ファンクの生き字引にしてファンク大学校長、還暦のブーツィー・コリンズが、昨年のサマーソニック&単独公演に引き続き今年も来日を果たしてくれた。今回はビルボードライブへの出演であり、5/31から6/2の3日間は東京で、6/4には大阪で、各日2公演ずつ都合8公演のステージが繰り広げられている。その東京2日目、1st STAGEの模様をレポートしたい。今後も公演は引き続き行われるので、参加予定の方はどうぞ閲覧にご注意ください。
山積みになったアンプの光景によって、音が鳴り響く前からド迫力のファンキー・サウンドを連想させ気持ちを昂らせてくれるステージ。まずはThe Funk U Bandのメンバーたちが登場する。昨年の来日に同行していた盟友バーニー・ウォーレル(Key.)やブーツィーの息子ウイウィー(MC/Vo.)は残念ながら不在だけれど、男女コーラス3名、ホーン・セクション3名を含め、ベーシストにはT.M.スティーヴンスという賑々しい大所帯バンドである。最新アルバム『Tha Funk Capital Of The World(邦題:魔法の未来都市=ファンクと「U」な仲間たち)』のオープニングを飾っていた“Spreading Hope Like Dope”のイントロが響き渡り、背景のスクリーンには宇宙艇を乗り回すブーツィーのアニメーション映像が流される。いよいよ、というムードが形作られていった。
お馴染み“Ahh… My Name Is Bootsy, Baby”の中、ステージ上と客席の至るところからファンク・サインが突き出され、歓声に包まれながら迎え入れられるブーツィ。白い歯をむき出して笑いながら紫ラメのスーツがテカテカと煌めき、ネックまで白い星型ベースからさっそく強烈な低音を繰り出してくれる。あっはっは、音デカ過ぎ。バンドも負けじとアップテンポなファンク・グルーヴを練り上げ始める。ファルセットのコーラスとホーン・セクションの華やかなサウンドが煽り立てるようにして、次第にこれぞPファンクのど真ん中というサウンドへ会場丸ごと飛び込んでいった。Pファンク・ファミリーのギタリストであるドウェイン・“ブラックバード”・マクナイトのロッキンなギター・プレイも差し込まれる。かつて、レッチリのヒレル・スロヴァクが急死したとき、ジョン・フルシアンテが加入するまでの短い期間ながら穴埋めを務めたのはこの人だ。
ブーツィーはというと、衣装チェンジを行うため頻繁にステージから姿を消してしまうのだが、そんなときに大活躍するのがドレッドロックスを揺らして前線に躍り出るT.M.スティーヴンスだ。驚異的な速度の暴れベースを披露し、そこからなだれ込むのはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの名曲“I Want To Take You Higher”。客席を左右のブロックに分け、声量を競わせるようにしながらシンガロングさせる。ブーツィーに憧れてベーシストの道を志し、クロスオーヴァーなプレイヤーとして随一の存在となったスティーヴンスが、スライの曲でカチ上げてしまうというのもおもしろい。
そして今度はショッキング・ピンクのウィッグを身につけて再登場するブーツィー。またまたけたたましい爆音でスラップ・ショットを披露してくれる、このアイコンとしての引き受けっぷりとインパクトが絶大だ。強力なファンク・チューンが続いたかと思えば、ここで切々としたメロディを持つバラード、ブーツィーズ・ラバー・バンドの名曲“I’d Rather Be With You”へ。ジミヘンを彷彿とさせるような、男の色香と優しさ、力強さを兼ね備えるブーツィーのトーキン・ブルース風ヴォーカルが場内を満たしてゆく。フィジカルに訴えかけ反復するファンク・グルーヴだけではなくて、こんな美しいメロディを紡ぎ上げてきたことも、ブーツィーの包容力を説明している。エモーショナルなリード・ベースも弾きまくりである。
昨年のオリジナル・アルバム『Tha Funk Capital Of The World』は、甥っ子のスヌープ・ドッグやアイス・キューブなどGファンクの立役者やチャック・Dらが参加したラップ・チューンに始まり、アングラなディスコ・ナンバーやモダナイズされたブルース・ロックも含めPファンク以前にまで時代を遡るようにしながら、ブーツィーの総覧性/懐の大きさを堂々伝えるアルバムだった。ブラック・アイデンティティを宇宙規模にまで膨張/昇華させることで得られたPファンクのワン・ネイション・アンダー・ア・グルーヴという肯定性は、徹底的にそれを押し広めることでしか説得力を得ることができない。だから、作品やライヴ以外の場においても、生涯を通じてブーツィーは、自らアイコンと化してジョージ・クリントン総帥から受け取った志に人々を巻き込もうと努める。
シルバーのマント状の衣装に着替えて最高のスマイルを見せるブーツィーは、まるであの『E.T.』の名シーンのように、前線のオーディエンスとファンク・サインでタッチする。奥方パティ・コリンズも目一杯ファンキーな衣装で踊り回っていた。そして“Mothership Connection (Star Child)”から名フレーズがメドレーのように飛び出すクライマックス。ブーツィーは最前列のテーブルに乗ってしまうだけには飽き足らず、フロアを練り歩いて多くのオーディエンスと次々にハグを交わすのだった。お約束と言えばお約束なのだろう。しかしブーツィーには、人々とハグを交わす必然がある。恐れながら僕も、興奮の最中でそうさせてもらった。ブーツィーと頭をすりすりと擦り合わせ、せっかくなので愛を囁いておいた。あれはお香だろうか、汗に濡れたブーツィーは、とても良い匂いがした。(小池宏和)