通算17回目、山中湖畔で5年目の開催となったスペースシャワーTV主催の屋外フェス『SWEET LOVE SHOWER』。2日目の模様をレポートします。「観ようと思えば全出演者を観ることが出来る」という運営方針は今年も変わらず。いつもそれが楽しいので、筆者も全ての出演者を観ました(すべての演奏曲に触れるのはさすがに無理ですが)。朝一番のパフォーマンスに間に合うのは、単に会場が自宅から近いためです。『SWEET LOVE SHOWER』のオフィシャルHPでは、セット・リスト含め既に各アクトの詳細なレポートがアップされているので、こちらでは会場の様子や、筆者自身が感じたことなどを中心に駆け足で振り返りたいと思います。
2日間とも雨に見舞われた今回の開催。2日目のみの参加だった筆者は、ツイッター上にアップされた「どこまでが山中湖?」みたいな水たまりの会場写真を見て、前日に慌ててゴム長靴を買いに出掛けました。どなたか存じませんが、写真をアップしてくれた方、ありがとうございます。便利な世の中です。当日はマンウィズ公式ツイッターの起床ツイートと共に目覚めて会場に向かうと、数多くのスタッフが水かき用のトンボやポンプ、大きなスポンジなどを駆使して水たまりを処理しようと尽力しているところ。残念ながら終日、富士山の姿を眺めることは叶わなかった。SLSのシンボルとも言える熱気球も、今回は僅かな回数の打ち上げに留まっていた様子。いつか乗ってみたいんだけどな。
朝一番にWATERFRONT STAGEでまさに湖を背負って行われるアコースティック・ライヴは、靄のかかった幻想的な風景が美しく、天気もこれはこれでオツなもの。2日目は今年メジャー・デビューを果たしたRihwaが、男性のサポート・ギタリストを伴っての出演。凛とした芯の強い歌声と真っすぐな視線を投げ掛け、しかしMCとなれば白い歯を覗かせながらパッカーンと笑う姿が印象的だった。続いて、Mt. FUJI STAGEに立つオープニング・アクトは渋沢葉。情念が込められたジャズ・ヴォーカル風のオープニングから、強烈なロック・サウンドをくぐり抜けて来る、まるでジャニス・ジョプリンのようにハスキーかつスモーキーな歌声に朝っぱらから打ちのめされる。技術を追い越して個性が際立つアーティストだ。LAKESIDE STAGEもいよいよ稼働して、トップバッターはandymori。矢継ぎ早にフォーキーかつパンキッシュなロックを繰り出してゆく“1984”までの全10曲。ステージ前に景気付けに呷ったモヒートが、思いのほか効いたと語る小山田壮平である。途中からゲスト参加したファンファンのトランペットも本当に相性がいい。全体的にちょっと音が小さめな気がしたのが唯一の心残りだった。
FOREST STAGEのトップは赤い公園。すこぶる音楽偏差値の高い爽やかなギター・ポップを2曲披露して、今回はずいぶん大人しいなと思っていたら、「暗い曲やります。いろんなこと思い出させちゃったらごめんなさい」と佐藤千明。ここから彼女たちの変態的オルタナ・スピリットが爆発して大笑いした。聴くたびに中毒が深まってしまう。FOREST STAGEからMt. FUJI STAGEまでの移動距離を考えると、長居できないのが残念。お次はMAN WITH A MISSIONで、当然のように大盛況。「朝ッパラカラ何ヤッテルンダ、オマエ達! オオカミ達モ阿呆ミタイニハシャギマスノデ、究極ノ生命体ニ付イテ来ラレルヨウニ、カカッテキナサイ!」と突き抜けるバンド・サウンドで満場のオーディエンスを迎撃する。一面のタオル回しが目に鮮やかだ。アップリフティングな曲調も良いけれど、空に向かって伸びるような美メロの“TAKE ME HOME”が素晴らしかった。そして地元・山梨出身の藤巻亮太が登場。マンウィズに続くオオカミ青年の、ソロ活動開始の意気込みがビシビシ伝わるパフォーマンス。それを、サポートというよりも強いバンド感を受け止めさせる演奏ががっちり支える。藤巻節の作曲全開でアレンジも凄い“指先”から“月食”のクライマックスが圧巻であった。
初登場のHello Sleepwalkersは、トリプル・ギターがダンス性を増幅させるステージを繰り広げる。そしてそこに込められた歌心も素晴らしい。歌詞に込められた思いが、入り組んだ作曲の奥深さを形作っている感じだ。続いて、FOREST STAGEからMt. FUJI STAGEへとステップアップを果たしたアルカラへ。奇天烈でユーモア溢れるアンサンブルが、そこゆく人を次々に掴まえてしまうようなフェス荒らしそのもののパフォーマンス。演奏も、稲村太佑によるイイ話みたいで全然イイ話じゃなかったオチのMCも、ファインプレー総集編みたいなステージだった。さだまさし“関白宣言”が織り込まれた“半径30cmの中を知らない”を披露すると、稲村はステージに一人残って「気球ーにー、乗ってー」とアカペラで歌い始める。めっちゃいい声。「そーこーにー何かがー、あーるーかーラでした!」と挨拶。お見事である。この後にはONE OK ROCKが登場し、もうほんと若手であることを忘れてしまうような横綱相撲ライヴを見せてくれる。「皆さんには、日々、新しい始まりが訪れています」と切り出されるTakaのMCに触れて、その始まりを後押しする音楽の力を手放しで信じるワンオクを、そんな音楽を鳴らし、歌うためにスキルの向上を厭わないワンオクを、改めて思う。凄まじい盛り上がり方であった。
ヘヴィ/ラウド勢が続くタイムテーブルではSiM。登場するなりSIN(B.)やSHOW-HATE(G.)がステージの支柱をよじ昇ってしまうほどにヴォルテージ高いライヴだ。爆音の中から抜けの良いクリーン・トーンの歌にラガマフィン、ディレイが加えられたオートチューンと多彩なヴォーカルを披露するMAHが、「世の中は、考え方ひとつ変えるだけで素晴らしいものになるんだ。雨粒も、嘆くんじゃなくて、日々の土埃を洗い流してくれると思えば、いい天気じゃないか!」と語る。声質の説得力も手伝ってオーディエンスが沸いていた。さてここで一転、心地良い風を身に纏うようなCaravanのライヴへ。肩肘張らずに人々を昇天させる歌もさることながら、倉井夏樹のハーモニカ演奏がとんでもなく素晴らしい。今回はベースに伊賀航、ドラムスに椎野恭一という「神奈川県民バンド」だそうだ。ちょうど1000mの山中湖の標高に触れて「赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるのと同じ気圧らしくて。無条件でリラックスできるんですよね」という余りにCaravanな豆知識MCも飛び出す。さあ、この後には山下達郎の登場。フィールドに立ち込めた待望感も半端ではない。大歓声に包まれて姿を見せるニット帽×深いブルーのシャツ姿の山下達郎は、その足取りも含めて見るからにヴァイタリティが全身から溢れ出している。男女コーラス3名を含めたバンドの演奏は、「これ本当に生演奏か?」と思ってしまうぐらい徹底的な美意識に裏打ちされた盤石なもので、その精度も飛び抜けている。そして山下達郎でしかありえないあの歌声の“DONUTS SONG”。「夏フェスはお祭りだから」と竹内まりやが呼び込まれて“家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)”や“元気を出して”といった大名曲が歌われる驚愕の展開になってはもう、何が起こってるんだかわからなくなってしまうような感覚を味わったが、“俺の空”や“アトムの子”の中に横たわったメッセージ性を気付け薬のように注ぎ込まれるという、すっかり全身をコントロールされてしまうようなライヴ体験であった。
山下達郎の“さよなら夏の日”が鳴り止むのを待って、WATERFRONT STAGEではKeishi Tanakaのフレッシュで瑞々しい弾き語り。冒頭2曲しか触れることができなかったけれど、やはりここのステージは小ぶりながらとても気持ちがいい。FOREST STAGEのアンカーを務めるLAMAに移動して、牛尾憲輔のトラックの推進力の上に映えるナカコーとフルカワミキのハーモニー・ワークを堪能する。アンサンブルがグッと深みを見せつける“Parallel Sign”がかっこいい。七尾旅人はまず、弾き語りで震災後の福島に足を運ぶうちに生み出されたという“圏内の歌”。歌詞がまっすぐに聴く者の胸に突き刺さるナンバーだ。そのまま繋げて披露される“サーカスナイト”ではピエロのような身振りを見せ、パイプ椅子やマイク・スタンドをなぎ倒しながら感情を露にする旅人。梅津和時との余りにも自由でスリリングなセッションへと突入してゆく。旅人自身が日本語詞をつけたという“星に願いを”では言葉にならないスキャットをループさせてはグルーヴを生み出し、「ロック・バンドより凄いことやってるんだよ。もっとリアクションしていいよ。一緒に作ろう」と切迫した思いを投げ掛けて来る。そうだった。最近は正直ちょっと忘れかけていたが、この人はもともと、鋭い批評精神とプライヴェートな視界から、唯一無二の音楽を生み出してゆく人だった。「星が見える? まだ見えないけど、見える。見えないものを見るのが、音楽だよ」と告げ、“どんどん季節は流れて”と“Rollin’ Rollin’”をオーディエンスの歌声と共に作り上げる。甘えのまったくない協調が、そこには生み出されていた。
2日目も徐々にクライマックスへと近づき、Perfume。個人的には今夏、ようやく観ることが出来て嬉しい。驚異的なダンス・パフォーマンスと〈P.T.A.のコーナー〉での盛大な交感から叩き出される高揚感はやはり半端ではない。僕は初めて“マカロニ”にも触れることが出来た。今回思ったのは、ガールズ・ポップを観る人々の批評眼を底上げしてしまうPerfumeについて。例えば仮に、3人のうちの誰かが怪我などをしてしまったりしたとして、「いつもどおりのパフォーマンスを見せることは出来ないけれど頑張ってステージに立つPerfume」を目の当たりにしたとき、オーディエンスの大多数は納得するだろうか。アーティストが体調などのコンディション管理を徹底するのは当たり前だけれど、人間だからちょっとした身体のトラブルもあるはずなのに、そういう「頑張り方」は通用しない気がしてしまうのだ。やはり、期待されているパフォーマンスのレヴェルが違う。たぶん本人たちも自分たちをそういう状況へと追い込んでいることを承知の上で、活動を続けている。考えただけで尻込みしてしまうようなPerfumeのストイシズムを思いながらチャットモンチーへ。もちろんやっていることは全然違うけれど、今のチャットのストイシズムもかっこ良すぎて観るたびに泣けてきてしまう。とことんストイックなのに悲痛さは感じさせなくて、やればやるだけ楽しい、といった気持ちがステージ一杯に立ち込めているのがいい。かつてアルバム『告白』がリリースされたときに、僕は「音楽の教材に使え」と思ったものだが、むしろ学校教育には『チャットモンチー』というカリキュラムを取り入れるべきではないか。自分で書いておいてよく分からないけれども。「どうよどうよ!? ……そうでしょう、練習したもんねー!(福岡)」「ふふふ……うん(橋本)」「アルバム、どうですか? 期待してますか? でも、皆さんの期待より上を行っていると思います(福岡)」という2人のやりとりが最高だった。
さあ、いよいよ大トリの難波章浩 –AKIHIRO NAMBA-へ。結果的には、この日もっとも大粒の雨が叩き付ける中でのパフォーマンスとなり、難波くんもバンド・メンバーもずぶ濡れになっていたけれど、ステージに集まったオーディエンスに感謝の思いを投げ掛けながら、ヴォルテージを上げてゆく凄絶なライヴであった。震災・原発事故後に生み出された“LEVEL 7”を、僕は確か去年のSLSで初めて聴いたのだが、この曲の後になって難波くんの放つ言葉に更に力が込められ、そして声の通りが良くなる。力んだ声がグシャグシャに壊れず、一層しっかり通るというところに、ああ、この人はずっとこういうテンションの中で生きて来た人なんだな、ということを感じて胸が熱くなった。アンコールは“STAY GOLD”含め4発。9/15及び16に宮城県で開催される『AIR JAM 2012』にも触れて「プレイすることを楽しみにしてるから、来れる人も来れない人もよろしく!」と告げていた。そしてバンドが去ったところにグランド・フィナーレを飾る打ち上げ花火。強い雨の中でも奇麗に咲き乱れていた。クロージングDJのやついいちろうが『ドラゴンクエスト』のテーマ曲をかけながら「みんな勇者だー!」と声を上げている。激しく同意。みんな最高だ。
思いがけず長いレポートになってしまった。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。なお、この2日間の模様は、BSスカパー!にて先行ダイジェストが10/4(木)に、そしてメインの放送が初日分は10/20(土)、2日目分が10/21(日)にオンエアされる予定となっているので、参加者も参加できなかった方もぜひお楽しみに。(小池宏和)
『SWEET LOVE SHOWER 2012』 @ 山梨県 山中湖交流プラザ きらら(2日目)
2012.09.02