもらいましたけど、こんな吉井和哉でもすごく落ち込んだ時もありましたし、時間が経って全部混ざって今までのすべてが無駄にならないような瞬間がこのツアーで実感できています」。今回のツアーは吉井和哉の血と肉と骨が一つの花となり、見たこともない新しい実を結んだツアーなのだと思う。「何か困ったことがあったら、吉井和哉の音楽を聴いてくださいね」と声を大にして叫んだ吉井。持って生まれた才能を本能的に開花させ、それが普遍性に満ちたみんなの歌になっていくことは本当にすごい。これからの吉井和哉はもっと面白くて衝撃的な音楽を生み出してくれる、そう確信させる一夜だった。(阿部英理子)