2012年の年明けから1週間近くが経ち、海外バンドも早くも続々と来日し始めている。このクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー(CYHSY)もしかり。2009年のフジ・ロック以来となる今回の来日公演は、彼らにとって4年ぶりの新作『ヒステリカル』を引っ提げての久々にアップデートされたステージ、文字通り新年の幕開けに相応しい「始まり」のステージになったと言っていいだろう。
CYHSYとは、2000年代のUSオルタナティヴに「神話」を刻んでデビューしたバンドであった。彼らの大前提となる姿勢はいわゆるDIY、レーベルを持たずバンド運営の全てを自分達で取り仕切るCYHSYのスタイルは、アーケイド・ファイアと並んで2000年代オルタナティヴの純潔精神を象徴するものだったし、自主リリースした彼らのデビュー・アルバム『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』(2005)の成功は2000年代の折り返し地点で燦然と輝く金字塔となった。ちなみにバンドの最初期には自主制作したCDを世界中のファンにアレックス(Vo)達自身がせっせと手作業で郵送していたことでも有名で、ここら辺も彼らが神話たる由来だろう(CDをオーダーした筆者のところにも、アレックスから発送処理遅延のお詫びメールがきたりした)。
セカンドの『サム・ラウド・サンダー』はそんな自身の神話を引き継ぐ形でリリースされた一枚だったが、同時にそれは彼らを純潔すぎるインディの「檻」に封じ込めるもろ刃の刃でもあった。後続のUSインディ・バンド達が軒並み自由にのびのびと好きな音を鳴らしている様と比較すると、セカンドの頃の彼らは少々自身のインディ神話を前に委縮しているように感じられたのも事実だ。
そしてセカンドから4年、CYHSYの最新作『ヒストリカル』とはそんな「檻」をぶち壊すあっけらかんとした風通しの良さと、インディらしからぬポップネスを厭わない勇気を感じる、まさに彼らのブレイクスルーの一枚となった。そして『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』の呪縛、2000年代USインディの純潔(とモラトリアム)から彼らを解放したそんな『ヒストリカル』のモードは、まんまこの日のステージにも反映されていたと言っていい。
オープニング・ナンバーは『ヒストリカル』の1曲目にならって“Same Mistake”で、思いっきりリリカルに幕開け。天上に向けて響く開放弦の爪弾きが本当に気持ちがいい。続く“Let The Cool Goddess…”はキーボード・イントロから徐々にエピックな構築性を明らかにしていく壮大なナンバー。直近2回の来日がフジのステージだったせいもあるのか、久々の密室で観るCYHSYの音の濃度に改めて驚かされる。しかも濃いだけじゃなくて、真っ直ぐと前に、私達の真正面に放たれていく率直さが今の彼らの新たなモードでもある。
続く“Satan”は一転パーカッション2人体制でのリズム・オリエンテッドなナンバーで、ニューウェイヴ調の暗さが際立ったナンバーだ。そう、CYHSYのサウンドに大きな影響を与えているニューウェイヴだけれど、このバンドの場合はニューウェイヴのスタイリッシュな形式主義とはどこか相容れない暑苦しさがあるのがいい。その肝となっているのがアレックスのヴォーカルで、彼の情緒的というか、感情が剥き出しのままブルブルと震えるような無防備な声はCYHSYにふたつとない個性を与えている。感極まってくるとどんどん内股になっていく必死さも愛おしい。オーディエンスとのコール&レスポンスもばっちり決まり、早くも場内は隅々まで空気が温まっていく。
そして中盤のクライマックスとなったのが新作からのタイトル・ナンバー“Hysterical”だ。ファスト&ラウドな8ビートのロックンロール、アレックスの情緒過多なヴォーカルを更に凌ぐほどこてこてのエモーションが添加されたバンド・アンサンブルが圧巻で、ひたすらワウりまくるギターも痛快。ベタ寸前のそれ、ポップなロックを恐れないのが今のCYHSYの強さなのだと思う。
蓋を開けて見ればセットリストの半数近くが『ヒステリカル』のナンバーという完全に未来嗜好なパフォーマンスだったわけだが、昔のナンバーも彼らの最新モードに即してアップデートされていた。シンプルな歌メロから一気にオーケストラを思わせる華麗なレイヤー・サウンドに突入した “Details Of The War”などは圧巻で、そして本編の最終コーナーのクライマックスを飾ったのは“Is This Love”、そして“Yellow Teeth”という鉄板の2曲だった。
アンコールの1曲目は“Adams’ Plane”、『ヒストリカル』中でも際立ってトライバルなナンバーだが、まるでここからもう一度ショウが始まるかのような「スタート」の昂揚漲る演奏にちょっと笑ってしまった。どれだけパッションが有り余っているのかと。本当のラストは“Heavy Metal”!“Adams’~”でぶち上げたテンションを一気に収束していく最高のエンディングだったと思う。(粉川しの)
クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー @ 渋谷O-EAST
2012.01.06