大物たちのビッグ・ツアー、来年への延期が続々と確定。興行の新たな形が模索されるなか、ロックまみれの2021年を心して待とう
2020.07.27 15:00
本来ならば今頃は世界各地でフェスやサマー・ツアーが実施されていたはず。その多くはそっくりそのまま来年に延期され、すでに振替日程が発表されているものも少なくない。たとえば、デフ・レパードとモトリー・クルーをヘッドライナーとする『THE STADIUM TOUR』もそのひとつ。
この2組に加えてポイズン、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツがスペシャル・ゲストとして登場するというもので、まさにこの夏を象徴する出来事のひとつになるはずだったこのツアーは、結果的に2021年6月18日にナッシュヴィルで開幕を迎え、同9月12日のサンディエゴまで全米各地のスタジアムを巡演することになる(全30都市、31公演)。
モトリー・クルーにとっては、これが2015年末に行なわれたファイナル公演以来初、もっと厳密に言うなら2019年11月の「ツアー停止契約破棄」を経たうえでの初ライブとなる。つまり公式な復活が1年お預けになった、というわけだ。
『THE END OF THE ROAD』というタイトルを掲げながら最終ツアーを展開していたキッスにとっての、いわゆるX-DAYも先送りされることになった。
そもそもこのツアーは2021年7月17日にニューヨークで終幕を迎えることになっていて、バンドのオフィシャルサイト上でもそれに向けてのカウントダウンが進んでいたが、その表示も今は消えている。この新型コロナ禍の影響でツアーができないのは規格外の怪物バンドにとっても同じことなのだ。
すでにヨーロッパ・ツアーの振替日程がいくつかの新規公演追加も含めた形で発表されている。現状、6月2日のベルギーから7月15日のハンガリーに至るまでの日程が公表されているが、今後さらなる追加もあるとのことで、“最後の日”の到来はしばらく先ということになりそうだ。
エアロスミスもこの6月から7月にかけて組まれていた欧州ツアーを実施することができず、やはり2021年の同時期に新たな公演日程で振替ツアーを行なうことを発表している。
また、9月18日に地元ボストンのフェンウェイ・パークにて開催されることになっていた結成50周年記念公演についても、2021年9月14日へと延期になった。ちなみに同会場はボストン・レッドソックスのホーム・グラウンド。同公演には同じボストン出身のエクストリームがスペシャル・ゲストとして出演することになっている。
ふと考えてみると、本来ならば今頃は上記のようなツアーがすべて実施されていたわけで、いわゆるクラシック・ロック寄りのハード・ロックの人気再沸騰(この種のロックが不人気だった時代はないはずだから“人気再燃”ではないのだ)のような現象が巻き起こっていた可能性もある。
しかも今年は、あのAC/DCが新作発表を伴うツアーを実施するものとみられていたし、5月に設定されていたボン・ジョヴィの新譜発表も遅れている。逆に言えば、この先にそうしたバンドたちのツアーや新譜リリースが重なることになるのも想定できるわけで、もしかすると2021年が近年になかったほどロック色の濃い年になる可能性もある。
さて、こうして2021年へと先送りされた大型ツアーは他にもたくさんある。また、現在、日本国内でもさまざまな制約の下で、新常識を模索しながらのライブ開催が始まっているが、同様の動きは当然ながら欧米などにもある。ただ、なかには座席数を極端に減らしながら慎重に実践されているライブもある一方で、ソーシャル・ディスタンスを保つ工夫が一切なされていないイベントも実のところ少なくないようだ。SNSなどにアップされる現地映像などを見てみると、マスクを着用している観客のほうがめずらしいくらいの状況だったりする例もある。
また、ドライブ・イン形式での野外ライブ実施もゆっくりと増えつつあり、8月にはザ・ストラッツもペンシルベニア州で2公演を実施することが決まっているが、たとえばマシーン・ヘッドのロブ・フリンなどはそうしたドライブ・イン型公演について去る6月の時点で「いまだかつて見たこともない愚行」などと否定的な発言をしていたりもする。
確かにマシーン・ヘッドのようなバンドがそれをやるのには無理もあるだろうが、誰もが手探りで道を探しているなか、こうした試みについて頭ごなしに批判したり、馬鹿にしたりするのもいかがなものかという気はする。配信ライブを有効な手段として認めるか否か、という問題についてもそれは同じだ。絶対的な正解、模範解答というものが存在しない以上、今現在の状況下でできるのは、あくまで政府などにより示されたガイドラインに沿いながらのライブを開催し、成功実績を積み重ねていくことしかない。
そうすることによって規制が少しずつ緩んでいき、かつての日常に近い状態の奪還へと繋がっていく。そして、だからこそ同時に、迂闊な判断による興行実施で失敗して欲しくない。真面目に対処と工夫を重ねている人たちの努力がそれによって無駄になってしまうのだから。
話がやや横道に逸れたが、この状況下においてライブ活動のあり方を真剣に模索しているアーティストや関係者たちに対する感謝と敬意の気持は、忘れずにいたいものだ。そして、心おきなくライブを楽しむことのできる日常を少しでも早く取り戻せることを何よりも強く願っている。(増田勇一)