昨年開通した東京湾の新名所、東京ゲートブリッジを望む江東区立若洲公園で、新たに立ち上げられたロック・フェス=愛称METROCKの記念すべき第一回。高い人気と実力を兼ね備えたアクトがずらりと名を連ねるブッキングもあってか、チケットは全券種がソールド・アウト。2日間開催の初日は見事な好天にも恵まれるなど、この上ない形で快調なスタートを見せてくれた。
ライヴ・エリアは屋外の3ステージから成り、各日全16アクトのタイムテーブルによって初夏のフェスの時間が進行する。若洲公園のランドマークとも言える、風力発電施設の巨大風車(間近で見ると、機能的な三枚羽根のデザインが美しくて凄い迫力)を背負ったWINDMILL FIELDでは、正午にフェスの幕を切って落とすMAN WITH A MISSIONが登場。「METROCK、今年ガ初メテ。ツマリ、我々デ始マル、トイウコトデス。用意ハ出来テルカコノヤロー!!」と、エモーショナルな旋律で歌心を伝える最新シングル曲“Emotions”も絡めたセットでカチ上げる。巨大風車の支柱には鉄腕アトムと一緒に手塚治虫『火の鳥』のイラストも描かれていて、オオカミさんたちの佇まいはまるで『火の鳥・太陽編』みたいでかっこいい。広大な芝のフィールド一面を蹂躙する“FLY AGAIN”のダンスも、さすがに壮観であった。
NEW BEAT SQUAREのトップは、ライヴ・ハウスの熱気をそのまま屋外に持ち出したようなパフォーマンスと、アドリブの歌詞を多く用いて緊密なコミュニケーションの場を生み出す姿勢が痛快だったKNOCK OUT MONKEY。そして、普段はバーベキューなども行うことが出来るという、海に面したもう一つの芝生のステージ・エリア=SEASIDE PARKには、6月にリリースされる待望のフル・アルバム『A PIECE OF WORLD』が素晴らしいThe Flickersが登場だ。青い焦燥感と倦怠感をひしひしと伝えるダンス・ロック。自らを晴れ男と称して自信満々の安島裕輔(Vo./G.)だったが、「皆さんが楽しめば楽しむほど、METROCKは来年も再来年も続きます!」と立派なMCをしていたのも印象的だった。3つのステージはNEW BEAT SQUAREを中央に並び、距離もさほど離れていないので、オーディエンスの体力配分しだいでは、すべてのアクトを観ることも可能だ(すべての演奏曲に触れるのは不可能です)。もちろん、それぞれのやり方で上手に楽しむのが一番ではあるけれども。
きゃりーぱみゅぱみゅはヒット・シングル連打で、キッズ・ダンサーたち=きゃりーキッズとの華やかなステージングで観る者の目を楽しませながら、しっかりダンスのレクチャーも行ってオーディエンスを巻き込んでくれるという親切設計ライヴ。かたや、玄妙なコード感のギター・ワークと奇天烈グルーヴで踊らせに掛かるバンドはHello Sleepwalkersだ。ナルミ(Vo./G.)は、「最近、東京に引っ越して来たので、皆さんに会える機会が増えると思います」と話していた。tacicaは、音を鳴らすこと、歌を歌うことの必然をフィールドに染み渡らせてゆくようなどっしりとしたパフォーマンスで、「この日のために出来たのかも知れない曲です」と“メトロ”を披露する一幕もあった。
「みんな仕事してさ、お金貯めてさ、年に1、2回、こうしてビール飲んで楽しんでるんでしょ。遠慮なんかする必要ねえよ!」と、全身の毛が逆立つほど昂る煽り文句をKjが放ち、怒濤の轟音ミクスチャー・ロックでオーディエンスを跳ね飛ばしたDragon Ash。新曲“Here I Am”をはじめ近年のシングル曲を中心に、“百合の咲く場所で”が特別な空間を演出するという、これぞDragon Ashという劇的ライヴであった。CREAMはキャッチーな歌メロが伝うエレクトロニック・ダンス・ミュージックのセットを繰り広げ、そしてSEASIDE PARKを埋め尽くさんばかりのオーディエンスを相手取ったavengers in sci-fiは、楽器も歌もエフェクトが噛まされているのに、不思議なほど生々しく躍動するバンド・アンサンブルで“Sonic Fireworks”までを駆け抜けてみせる。
鉄板の狂騒DISCO空間を生み出したのは、もちろんthe telephones。「ひとつだけ言おう。今日の主役は、みんなだよ。みんなが未来を作るんだ。未来を作って、ここ(METROCK)を10万ぐらいの規模にしようぜ! そしたら今度は、みんながこっち(ステージ)においで」と、コンパクトに美しいMCを放っていたのはノブである。冒頭に“I Hate DISCOOOOOOO!!!”、ラストに“Odoru〜朝が来ても〜”と、雄々しく大らかな歌声を配してオーディエンスを巻き込むセットもナイスであった。さて、驚くほどの人気で、NEW BEAT SQUAREに入場規制が掛かってしまったのはKANA-BOONだ。2曲目の“ないものねだり”では、シンガロングを誘いながら堂々の長尺プレイに持ち込む。フレッシュ&タイトでありながら、人々の寄せる期待値の高さが窺えるパフォーマンスである。斉藤和義と中村達也によるMANNISH BOYSは、プリミティヴな2ピース・ロックンロールを転がしたところに堀江博久のサポートを迎え、ダーティーかつブルージーな斉藤の歌メロが“天使とサボテン”を、更には達也のスポークンワードが炸裂する“DIRTY BUNNY”を披露。この日2度目の“MANNISH BOYSのテーマ”では、Dragon AshのATSUSHIも飛び入りして舞い踊るという、フェスらしい賑やかなサプライズもあった。
「ぐるぐる回ってる人とかいるけどさ、そういうのは風車に任せて(笑)、まっすぐ俺たちに向かって来てくれよ。何と何をぶつけるかは、俺たちに提案があるんだが、君たちのアンサーと、俺たちのアンサーをぶつけようじゃないか!」という菅原卓郎(Vo./G.)の呼びかけから“Answer And Answer”に持ち込む9mm Parabellum Bullet。アップリフティングなナンバー連発だったけれど、夕暮れで少し肌寒くなった海浜公園に舞う“カモメ”は絶品であった。ニュー・アルバムも楽しみだ。そして、その名の通りフレッシュな出演者が多かったNEW BEAT SQUAREのトリを務めるのはcinema staff。透き通るように美しいギター・サウンドとハーモニー・ワーク、疾走感を兼ね備えたアンサンブルの完成度は、さすがにキャリアの深みを受け止めさせる。辻 友貴(G.)は9mm Parabellum Bulletの滝に負けず劣らずのエキサイトぶりを見せてくれていた。初日SEASIDE PARKの締め括りに、最高の3ピース・ロックンロール・パーティをブチ上げたのが浅井健一だ。目下の新作『PIL』からは“OLD PUNX VIDEO”や“そーゆーこと”で触れる者の野生を呼び起こすベンジー節を放ち、“ペピン”、“SWEET DAYS”、ラストに“SALINGER”という、ブランキー・ジェット・シティ後期のナンバーもふんだんに配したセットがオーディエンスをどよめかせる。結局、アンコールは行われなかったけれど、もの凄い勢いで沸き上がった催促の声にも納得の、見事なショウであった。
さあこの初日、WINDMILL FIELDのアンカーを担うのはサカナクションである。新作ツアーの終盤というこのベスト・タイミングで、メンバーが横一線に居並ぶ“INORI”から、レーザーも駆使した音楽と光の、そして感情の共演が始まる。楽曲はまさに厳選特濃セットといったところであり、華々しいエレクトロニックなダンス曲はもとより、“僕と花”や“Aoi”の現在進行形のヴィヴィッドな響きがすこぶる素晴らしい。アンコールで披露された“ナイトフィッシングイズグッド”は、シチュエーション/感情との完璧なシンクロを描き出す名演であった。というわけで、初年度の初日からハイライトが盛りだくさんだったMETROCK。レポートは2日目へと続きます。(小池宏和)