『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE

『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE
「『残響祭』も8周年ということで。8年もやってたら、渋谷の街に神輿が出るほどになって(笑)。すさまじいことですよ!」という9mm Parabellum Bullet・菅原卓郎のMC通り、まさにそこかしこでにぎやかに神輿の列が練り歩くお祭り日和の3連休の中日。『残響祭』主催者である残響レコード代表:河野氏の所属するte'をはじめ、残響レコードがマネジメントを手掛ける9mm Parabellum Bullet/People In The Box/cinema staff/mudy on the 昨晩、残響から作品をリリースしているperfect piano lesson/ハイスイノナサ/KUDANZ/the cabs/COgeNdshE、先月発売された『残響record Compilation vol.3 -brightest hope-』に参加したSPANK PAGE/chouchou merged syrups./Antelope、さらにgroup_inou/きのこ帝国/omni(ハイスイノナサ照井順政+tacica小西悠太+People In The Box山口大吾)/Memory Map(from US)といった計17組のアーティストが、渋谷ど真ん中の2つのライブハウスに大集結!(もちろん神輿は何の関係もない)。ちなみに、昨年は名古屋/大阪/東京の3ヵ所で行われていた『残響祭』、今年は9/1:いわき club SONIC→9/2:仙台CLUB JUNKBOXと東北2ヵ所を巡り、9/16の東京・渋谷での公演を経て、さらに初の台湾開催(11/24:THE WALL台北)へと続いていくのである。

 前回同様、O-EASTのメイン・ステージ&サブ・ステージ+DUOの計3ステージ(サブ・ステージに登場するのは4組のみなので、途中からは実質2ステージ制になる)に、上記の17組がひと組あたりMAXで30分という持ち時間で次々に登場。さすがに全組のすべてのアクトを観ることは不可能だが、頑張ればちょっとずつでも全部のアーティストを観ることはできる、という心憎いばかりに考えられたタイムテーブル。冒頭の挨拶に立った河野社長も「7~8時間あるので、無理しないでください。でも、17アーティスト全部観てください!」と笑顔で無茶振りしていたが、言ってみれば「レーベル推し」を複数ステージのライブ・ステージで実現してみせたようなこの催しは、個々のバンドのプレゼンテーションやレーベル・カラーのアピールといった個別の機能だけではなく、「ライブハウス/インドア型ロック・フェス」という祝祭感だけでもなく、「特定のバンド推し」で集まってきた人をも残響という名の渦に巻き込むことで、ひとつでも少しでも多く音楽の面白さを発見してもらいたい、という想いまでも、そのままタイムテーブルの形で実現していたのが興味深い。

『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - the cabsthe cabs
『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - KUDANZKUDANZ
『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - cinema staffcinema staff
『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - SPANK PAGESPANK PAGE
 というわけで、2年連続でO-EASTメイン・ステージのトップバッターを務めたthe cabsが「すごく重圧のある舞台なんです!」(高橋國光/G・Vo)と言いつつブルータル&メロディアスな変拍子アンサンブルをぶん回すところから、3ステージを少しずつ全部観て回った。再び当初のササキゲンのソロ・プロジェクトに戻って、フォーキーで豊潤な歌とサポート・メンバーの奏でるサウンドを雄大なスケールの音像へと編み上げていたKUDANZ。「アメリカの田舎から来たMemory Mapです! 4人とも田舎者ですから勘弁してください!」というやけに流暢な日本語MCと緻密な極上インディー・ポップでフロアを沸かせたMemory Map。5弦ベースと複雑怪奇なリズムが醸し出す緊迫感とメロディアスな女性ヴォーカルとが不思議なマーブル模様を描いていたCOgeNdshE(コグエンドシー)……ポスト・ロックやエレクトロニカ、ハードコアあたりを基調にしたアーティストが多いだけに、それこそアッパーだったりダンサブルだったりするような陽性な祝祭感とは真逆の音楽空間ながら、その音のひとつひとつには、「この音楽の快楽の正体は何だろう?」と聴き手に考えさせずにいられない驚きと感激に満ちている。開演早々から気合い入りすぎて辻友貴(G)のストラップが外れたのも何のその、メジャー・デビュー後初となるcinema staffは“奇跡”はじめ「今」の充実感を堂々と見せつけていたし、仲手川裕介のソロ・プロジェクトとして再出発したSPANK PAGEはバンド・サウンドと電子音の接点から高純度の恍惚をDUOいっぱいにあふれさせていて……と観て回っているうちに、窓の外を見たらいつの間にか陽が落ちていた。各アクトがコンパクトなこともあって、体感時間は本当にあっという間だった。

『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - 9mm Parabellum Bullet9mm Parabellum Bullet
『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - mudy on the 昨晩mudy on the 昨晩
 今や堂々たる残響の看板バンドとなった9mm Parabellum BulletはEASTトリ前に登場。つい1週間前に男性限定ライブで観たはずの新曲“ハートに火をつけて”は、あのポルカみたいな滝善充のフレーズと快速スカ・ビートのギアの噛み合い方が格段に強靭になっていたし、EASTの屋根を吹っ飛ばす勢いでフロアに熱気と狂騒感を充満させていた。「仙台で震災に遭っちゃって、今は仙台にいない子が、『仙台で残響祭やるってアツい!』って仙台に観に来てて。音楽ではお腹いっぱいにならないけど……こういうことですよ。そんなふうに言ってもらえるレーベルになってよかったですね、河野さん!」という卓郎のMCに、ひときわ熱い拍手喝采が沸いていた。EAST/DUO両方ともインスト・バンドがトリを務める形になった今年の『残響祭』、DUOのトリを務めたのはmudy on the 昨晩。ギター・桐山良太の脱退直後というタイミングでの出演ではあったが、HERE・武田将幸がその穴を埋めーーるのを通り越して、その衝動大爆発なギター・プレイでもってフルサワヒロカズら4人と目映い化学変化を起こしながら“YOUTH”“moody pavilion”“PANIC ATTACK”などmudy必殺ナンバーを畳み掛け、見動きすら難しいほどの超満員になったDUOをさらに歓喜の頂点へとぐいぐい導いていった。

『残響祭 8th ANNIVERSARY』 @ Shibuya O-EAST & DUO MUSIC EXCHANGE - te'te'
 そしてーーEASTラストにして今年の大トリ、te'! 2010年にmasa脱退→ベース:matsuda加入後のラインナップとしては去年の『残響祭』にも出演しているが、約2年4ヵ月ぶりとなる新作アルバム『ゆえに、密度の幻想は綻び、蹌踉めく世界は明日を『忘却』す。』(10月3日リリース)の完成へ向けて、hiro/kono/tachibanaそしてmatsudaがte'の音楽を部品レベルまで解体・検証・再構築した結果、光速レベルのスピードと馬力が出てしまった!的な今のte'のアンサンブルはすごい。“音の中の『痙攣的』な美は、観念を超え肉体に訪れる野生の戦慄。”“楽観の深奥で燻る魔は、万人が宿す普遍的無意識の『罪』の残滓。”など、ハードコアよりも激しく、ポスト・ロックよりも緻密で静と動のダイナミクスを秘めていて、メタルよりも硬質な音像の数々が、ひたすら高揚感の極みを目指して鳴り響いているのである。「歌がない“のに”すごい音楽」ではなく「歌がない“から”どこまでも自由で制御不能な音楽」をーーどこまでもオルタナティブな姿勢と、身を焦がすような衝動と、音楽シーンの価値観を引っくり返そうと挑む音楽冒険心を、レーベル社長が自らのバンドで実践しているのである。前述のthe cabs・高橋のMCにもあった通り、所属バンドたちが感じるプレッシャーはとんでもなく重いはずだ。逆に言えば、だからこそ9mmやPeopleをはじめとする残響のバンドたちは、それぞれの音と価値観を極限まで突き詰めることに成功している、ということなのだろう。

 沸き上がる情熱のままに両腕を突き上げ「イエー!」と叫ぶhiroの姿がフロアを鼓舞し、「いろんなフェスがある中で、こんな変なイベントに来てくれてありがとうございます!」というkono=河野社長の言葉に拍手が湧き起こる。アンコールでは「残響を創立した時の曲を……」というkonoの言葉から、1stシングルの曲“己が分を知りて及ばざる時は速やかに止むるを『智』と言うべし。”を披露。もともとはこのシングルを10万円を元手に制作する、というところから始まった残響レコードは、今やメジャーもインディーも踏み越えて日本の音楽シーンに数多くの「?」と「!」を投げかける唯一無二のロック・レーベルへと成長を遂げている。““己が分を知りて~”演奏の途中、列を成して朗らかに行進してきたこの日の出演バンドたちが乱入ーーするのかと思ったら悠然とステージを通り過ぎてフロア中が胸の中でツッコミを入れたところへ、再び彼らが舞台に戻ってきて、各プレイヤー入り乱れての阿鼻叫喚の爆音天国へ突入! 残響レコードとアーティストたちの「今」と「これから」を自ら祝い倒す特大打ち上げ花火のような、最高のエンディングの光景だった。(高橋智樹)
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