全米チャート1位を記録した“モア・ザン・ワーズ”を収録し、一躍エクストリームをシーンのトップ・バンドへと押し上げた2ndアルバム『ポルノグラフィティ』。独特のファンクネスを擁したメタルの傑作としてリリースから20年以上経った今も聴き継がれているこのマスターピースをアタマからシッポまで完全再現するとあって、発表直後から往年のファンを沸かせていたのが今夜からスタートする『EXTREME JAPAN "PORNOGRAFFITTI LIVE" TOUR 2012』である。東京ドームシティホール2デイズに始まり、大阪なんばHatch、そして追加公演の渋谷公会堂を含め全4公演の予定ですが、明日からの公演に行かれる方は以下ライブ詳細に触れていくのでご注意ください。
開演予定時刻の午後7時を回ると、ほぼフルハウスの会場はバンドを求めて歓声を上げ、15分ほど過ぎたころ、場内が暗転。アルバム同様の雨音のSEが流れると早くも湧き上がる大喝采! そして、ゆっくりと幕が開かれると、ステージ中央のドラムセットにケヴィン・フィグェリドが、後方に設置された高座にはヌーノ・ベッテンコート(G)、ゲイリー・シェローン(Vo)、そしてパット・バッジャー(B)の3人がズラリと居並び、その威風堂々たる登場感にフロアはヒートアップ! 現れたバックドロップにはフランシス君をあしらったあのジャケットが描かれていて盤石の『ポルノグラフィティ』モードのなか“デカダンス・ダンス”に突入。冒頭からハット&サングラス姿のゲイリーが客席にマイクを向けて、大合唱を引き起こす。ヌーノはトレードマークのワッシュバーンN4ギターを雄弁にかき鳴らし、ちょっぴりふくよかになったパットはケヴィンと共にぶっといグルーヴを量産する。その勢いで2曲目“リル・ジャック・ホーニー”になだれ込むも、序盤で痛恨のギター・トラブル! 幸いすぐに復旧して演奏は続行されるも、なんせ完全再現という試みはバンドにとっても初なもんで、ところどころ感触を確かめるような、忌憚なく書くと少々粗いプレイも散見されることになった(ゲイリー「エクストリームの1stリハーサルへようこそ!」、ヌーノ「リハにお金はらってんだぜ!(笑)」といったMCもあったくらい)。それでも、“ゲット・ザ・ファンク・アウト”の弾むようなファンクネスやヌーノの超絶ソロにはオーディエンスが湧きに湧き、続く“モア・ザン・ワーズ”では、「ビューティフォー!」とヌーノも感嘆するほど盛大かつ美しいハーモニーが客席から放たれた。時折、観客とハイタッチを交わしたり、「次の曲なんだっけ?」(ヌーノ)という小ボケで笑いを誘ったりもして、とてもフランクでアットホームな雰囲気に満たされている東京ドームシティホールである。
しかし、この完全再現というコンセプトがいささか厄介なものでもあって、アルバムを収録順にプレイするという至極シンプルなものだけれど、予定調和が共有されているからこそ、そこに少しでも誤差やズレが生じると、CDがすり切れるくらい聴き込んだリスナーとしては大きな違和感を感じてしまい、「あらっ?」っと熱狂から覚めて我に返ってしまう瞬間があったのも事実。一方、完全再現というコンセプトだからこそ、これまであまりライブで披露されることのなかった“ホエン・アイ・ファースト・キスト・ユー”のような曲も堪能できることとなり、「誰かピアノ弾けない?」とすっとぼけながらも、ヌーノは可憐でジャジーなフレーズを奏で、伸びやかなゲイリーのヴォーカルが誰しもを魅了してみせた。
中盤以降はバンドも完全にペースをつかんだようで、アンサンブルの精度も一気に上昇。中でもハイライトは、ギター・キッズ刮目の“ヒー・マン・ウーマン・ヘイター”。音源ではフランク・ザッパのご子息であるドゥイージル・ザッパが弾いていたという高速テクニカル・フレーズをヌーノは余裕綽々でプレイ、ソロ・パートの華麗なタッピングも鮮やかにキメて場内大沸騰! 唯一無二のギターヒーローっぷりを存分に発揮し、続く“ソング・フォー・ラヴ”では「We need your help!」(ゲイリー)と再び合唱を促し、フロアに大きなウェーヴを広げる。本編ラストの“ホール・ハーテッド”では、「この曲はトイレで書いたんだよな」(ヌーノ)と制作秘話も披露しつつ、ケヴィンはステージ前でパーカッションを叩き鳴らし、ヌーノのギターは優美な音色を奏で、お客さんも手拍子とコーラスで演奏の輪に加わって、この上ないホットな一体感のなか『ポルノグラフィティ』は見事コンプリートされたのだった。
完全再現という呪縛(?)から解き放たれたからか、アンコールでのメンバーは実に伸び伸びとしていて(笑)、ステージ上での公開ミーティングの後、1stアルバム『EXTREME』から“プレイ・ウィズ・ミー”を、そして3rdアルバム『スリー・サイズ・トゥ・エヴリ・ストーリー』から“レスト・イン・ピース”と“キューピッズ・デッド”をプレイ。特に“キューピッズ・デッド”での長大なリフ・プレイは白眉で、メロディ楽器でありながらリズム楽器としての機能も果たしてしまっているようなヌーノの躍動的なプレイにオーディエンスは大熱狂。また、良くも悪くも直線的だったオリジナル・ドラマー、ポール・ギアリのドラミングと違って、ケヴィンのそれはしなやかでいて力強く、楽曲に新たなエナジーを吹き込んでいた。
パットが「もう一曲聴きたい人?」と呼びかけて4人はダブル・アンコールにも応えてくれて、「何が聴きたい?」(ヌーノ)と問いかけてくるもんだから、筆者も「Warheads! Warheads!!」と声を限りに叫んだものの見事にスルー。2007年の復活後にリリースされた『サウダージ・デ・ロック』から“テイク・アス・アライヴ”をアッパーに披露して、ツアー初日は大団円を迎えたのでした。明日以降、回を重ねるごとに完全再現の完成度はきっと高まっていくだろうし、最終日の渋谷公会堂ではレア楽曲を演奏予定とのこと。参加予定の方は楽しんできてください。(奥村明裕)