怒髪天 @ 渋谷公会堂

怒髪天 @ 渋谷公会堂 - photo by 石井 麻木photo by 石井 麻木
怒髪天 @ 渋谷公会堂
 「はいこんばんは! よく来た! 今日来たのは誠に選ばれし者……平日! 平日! 普通は仕事だから。終わってからじゃ間に合わねえんだ、近県の人は」という増子直純兄ぃの呼びかけに、すかさず合いの手の如く「休んだよー!」の声が飛べば「休んだ? やめちまえ!(笑)」とマシンガンのように応える名調子が続き、序盤からがっつり揺れまくる熱狂空間をさらに熱く煽り立てる! 最新アルバム『Tabbey Road』を引っ提げて、5月6日・大阪城野外音楽堂からスタートしたばかりの全国ツアー『OK! Let's Go TOUR 2012“夢追道中”』。札幌道新ホール/札幌KLUB COUNTER ACTION/盛岡CLUB CHANGE WAVE/青森Quarter、といった具合にホールもライブハウスもありのこのツアー、2日連続となる東京公演だけ見ても22日・渋谷公会堂(キャパ約2300)→23日・下北沢SHELTER(約250)とハコの大小構わず荒ぶる魂を炸裂させまくるツアーであることが伝わると思う。そして、「大丈夫かなって思うよね、今日あって明日(23日・下北沢SHELTER)あるでしょ? 明日のこと考えると気が滅入ってきますからね!」という兄ぃのてやんでえ調のMCが「それでもやるぞ!」という何よりの闘争宣言であることも、この場にいるオーディエンスは痛いほど知っているのである。

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 まだツアー序盤なのでセットリスト全掲載は控えさせていただくが、『Tabbey Road』全曲に加えて『武蔵野犬式』や『リズム&ビートニク』あたりからの選曲まで盛り込んでアンコールまでトータル2時間、頭のてっぺんから足の先に至るまでエネルギーのみなぎりまくった熾烈なアクト! 歌謡魂とパンク魂がせめぎ合う“YO・SHI・I・KU・ZO・!”といい、ハード・エッジでファンキーなビートとともに《もともと ダメでもともと》と高嶺の花へのロマンを逆噴射させる“もっと・・・”といい、坂さんこと坂詰克彦のハイハットが裏拍を刻む爆裂ハード・ディスコ・ロック“愚堕落”といい、惜しみなく強烈なアンサンブルと絶唱をぶっ放して渋谷公会堂をアゲ倒していく。「ニュー・アルバム『Tabbey Road』はわりと速い曲が多くて……自分で自分の首を締めるっていうね(笑)。やあ、でもね、今まで5ヵ所やってここに来て、まだあと4倍ぐらいあるから。5倍か? 29公演! いっつも言うんだよ、毎年暮れにスタッフが『来年どうしましょうか?』みたいな。だから、『がんがん会いに行こうよ! ライブたくさん入れてくれよ!』と。で、年明けに『こんな感じでどうでしょう?』って見せられると『……言ったっけ?』って。どんどん多くなっちゃって大変! 我々、若くなるわけはないですからね!」「今回はホールもライブハウスもやりますけど、やっぱりね、ホールの椅子ありのほうがいいっていう人もいるんでね。俺も人のライブ観に行ってほんとにそう思ったけどね、MC長いやつとかね? ロック・バンドにMCなんて要らないですからね!」と言いつつ「もう、言わなくてもいいのに金環日食の話とかばっかりしてるのがいるんですよ……で、どう? シミさん見た? 寝てた?」という、もはや「話芸」と呼びたいくらいのMCの一言一言が、客席を埋め尽くしたオーディエンスの情熱の火にさらに油を注いでいくのがわかる。

怒髪天 @ 渋谷公会堂
 「アルバムのほうは聴いてくれたかーい!」「ロックだぜ! みんな、ノリノリだね! どのくらいノってるかい? 100%かい?」と、兄ぃとは対照的にぎこちないMCの坂さんがセンターに出てきて振り付け始動を行った、スカmeetsロシア民謡的な“押忍讃歌”。兄ぃが休憩がてら退場している間に超絶ギタリスト・上原子友康がヴォーカルをとって3ピースで披露したソリッドなロック・ナンバー“夢と知らずに”。母ちゃんの甘口カレーを全身全霊傾けて賛美する“ナンバーワン・カレー”の朗らかな音像……といった場面の数々が、燃え盛る40代男のド根性魂と乱反射し合って至上の祝祭感を描き出していく。が、何より印象的だったのは、通常ならば爆演乱れ撃ちの合間に話芸的MCを挟んでペース配分を考えつつライブを組み立てている彼らが、特にライブ後半はほぼノンストップで、生き急ぎまくりの衝動暴発ロックンロールを体現していたのが印象的だった。当然ながら、増子直純46歳のみならず平均年齢45歳のバンドにとっては、やる曲どれもスペシウム光線状態の楽曲を連射していくという、肉体的にもより過酷な演奏を自らに課しているわけだが、その逆境(?)がかえって4人の不屈の闘争心をこの上なく燃え上がらせ、オーディエンスの情熱だだ漏れの大歓声とシンガロングを巻き起こしていく。

怒髪天 @ 渋谷公会堂
 「最高! ほんっと最高! こうやって『明日のことなんてどうでもいい』と思える瞬間があるのは嬉しい。明日中止な! お前ら明日は代わりばんこで歌えよ! 俺らも観に行くから(笑)」と息を切らしながら語る増子兄ぃ。当初の「Don't trust over 30」的なパンク/ハードコア精神をがらりと位相転換させ、「真っ黒なこの世を大人として図太く生き抜くためのロックンロール」へと自らを再構築しながら、結成から四半世紀以上経った今も力強いロック・アイコンとして存在し続けている怒髪天。しかし、この日の彼らの姿がでっかいスケールで提示していたのは、「諦めの悪い40代バンドによる、時代へのレジスタンス」でもなければ「音楽シーンにおけるオッサンvs若者の対立構図」でもない。ただひたすらに、「生きる」ということのカッコ悪さと裏腹の喜びとありがたみの在り処を、全力で指し示していた。だからこそ、「嫌な時代だよ。悪いことばっかりだ。それでもがっつり咲いてくれ!」という言葉とともに兄ぃが喉も裂けよとばかりに歌い上げた“雪割り桜”は、この場にいた僕らすべての凱歌として胸に響いた。客席一面に高々と突き上がる拳。びりびりと空気を震わせる《雪割り桜 冬の時代に 俺達は咲いた花》の大合唱……怒髪天にしか鳴らし得ない最高のロック・アンセムの形が、ここには確かにあった。

 「北海道から来ましたけど、東京がホームグラウンドですね!」といいこと言った風のMCを「っていうか、行く先々がホームグラウンドです!」と台無しにした挙げ句「ほんとにこれからも頑張っていきますんで、この先もよろし※△%&……」と噛みまくりで締め括った坂さん。「楽しいかー! 本当に楽しいかー! 俺はもっともっと楽しいぞー!」と抑えきれない想いをそのままあふれさせていたシミさん。「今回の『Tabbey Road』を作った時ほど、ツアーを待ち遠しく思ったことはなくて。お客さんが歌ってウワーッてなってくれるのを想像して作ったもので。想像通り、それを越えた光景が繰り広げられてるので。すごく嬉しいです!」と友康さん。そして、「今日は(映像の)収録も入って、しかもホールで……もうちょっと落ち着いて、余裕のある感じでやるべきだと普通は思う。俺も思う! でも無理なの! 目の前にみんないるのを見ると、うわああっってなっちゃう!」と、真っ赤な顔をくしゃくしゃにして話していた増子兄ぃ。アンコールでエネルギーの最後の1滴まで絞り尽くした後、終演SE:チューリップ“青春の影”をバックに「ありがとう!……ありがとう! またすぐ帰ってくるから。今日持ってる分、全部渡したぞ! 生きてまた会おうぜー!」と叫び上げる兄ぃの言葉を残して、圧巻のステージは幕を閉じた。沖縄追加2公演含め全29本のツアーは、7月16日:東京・Zepp Diver City&7月21日・22日の沖縄追加2公演までまだまだ続く。そして翌日・5月23日は下北沢SHELTER公演!(高橋智樹)
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