シングル『会社員と今の私』とDVD『ラディカルホリデー』のリリース記念、『会社員と今の私の慰安旅行』東名阪ツアー・ファイナル、なんですが。二度のアンコールが終わった瞬間に、頭を抱えてうずくまりたくなるようなライブだった。よくなかったわけではない。あらゆる意味で最高と言っていいライブだったんだけど、書かなきゃいけないことが多すぎて、ロッキング・オン・ジャパンの誌面に置き換えたら8ページぐらいいっちゃいそうで、思わず頭を抱えてしまったのでした。どうしよう。しょうがないから、なるべく簡潔に書き出していきます。彼らのライブを観慣れた人にとっては「それいつもやってるよ」というネタも入っていますが、気にしないでください。
オープニング・ゲストあり。なんと天才清水ミチコ。大ウケ。最高すぎ。その前と後に、「生活ジュンコ」なる女子アナによる前説映像と楽屋レポート映像あり。
で、SAKEROCKの本編スタート。1曲目から、しっとりじっくり滋味豊かでつややかなすばらしい演奏と、大学生の軽音サークルが部室でしゃべってるとこそのまんまみたいな、限りなく素の会話に近いMCでライブが進行していく。7曲目から11曲目まで、キーボードでグッドラックヘイワにおける伊藤大地の相棒、野村卓史が参加。星野源はマリンバを叩いたりする。ハマケンは口で、伊藤大地はドラムで、交互にスキャットをくり返す恒例の「対決」コーナーも、あり……っていつも思うんだけど、あれスキャットって言っていいんだろうか。あとでまた書きます。
それからえーと、本編は16曲で終了、アンコールで“選手”やっていったんひっこんだと思ったらドラム星野源・ベース伊藤大地・ギター田中馨・ハマケンがボーカル(意味なく上半身裸)のバンド=カシュー&ナッツとして登場、ハマケンまたアドリブで歌いまくる。
はい、ここで続きを書きます。前述のスキャットにせよこのアドリブの歌にせよ、なんていうんでしょうか。狙っているのは笑いであり、「ハマケンを追い込んでアドリブで面白いことを言わせる」というリアクション芸であり……いや、芸って言っていいのか。それ観て誰よりも喜んでいるのは、メンバー3人だし。
とにかく、「アドリブで歌う歌詞で笑わせる」という以上の説明や描写がものすごく難しいのだが、ハマケンに対し度を越した暴力をふるいたくなる気持ちと、手を叩いて爆笑したくなる気持ちが交互に訪れる芸というんでしょうか。山崎邦正が松本人志のような自信満々な態度でステージに立ったら何故か猫ひろしになっちゃった感じ、だから怒っていいんだかあきれていいんだか笑っていいんだか混乱する、というんでしょうか。
とにかくですね。
そのぐだぐだで爆失笑な、ハマケンという存在。
前述の通り、客前という意識がほぼゼロな、客を身内というか「SAKEROCK部」の部員扱いしているようなしゃべり。
「ジャズでもダブでもスカでもない何か」としての新しきインストゥルメンタル、歌がなくてもポップスとしての鑑賞に堪えうる(だから彼らの曲はどれもやたら短いし、ほとんどの曲がハマケンと星野源の二人でメロディを奏でる構造になっている)、強く美しいインストゥルメンタル。そういうものを希求するがゆえの、極めて志が高く、プレイヤー/作曲家の両面において豊かで深い才能を持っていて、そして明らかに新しい、誰も鳴らしたことのないものになっている、楽曲そのもの、演奏そのもの。
以上の3者が、こんがらがり合いながら進むのが、SAKEROCKのワンマンなのです。だから観ているこっちは、大笑いしたり唖然としたり、深く感動したり大いに感心したり、興奮したり、猛然と腹が立ったりがっかりしたり楽しくなったりしんみりしたり、と、とにかく忙しくてしょうがないのです。ってことが、よおくわかった。
で、そのあと正規のパートに戻って、もう一回アンコール。“京都”をやって、ライブは幕を閉じた。
あとひとつ。ジャズでインストから端を発してるけど、歌謡曲レベルまで迫れるようなポップスを目指すこと。そこに笑いや芝居や寸劇や、しゃべりやアドリブをインクルードしていく――つまり、芸能全体を総括していくということ。というあたり、この人達、本気でクレイジーキャッツになろうとしているのかもしれない(ハマケンが“スーダラ節”の一節を必ず吹くから、というだけでなく)。と気付いて一瞬「おお、そうか!」と興奮したけど、その直後に「そんなのファンはみんなとっくに気付いてるのかも」と思ったりもした。(兵庫慎司)
1.進化
2.2,3人
3.七七日
4.モー
5.慰安旅行
6.菌
7.最北端
8.テキカス
9.会社員
10.インストバンド
11.青葉コック
12.電車
13.老夫婦
14.ちかく
15.今の私
16.生活
アンコール1
17.選手
アンコール2
18.カシューナッツ
アンコール3
19.京都