ディアフーフ&私立恵比寿中学

9/19に新作『Breakup Song』の日本盤をリリースしたノイズ・ポップ永遠の秘境=ディアフーフが、Shibuya O-EASTで行われたイヴェント『THE OTHER NEWEST ONE vol.0 attack of the killer panda』に出演。なんと、私立恵比寿中学の「学芸会」とステージをシェアしてしまうという、異色にして華やいだ対バン・イヴェントである。本稿はディアフーフのパフォーマンスを中心にレポートを進めるけれども、フレッシュにして可憐な歌唱&ダンス・パフォーマンスがファンの雄々しいコールを巻いて突き進むエビ中先行のステージは、めっきり涼しくなった首都・関東圏の気候を忘れさせてしまうぐらいの熱気が立込め、更にめくるめくポジション・チェンジとヴォーカル・リレーによってオーディエンスを魅了してくれた。

ステージの転換中には、「DJ☆☆☆」と出演告知されていた謎のDJがプレイ。その正体はサイケデリック・カルチャーを代表する伝説的なグラフィック・デザイナー=田名網敬一を模した人形であり、スーツ姿であたかもプレイしているかのようにブースに収まっている。ということを、今回イヴェントを生中継していたDOMMUNE・宇川直宏のツイートによって筆者はようやく把握した。エビ中とのコラボTシャツを制作するなど精力的な活動を続ける田名網敬一が、自身の選曲による60’sガレージ・サイケやアート・ロックのナンバーによって、ディアフーフのステージへの橋渡し役を買って出る、と。なるほど、これは秀逸な演出だ。すっごい面白い。

というところにディアフーフの面々が登場。4人はそれぞれにヴィヴィッドな色使いの衣装(グレッグとジョンはTシャツだけど)に色とりどりのタッセルを揺らしていて、目に楽しい。ブルース/サイケ色の強いオープニング・ナンバーでさっそくノータムのシンプルなドラム・セットを鬼神の如きアクションでしばきまくるグレッグに、フロアからはウオオォーッと野太い声の喝采が上がる。あっはっは、ノリ的にはエビ中からそのまま引き継がれる歓声といった感じだ。ディアフーフのライヴでこんな調子の歓声を聞くのは、もしかすると初めてかも知れない。最高である。

何しろ、『Breakup Song』のモードがそうだからなのかも知れないけれど、今回のディアフーフのサウンドの強烈なバースト・アウト感は半端ではないのである。変則的なリズム・パターンと予測不可能な展開から唐突にチャーミングなメロディが零れ出したりするところはいつも通りだが、一音一音のキレと刺激がずば抜けている。サトミのときに物憂げな、爆音に似つかわしくないと思えるようなガーリーな歌声も、今のディアフーフのサウンドの中では一層際立ち、瑞々しく響く気がする。“The Perfect Me”の感触も、前回観たステージ(昨年12月のリキッドルーム)のときとはひと味違った強いアタック感で興奮をもたらしてくれた。あれから1年も経っていないのに。

サトミがぴょんぴょんと跳ねながら四肢を投げ出す控え目な振り付けのダンスも披露すると、ステージは次第に驚喜と魅惑の本領を発揮し始める。ロック/ポップのあらゆる勢力から自由であり、普段着のまま無重力の宇宙遊泳へと旅立って直射光線に身を晒すような、ポップ・イノヴェイターたちの時間が広がってゆくのだ。一曲終えるたびに息を切らしながらドラムのチューニングを調整し直すグレッグには「グレッグ、大丈夫ー!?」「終わったらご飯食べに行こうぜー!」といった声も飛び、そしてステージ中盤には新作『Breakup Song』の収録ナンバーが畳み掛けられていった。

この辺りではサトミがジョンにベースを預け、ギターはエド一人という編成にシフトする。ラテンのグルーヴにサトミが歌い舞い踊る脇でエドが熱を帯びたブギーなリフを繰り出す“The Trouble With Candyhands”があり、甘いファンキー・ポップの“Flower”や歪んだベース・フレーズが牽引する“There’s That Grin”でのジョンの活躍ぶりはなかなか興味深いものだった。ツイン・ギター編成時には2人の玄妙なフレーズの絡み合いが魅力的だし、ジョンがフィードバックを狙ったりする面白さがあるけれど、ジョンがベースを手にするとボトムが力強くなって楽曲の輪郭もクリアになる。ここぞとばかりにギター・プレイに力が入るエドの佇まいも面白い。極め付きに、硬質でミニマルなコズミック・ダンス・グルーヴ“We Do Parties”で大歓声を呼ぶ。

「今日はとても嬉シイ。エビ中とディアフーフは、ちょっと……ほとんど同ジ! エビ中のシャツは、ボタン一杯。ワタシのシャツは、(タッセルの)フサフサ一杯」。いつもながらに、サトミのマイクに向かって背中を丸めながらたどたどしい日本語で懸命に話すグレッグの愛嬌とサーヴィス精神は素晴らしい。ステージ終盤は再びツイン・ギター編成でスペイシーなサイケデリック音響を解き放ちながら、クライマックスの轟音ナンバー“Breakup Songs”でフィニッシュ。大喝采に包まれながらサトミは感謝の言葉を告げ、グレッグも満面の笑顔で去って行った。アンコールではもちろん“Panda Panda Panda”も披露(イントロで、エドはなぜかマーシャル・アンプの影に隠れてプレイ)され、最後まで興奮と笑顔の絶えないステージであった。

中には、もともとエビ中とディアフーフの両方が好き、というファンもいただろうし、異色対バンとはいえ、趣味嗜好の違いはありのまま肯定的に受け入れる、といったヴァイブに会場が一貫して包まれていた気がする。それが実に感動的だった。既成の枠組みを楽々と越えてしまう、そんな予兆とも言える感覚を明らかな形にしたイヴェントであったと思う。もちろん、エビ中とディアフーフそれぞれの、ぶっ飛びながらもポップな表現が、イヴェントの成功を支えていたのは言うまでもないが。

なお、ディアフーフは10/14(日)に札幌Sound Crueで、10/16(火)には渋谷WWWで、それぞれライヴ・イヴェントへの出演を予定しているので、参加可能な方はぜひ。(小池宏和)
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