tacica @ SHIBUYA O-EAST

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「新しい曲を出して、新しいe.p.を出して、新しいツアーを周る。そういう当たり前のことを当たり前にやりたいと思って、『newsong』というタイトルの曲とe.p.を作りました。結果こうやって皆で集まることができて、今日ここでやっと『newsong e.p.』が完成した気がします」――朴訥とした語り口でそう告げる猪狩(Vo/G)に、満場のフロアから温かな拍手が送られる。1月18日リリースのE.P『newsong e.p.』を引っ提げて、全国7都市を巡る全国ツアー「ワンマンTOUR 2012 “newtour”」を実施してきたtacica。そのファイナルとなる渋谷O-EAST公演は、2時間弱に及ぶアクトのどこを切っても濃密なエモーションが溢れ出す、素晴らしいものだった。先日したMCにも表れている通り、生真面目すぎるほど生真面目な姿勢で音楽と向き合おうとするtacicaの「今」が、スケールの大きなサウンドに十二分に体現されていたのだ。

定刻を10分ほど過ぎた18時10分、大きな拍手と歓声に迎えられて登場したメンバー。軽く右手を上げた猪狩が“鼈甲の手”のヒリヒリとしたギターリフを掻き鳴らした刹那、場内にピンと張り詰めた緊張感が走る。そこに坂井(Dr)&小西(B)のリズム隊2人の手によるどっしりとしたビートが重なると、雄大な風景が浮かび上がる。そのまま“人鳥哀歌”へ雪崩れ込めば、それまで固唾を呑んでステージを見守っていたフロアは瞬く間にハイジャンプの嵐に。ブレイク部分で披露された小西のベースソロに満場のハンドクラップが送られ、躍動的な一体感が生まれていく。冒頭でステージ上のフラッシュライトがビカビカと点滅した“人間1/2”では、時折ステージ中央で向き合いながら、青白い閃光を放つ三位一体のバンドサウンドを鳴らしていく3人。ギター、ドラム、ベースというタイトな編成であるが故に、それぞれの音の威力が格段に増していることがこの冒頭3曲だけでも明らかだ。鋭利なギターリフと破壊的なビートのせめぎ合いが生々しい興奮を呼び覚まし、フロアのヴォルテージをこれでもかと上げていく。その上を浮遊する猪狩のヴォーカルもグッとしなやかになっていて、楽曲の有機的な広がりを一段も二段も飛躍させているように思えた。

tacica @ SHIBUYA O-EAST
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しかし、何と言っても注目すべきは最新e.p.の楽曲群だ。美しいアルペジオと清冽なビートが立体的に絡み合った“newsong”、くすぶる思いを音に変えたような赤黒いグルーヴがトグロを巻いた“孵化”、シンプルなバンドサウンドの上で切なる思いが歌い上げられた“発明”――全くタイプの異なる楽曲でありながら、どれも聴き手をディープな世界へぐいぐいと導いていく吸引力がすごい。多彩なアレンジによって音の自由度が増したことにより、曖昧に揺れ動く心や答えの出ない思索をそのまま言葉にしたようなtacicaの混沌とした歌詞世界が、更なるリアリティをもって聴き手の胸に刺さってくるのだ。それは、開かれたサウンドを追い求めながらも、決してわかりやすい表現に逃げることなく、自らの心を蝕む迷いや不安と真正面から対峙しようとするtacicaのブレない精神性の表れとも言えるだろう。まるで巨木がぐんぐんと枝葉を伸ばしていくような生命力で強靭なメッセージを放っていく新曲の勢いには本当に圧倒されたし、その間で演奏された“不死身のうた”のみるみる加速度を増していくドライヴ感も、“ハイライト”の美しく熱っぽいメロディラインも、また違った説得力をもって胸に響いてくるように感じた。

“アリゲーター”で再びアグレッシヴに弾けた後は、ドラマー・坂井による恒例のグッズ紹介(今夜もぎこちないトークでフロアの笑いを誘ってました)を挟みつつ、“黄色いカラス”“アシュレー”“バク”とアッパー・チューンを連打。燃え盛るグルーヴで一気に熱くなった場内をクールダウンさせるかのように、その後に届けられた“メトロ”のドラマティックな旋律が本当に美しかった。さらにブルージーな音塊がフロアを不敵に揺らした“某鬣犬”、疾走感溢れるバンドサウンドの上でナイーヴな心象風景が描かれた“タイル”を経て、本編ラストは“命の更新”。徐々に輝きを増していくゴールドの照明をバックに、ほとばしるエモーションを思い切り爆発させて壮麗なクライマックスを迎えた。

tacica @ SHIBUYA O-EAST
アンコールでは、《演奏が終わっても/僕達の音色は変わらない》(“馬鹿”)《ここからも同じように何時でも奏でる/アースコードを》(“アースコード”)とライブの終幕を惜しむような2曲を伸びやかに奏で、“HERO”のソリッドなアンサンブルを疾走感たっぷりに解き放って大団円。「(デビュー・ミニ・アルバムの)『Human Orchestra』をリリースしてから、今年6 月27日で5年が経ちます。今年は5年前と同じ水曜日だから、何か発表したいと思っていて。まだ決まっていない部分が沢山あるのでちゃんと発表できないんだけど、何かあるよってことだけは言っておきたいと思います」(猪狩)と、CDデビュー5周年となる6月27日に新作のリリースを予定していることも告知もされた。ゆっくりとした足取りながら着実な進化を遂げてきたtacicaの音楽は、CDデビュー5周年という節目の時を迎えて更に大きくなっていくはずだ。(齋藤美穂)

セットリスト
1.鼈甲の手
2.人鳥哀歌
3.人間1/2
4.newsong
5.孵化
6.不死身のうた
7.ハイライト
8.発明
9.アリゲーター
10.黄色いカラス
11.アシュレー
12.バク
13.メトロ
14.某鬣犬
15.タイル
16.命の更新
アンコール
17.馬鹿
18.アースコード
19.HERO
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