ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ 日本武道館

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ 日本武道館 - pic by MITCH IKEDApic by MITCH IKEDA
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ 日本武道館
ノエル・ギャラガー・ハイ・フライング・バーズ名義としては今年1月の東京ドームシティホールから僅か4ヶ月ちょいでの再上陸となる来日公演の初日であり、ノエル個人としては1998年の『ビィ・ヒア・ナウ』ツアー以来の武道館公演となった昨夜。1月のTDCホール公演がキャパ3000というあり得ない規模のスーパー・プレミア・ギグだったとしたら、昨夜は満を持しての武道館、ノエル・ギャラガーにようやく与えられた最適な場としての武道館公演だったと言っていい。初のソロ・アルバム『ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ』で批評的・商業的評価の両方を手中に収め、向かうところ敵なしの状態で「ポスト・オアシス」期をひとり歩きだしたノエルにとっては、この武道館公演は半年弱のインターバルにして早くも「凱旋」再来日の意味合いすら感じさせるものでもあった。

席についてまず驚いたのはステージの作りだ。ステージ真正面に位置する一階の自分の席から会場を見渡すと、ステージの「裏側」にもお客さんが座っているのが見える。そう、いわゆる360度ステージというやつだ。ちなみにビートルズが武道館で演った時も360度ステージだったというから、ノエルの頭にはビートルズへのオマージュの意味合いもあったのかもしれない。とにかくスタンド席の「東」「西」「南」「北」の全方角にオーディエンスがいて、しかも2階の上の上までぎっちぎちに詰まっている武道館の画はまさに壮観。そしてこの360度ステージがこの日のショウにもたらす凄まじい効果と意味は、最後の曲で明らかになることとなった。

場内暗転から青いライトがふわっと足元から立ち上がり、始まった1曲目は“トゥ・ビー・フリー”。このスターターはTDCホール公演と同じだ。アコギで緩やかに始まるナンバーなのだが、どうやらノエルのアコギのチューニングが不良だったらしく、即座にギター交換を幕内で待機していたギターテクに指示する兄貴。と、そのギターテクがノエルのアコギからコードをためらい無く引っこ抜いたせいで演奏中に「ブツッッッ!」と音が途切れて思わず苦笑いの兄貴……と、珍しくグダグダしたオープニングとなったが、そこから速やかに立て直していくバンドは流石で、“マッキー・フィンガーズ”では一気にバースト、赤いライトが点滅する中でファスト&ラウドに生まれ変わった“マッキー・フィンガーズ”が冒頭のユルさをあっという間に帳消しにしていく。ちなみにそんなノエル達のステージ上方には左右1枚づつ大きなスクリーンが取りつけられていて、そこにはバンド・ロゴやイメージ映像が随時映し出されるしくみになっている。

数曲畳みかけるようにプレイし終わったところで「グッド・イヴニング、ハロー」とノエル。「久しぶりの武道館だよ。15年ぶりだったかな? 今日は初っ端でしくじって悪かった。こんなに長くやってるのにまだ間違えるなんてね」。そして“イフ・アイ・ハド・ア・ガン”から“ザ・グッド・レベル”へ。この“グッド・レベル”が出色の出来で、「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ」としてのバンド感が格段に増している。彼らはノエルのギターと歌を影から支えるというサポーターではなく、積極的にノエルのギターに絡んでいくノエルと同等のプレイヤーへと進化していた。ノエル+その他プレイヤーの力関係という意味ではオアシスに勝るとも劣らないアンサンブルなんじゃないだろうか。断然良くなっていると言えば新曲の“フリーキー・ティース”も初披露のTDCホール公演とは比べ物にならない迫力、ネオン・カラーの照明もセクシーなこの曲はオアシスではレアだった縦方向のグルーヴの発明を感じるものだ。ここまでがいわゆる第一部で、場内は一時暗転、そしてアコースティック・セクションへと移っていく。

今回のセットリストと1月のセットリスト(http://ro69.jp/live/detail/62887)を見比べてもらえば分かるように、ノエルの現在のツアーは若干の曲の入れ替え&曲数の増減はあるものの、基本的にある決まったフォーマットに則ってセットリストが組まれている。まずは『ノエル・ギャラガーズ~』のナンバーを立て続けに披露し、“フリーキー・ティース”で〆るアップ・トゥ・デートな第一部。この第一部に混ぜ込まれ、ショウの中で初めて鳴るオアシス・ナンバーが(そこまで人気のない地味曲)“マッキー・フィンガーズ”だという点にも、ノエルの「まずは<今>を聴いて欲しい」という意思と自信を感じるものだ。そして1曲、もしくは数曲のアコースティック・セクションを挟んだ後に、『ノエル・ギャラガーズ~』の中でもちょっと変化球気味のナンバーと、通好みのオアシス・ナンバーが共存する第二部へと進む。この二部はノエルのソロとオアシスが地続きの関係であることを改めて証明するコーナー。そしてアンコールでは誰もが待ち望む「みんなの歌」が惜しみなく振る舞われ、大団円を迎える――という構成だ。「今」に対する凄まじい自信と、その自信を裏付ける傑作ソロ・アルバムと、そして過去=オアシスに対する消えぬプライドがあるからこそ、ノエルはこういうショウをやれるのだと思う。

「アラン・マッギーに捧げる」と言って始まったのが“スーパーソニック”のアコースティック・ヴァージョン……ってことはさっきPA卓のあたりにいたアラン・マッギーに似たおっさんはやはりマッギー本人だったということか! しかし、オアシスのデビュー・シングルを、オアシスを発掘した恩人に捧げるというセンチメンタルなその演出とは裏腹に、ノエルはこの“スーパーソニック”をかなり大胆にアレンジして披露する。リアムのヴォーカル曲である“スーパーソニック”にひねりを加えて新たに「生み直していく」あたりに兄貴の意地みたいなものが見受けられて面白い。

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ 日本武道館
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ 日本武道館
そしてそんな“スーパーソニック”を挟んで始まった第二部は『ハイ・フライング・バーズ』中でもよりハードなナンバー、よりメロウなナンバー、よりファストなナンバーと、少しずつ「異質」な曲と、“トーク・トゥナイト”や“ハーフ・ザ・ワールド・アウェイ”がミックスされていくことで、ノエルの才能の多彩、レンジの広さを改めて感じさせる内容になっている。そして本編ラストは“スタンデッド・オン・ザ・ロング・ビーチ”。相変わらず全くエンディング感、フィナーレ感の無い本編ラストのこの選曲にはちょっと笑ってしまったが、もちろん私達ファンはこの一旦終了の儀式の後に何が始まるのかは熟知しているため、速やかにノエル達の再登場を熱望するコールが巻き起こる。

“レット・ザ・ロード~”で渋めに始まったアンコールも、日本でオアシスのファンをやっている醍醐味である“ホワットエヴァー”、そして“リトル・バイ・リトル”で大合唱を次々に決めていった頃には既に場内は息苦しいような、叫び出したいような、とにかく爆発しそうな感情を寸前でなんとか押しとどめ、完全燃焼の瞬間を待つアイドリング状態へと突入していく。そして「あと1曲でさよならだ。後ろの人もありがとう」と言ってノエルがステージ裏のファンに手を振り、そんなノエルに答えてステージ裏のオーディエンスが総立ちになったところで、遂に“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”が鳴った。

柔らかい黄金色の照明に照らされて、場内が明るくなる。この瞬間、ステージ裏の人達は恐らく凄まじい光景を目の当たりにしたはずだ。ステージに向かって雪崩打つような合唱、揺らされる数千の手、「1万人がひとつになる」なんていう陳腐な比喩が文字通り具現化されたその光景を、“ドンルク”を歌うノエルがいつも目の当たりにしてきたその光景を、ノエルと同じ方角から観ることができたのだから。そしてそんなステージ裏の人達の興奮を、私達もまた目撃できるという相乗効果――360度ステージとはつまり、こういうことだったのだ。いつしかステージ上のノエルは、武道館の真ん中に立つノエルは黒子のようになっていき、ノエルをぐるりと360度囲んだ私達へと主役の座が引き渡されたのを感じた。「オアシスの楽曲とはすなわち私達である」というオアシスの本質を、こんなにもはっきりと目の当たりにできた“ドンルク”は初めてだった。(粉川しの)

1. (It's Good) To Be Free
2. Mucky Fingers
3. Everybody’s On The Run
4. Dream On
5. If I Had A Gun
6. The Good Rebel
7. The Death Of You And Me
8. Freaky Teeth
9. Supersonic – Acoustic
10. (I Wanna Live In A Dream In My) Record Machine
11. AKA... What A Life!
12. Talk Tonight
13. Soldier Boys And Jesus Freaks
14. AKA... Broken Arrow
15. Half The World Away
16. (Stranded On) The Wrong Beach
encore
17. Let The Lord Shine A Light
18. Whatever
19. Little By Little
20. Don't Look Back In Anger
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