マニック・ストリート・プリーチャーズ @ 新木場スタジオコースト

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デビュー・シングル“モータウン・ジャンク”のリリースから20年の節目の年となった昨年、2枚組シングル・コレクション『ナショナル・トレジャーズ』をリリースしたマニック・ストリート・プリーチャーズ。いわゆるベスト盤的な枠組みの作品としては2002年にリリースされた『フォーエヴァー・ディレイド』があるので、対する『ナショナル・トレジャーズ』はマニックスのベスト・ヒット曲集と言うよりも彼らの20年史を包括・総覧する歴史的資料の意味合いが強い作品だと言える。2枚組38曲のフル・ヴォリュームはマニックスの20年に亙る死闘の成果だ。

「ナショナル・トレジャーズ‐ザ・コンプリート・シングル・ライヴ」と題された今回のツアーは、そんな『ナショナル・トレジャーズ』の収録曲を再現するというコンセプトに基づいたツアーだ。昨年のロンドンO2アリーナ公演同様に「2日間やる」というのも今回のツアーの重要な決まりごとであって、彼らは『ナショナル・トレジャーズ』収録の38曲を2日間に分けて全曲プレイすることになっている。ちなみに2日間の曲の割り振りに関して規則性は皆無で、その日ごとに独自のセットリストを作成するため、当日までどの曲がプレイされるのかファンは分からないという仕組み。逆に言えば2日間通えば必ず全曲(+“スーサイド・アレイ”、“ニュー・アート・ライオット”)プレイすることが保証されているわけで、ハードコアなファンにとっては堪らない2日間なのだ。

そんな「ナショナル・トレジャーズ‐ザ・コンプリート・シングル・ライヴ」のオープニング・アクトを務めているのはスーパー・ファーリー・アニマルズのグリフ・リース。マニックスとSFAはウェールズ出身の同郷仲間で、今回の共演もその縁で実現したもの。SFAを10倍DIYにして10倍アナログにしたかのようなグリフのソロ・セットは正味20分強と短かったけど、「拍手してください」「ありがとうございます」といった日本語カンぺを掲げながらのショウはおなじみのSFAスタイルに則ったもの。「マニックスのショウを楽しんで!」とステージを後にしたグリフに惜しみない歓声が送られ、会場のあちらこちらでウェールズ旗が揺らめいていた。

そして8時少し前、場内が暗転し、大歓声の中でマニックスが登場する。記念すべき1曲目は“享楽都市の孤独”! いきなりの初期のスーパー・アンセム! この曲がこんなにも爽快(?)に、センチメント皆無に疾走する光景初めて観た気がする。満場のオーディエンスとのコール&レスポンスもばっちり決まり、最高のスタート・ダッシュが決まる。92年の初来日からマニックスのライヴは欠かさず観続けているが、今回のショウの特筆すべき印象を一言で言うなら「オープン」。マニックスの20年間を「平場」で鳴らすと言うか、マニックスの苦闘の歴史の陰の部分を一旦取り除いて、「それでも生きてこられた事実」をファンと共に祝福しようとする意思を強く感じる内容だ。

“ユー・ラヴ・アローン”まで畳みかけるようにプレイしきったところで「ゲンキデスカーイ?!」とジェームス。ある時期から全く老けなくなった彼は小柄な体躯に人一倍屈強な筋肉と人一倍高性能なバネを兼ね備えた相変わらず頼もしすぎる太腕繁盛記なルックス。ステージ上手には相変わらずド派手なモールで飾られたスタンドマイクと相変わらずアンニュイでセクシーなニッキー・ワイアーが佇み、そしてドラムセットにはショーン・ムーアが座るといういつもの布陣。そこに加えてステージ下手の奥まったところはサポート・ギタリストとキーボーディストが、そしてステージ下手の手前、かつてリッチーの立ち位置だったそこはもちろん今日もまた不自然に空白があいている。

曲調もリリース時期もてんでばらばらな楽曲達がランダムに並んだこの日のセットリストは、20年に亙って常にスーパー現役バンドであり続けてきたマニックスの稀有な個性を改めて確認できるものだった。誰もが知っている90年代前半の名曲と、誰もが知っている2000年代後半の名曲を共に所有するバンド――というものがUKにあって如何にレアな存在であるかは言うまでもないが、マニックスとは数少ないそのレアな存在なのである。メロディアス・マニックスの真骨頂と呼ぶべき“オーストラリア”は歌メロをなぞるジェームスのギターの饒舌に驚かされる。というかこの人は本当にギタリストとしてもヴォーカリストとしても頭抜けた才能の持ち主で、しかもその才能を常に150%発揮し尽くす凄まじい仕事量を誇る人でもある。

「(初来日の川崎)クラブチッタで僕らがプレイしてから20年経ったね」とニッキーが言って始まったのは“ラヴズ・スウィート・エグザイル”、そして「『ホーリー・バイブル』からのナンバーだよ」とジェームスが言って始まった“シーズ・サファリング”と、中盤は1曲毎に彼らが曲を紹介しながらプレイしていくちょっと懐古調のセクションだ。“シーズ・サファリング”のヘヴィネスはこの日のオープンで快活なテンションの演奏中でちょっと異質を感じさせるもので、たぶん今日は“ファスター”がその役割を果たすと思う。『ホーリー・バイブル』とは、そういうアルバムだったのである。

「ブリットポップってのが昔あったよね(笑)、これはその頃の曲だね」とジェームスがちょっと皮肉を効かせて始まったのは“エヴァーラステイング”。こちらは「泣きのマニックス」の極点が刻まれたナンバーで、そこからスーパー・アンセミックな“リヴォル”へとなだれ込む落差が猛烈な快感を呼び起こす。そして“TSUNAMI”。マニックスがこの曲を再び日本でプレイできるようになったことには感慨を覚えずにはいられなかった。続いて日本でのみシングル・カットされた“ファーザー・アウェイ”がアコースティック・セットで披露され、この“TSUNAMI”から“ファーザー・アウェイ”の柔らかな流れが本当に素晴らしく、ステージ上の彼らとの距離が一気に縮まったように感じた。後半戦は各時期のキラー・アンセムが贅沢に連打される構成で、“モータウン・ジャンク”でフロアは蜂の巣をつついたような騒乱状態に、そしてオーラスの“イフ・ユー~”では文句なしの大合唱が巻き起こる。アンコールはなし、「明日も待っているよ!」と叫んで彼らはステージを後にした。

最後に昨夜のセットリストを記載しておきます。ご覧のとおり、あの曲も、あの曲も、あの曲も昨夜は演っていません。つまり、あの曲も、あの曲も、あの曲も、彼らは今夜演るんです!行かれる方はぜひとも楽しみにしていてください。粉川しの

新木場スタジオコースト 5月17日
1. Motorcycle Emptiness
2. Your Love Alone
3. Ocean Spray
4. (It’s Not War) Just The End Of Love
5. Australia
6. Love’s Sweet Exile
7. She Is Suffering
8. From Despair To Where
9. The Everlasting
10. Empty Souls
11. Revol
12. There by the Grace Of God
13. Tsunami
14. Further Away (Acoustic)
15. Suicide Alley
16. Life Becoming A Landslide
17. This Is The Day
18. Some Kind Of Nothingness
19. Little Baby Nothing
20. Motown Junk
21. If You Tolerate This Your Children Will Be Next
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