これまでにもナイスなブッキングで、ファンを唸らせてきた同イベントだが、今夜も凛として時雨、the telephones、OGRE YOU ASSHOLE、THE NOVEMBERSと、“今ライブが観たい”と熱望されているバンド達がズラリ。当然チケットもソールド・アウトで、18時40分の開演から場内は超満員だ。
一番手で登場したのは、OGRE YOU ASSHOLE。新曲\"しらないあいずしらせる子\"から幕開け。甲高い歌声、ギター、ベース、ドラム。そのリズミカルなアンサンブルが生み出す、雄大なグルーヴに、体内の小宇宙がザワザワと疼きだす。リフレインするギター・リフが聴き手を異次元へと誘う“コインランドリー”をパフォーマンスしたところで、ボーカルの出戸が「昨年の理樹の誕生日は僕の実家(長野県原村)で過ごしました」とMC。続けて「リッキーはそのときカゼひいちゃって、どっか連れていこうと思っていたけど(実家の)2階で寝ちゃっているという残念な20代最後の誕生日を過ごしました」と、木下のバースデイ・エピソードを開陳。「30代の最初はこんなに大勢の人に囲まれて。リッキーうしろで泣いていると思うよ」と、笑いを誘った。
続けてステージに姿をみせたのは凛として時雨。暗い場内に345(B/Vo)の妖艶な歌声が響き渡る。“赤い誘惑”だ。TK(Vo/G)の闇を切り裂くような叫びとともに、一気に暴力的な音の洪水が押し寄せてくる。狂乱のドラム、めまぐるしい変調をみせるリズム、時空の隙間を音と歌声で塗りつぶしていくケオティックなサウンドに心のヒダがどうしようもないほど共振して、怒り、諦念、信念、希望…様々な感情があぶり出されていく。そうなったら本能の赴くままにこの爆音の狂宴に身を委ねるしかない。ここまでギリギリのテンションで追い詰められないと解放されないのか、それとも心の底で蠢くものがここまで狂騒的に切迫しているのか。ほぼMCなしで、駆け抜けていくパフォーマンス。“Telecastic fake show”“DISCO FLIGHT”“nakano kill you”など全6曲を披露。しばらくフロアには、鮮やかに\"核心”を射抜かれた余韻が残っていた。
そして三番手は、THE NOVEMBERS。全員黒を基調とした衣装で登場。真紅のライトに染め上げられたステージとのコントラストが美しい。4人は足元をみつめ、一心不乱に頭を振り乱しながら轟音を繰り出す。不穏と煌きが危ういバランスで同居するスリリングなサウンド。どこまでも救いのない絶望の描写が、逆説的に救済をもたらす。“こわれる”“アルルカン”に続けて「今日のイベントはfuck you art school。自虐的ですよねー」と小林(Vo/G)がボソっとMC。思わず場内から笑い声が。「10代の頃のことを思うと不思議です。僕ART-SCHOOL大好きなんで」と、淡々とした口調の中に、今夜の出演を感慨深く思う気持ちが染み出た一言には思わず拍手も。今さらだけど、ART-SCHOOL結成から約8年。彼らの蒔いた種はシーンに根付き、脈打つものとなっているのだ。
対バンのラストを飾るのは、今夜最も赤坂BLITZの巨大ミラー・ボールが似合うバンド=ダンス×ロックの急先鋒、the telephones。赤、青、黄と色とりどりのアフロ4人がビートに乗せ て勢いよく登場すると、「Put Your Hands」の掛け声にあわせて、オーディエンスも一斉に両手を挙げての手拍子を。ステージから「キノシタ」とのコールがあれば、客席からは「ナイト」とレスポンスが。一気に空気を掌握してしまっている。彼らの勢いとフロアの期待感が上手く絡み合い、胸のすくような痛快なヴァイブが場内に満ちている。ダンス、メタル、パンク、ロック、歌謡曲までが、がっぷりと組み合ったハイブリット・サウンドは、いわゆる海外の「ニュー・レイヴ」とも毛色が違う。日本で進化/深化した“踊り出さずにはいられない”ロック。今目の前には、彼らのサウンドが「こんな音を待っていたんだ!」という歓喜をもって迎えられている光景がある。彼らの画期性はフロアから本質的に見抜かれ、そして求められているのだ。なお、小林(Vo/G)はMCで「理樹さん誕生日おめでとうございます。みんな拍手を。まあ、僕は理樹さんとの付き合いは長くないですが…。4月のメタル・ナイト(吉祥寺のクラブのイベント)で一緒にDJやってからです」と両者の関係性を律儀に説明してくれた。ちなみに、ヒリヒリした緊迫感溢れる新曲“RIOT!!!”も披露されました。
そしてあっという間に、ラストART-SCHOOLの時間に。SEのエイフェックス・ツイン“ガール/ボーイ・ソング”が流れる中、黄金色のバック・ライトに照らされた黒い4人のシルエットがステージに浮かびあがる。“FADE TO BLACK”のリフが力強くかき鳴らされると同時に場内中がまばゆい閃光に包まれる。鮮烈なオープニング。“サッドマシーン”“DIVA”に続けて「ありがとう」という今日の木下の第一声が。場内から「おめでとう」の掛け声があり、それに応えて「僕の18歳の誕生日にありがとう。18歳になりました」と言い放ってみせた。冗談っぽく言っているけど、確かに“永遠の18歳”かもしれない…、と思わせたところで、あらためて30歳トークを。「好きなバンドで30歳まで生きているのか?という歌があって、それが今沁みるというか。20代をバンドに注ぎ込んできた。こういう形で誕生日を迎えることができて、胸がいっぱい。半泣きです」と一言。ここまでくることができた、木下とバンドの軌跡と現在地、そしてこの先を祝福する温かな拍手が場内から贈られた。
10月15日にニュー・ミニ・アルバム『ILLMATIC BABY』の発売を控えていることもあり、そこから2曲が披露された。表題曲“ILLMATIC BABY”は、浮遊感あるシンセ音が、轟音ギター・サウンドと絡み合う、殺伐とした官能性が滴るダンサブル・ナンバー。もう1曲“BROKEN WHITE”は、ザクザクとしたリフに、否応なく高揚させられる、ヘヴィ・ナンバー。そうしてバンドの新機軸をみせた後、同日に初のベスト盤『Ghosts&Angels』も発売、ということで、“シャーロット”“ロリータ キルズ ミー”“UNDER MY SKIN”という初期の名曲がまとめてパフォーマンスされるという総括的な流れも。そして「あと10秒で全部が終わるなら、シャンプーの匂いかいだり、おっぱいとか揉んだり……『それだろ』と思ってつくった曲です」と紹介されたのが“あと10秒で”。始終にわたってステージを支配していた張り詰めた緊張感と、メンバー4人の一体感は、来るミニ・アルバムの内容の充実ぶりを予感させるに充分なものだった。
そして、この日のハイライトは、アンコール。客席に向けて「愛しているよ」と2度語りかけた後、「君が失くしたら 僕は死ぬのさ」「君が失くしたら生きていけるはずがない」と“MISS WORLD”が歌われた瞬間。音楽を介した客席との濃密なコミュニケーション。時に、ありふれた“言葉”以上に感情を伝えてくれる“音楽”の力。木下の思いが突き刺さるようだった。木下の音楽とファンへの深い愛情と感謝が解き放たれた、いろんな意味で一つの節目となるメモリアルなライブだった。(森田美喜子)
1.FADE TO BLACK
2.サッドマシーン
3.DIVA
4.ILLMATIC BABY
5.BROKEN WHITE
6.シャーロット
7.ロリータ キルズ ミー
8.UNDER MY SKIN
9.あと10秒で
アンコール
11.MISS WORLD
12.スカーレット