UKロック・ファンにとって今や恒例となったイベント、BRITISH ANTHEMS。今回で4回目を数えるが、なんといってもこの日の見所は、フレッシュなUK新人たちがかつてなく目白押しだったということだ。本国でもアルバム・デビュー前、もしくはデビュー・アルバムをリリースしたばかりといったバンドが揃い、それぞれの持ち味がありのままにきらきらと弾け飛ぶ、素晴らしい競演を見せてくれた。
BRITISH ANTHEMSには毎回日本のバンドも出演しているが、この日のトップバッターは日本発monobrightである。メンバー全員揃いの白ポロシャツに黒縁メガネ、という学生服ふうの出で立ちは一見コミカルだけれど、振り絞るような歌い上げと、刹那なバンドの演奏は真っ直ぐでてらいのないもので、聴き手にストレートに突き刺さってくる。恥ずかしいような甘酸っぱいような、ありったけのエモーションを、目いっぱいのエネルギーでぶちまけてみせた。
早くも会場の温度は急上昇、そこに現れたロス・キャンペシーノス!もまた、エモーショナルなライヴを見せてくれるバンドだった。男女混合の7人組がわーっと勢いよくステージに出てくると、いかにもインディ文系少年少女といった佇まいに、あちこちから「かわいい!!」という声が挙がる。のびのびと歌っていたかと思えば突如早口ヴォーカルを披露したり、床にしゃがみこんで鉄琴を叩いたりするヴォーカル君と、キーボードの女の子との掛け合いヴォーカルにきゅんとしてしまう。かと思えば、装飾品としてではなく、バンド・サウンドの一部としてバイオリンすらもアグレッシヴに機能しているのに驚かされる。ただ牧歌的なのではなくて、危うさも凶暴性もひっくるめた「ロスキャンらしさ」が次から次へと押し寄せ、アルバム・デビューにさらなる期待が募るライヴだった。
次のリップコードもまたアルバム・デビュー前の新人ながら、堂々のパフォーマンスを披露。一度聴いたら耳から離れない王道かつシンプルなメロディとギター・リフ、踊りださずにはいられないリズムでもって、超ポップかつ、これぞ英国節!なギター・チューンを振りまいていく。前方でぴょんぴょんと元気良く跳ね回る客の姿も清々しく、メンバーのダイヴにひときわ大きな歓声が! 飾らず気取らず、ありのままをぶつけながらもすでに貫禄はたっぷりで、ザ・ビューを輩出した1965レコードのネクスト大型新人という呼び名も納得のライヴだった。
デビュー前のフレッシュ新人として最後を飾るのは、ベースレス・ユニットのブラッド・レッド・シューズ。男女2人組でホワイト・ストライプス形式だが、ブラッド・レッド・シューズの場合は男の子がドラマー、女の子がギターヴォーカルという編成。このバンドのコンセプトは、女の子が男の子をいじめるという強烈なものなのだが(アーティスト写真では男の子が鼻血を出したりしている)、ステージではドラマーの男の子が完全に演奏を仕切っていく。懸命についていこうとするような女の子がなんだかいたいけに見えてくる……。最後にはドラムセットを倒し、全力疾走でステージを後にしていった。ともすれば一瞬でガラガラと崩れ去りそうになりながら、危うさと妖しさが暴走していく、何度でも溺れてみたいライヴだった。
中盤からはアルバム・デビュー済組が登場、その口火をきったのはロンドン発のエイト・レッグス。ディオール・オムのファッション・ショーで楽曲が使われたことをきっかけに話題にもなったバンドだが、「何でもない若者の退屈な日常」がくすぶる等身大の歌が彼らの魅力だ。モッズ、パンク、ガレージといったさまざまな要素を注ぎ込みながらも、極めてピュアに響くところにぐっとくる。この日出演したバンドのなかでもっとも「ロンドンらしい」バンドだった。ちなみにヴォーカルのサムは場外でキッズに囲まれながら一生懸命サインをする姿も非常に彼ららしかったです。
ここからは出演者の女の子率が急激に上がり、スーツの男性陣をバックに従えたヴォーカル・アリ嬢率いるラッキー・ソウルが登場。背中が大きく開いた、鮮やかな水色のミニドレスとブロンドヘアのコントラストが眩しいその姿は、まさにお人形のようで可愛らしい! 60sガール・ポップをベースにした明快でやわらかなポップスが、会場をあたたかな空気で包み込んでいく。初めて楽曲を聴く客にとっても非常にフレンドリーなもので、楽曲のクオリティの高さを改めて感じさせるライヴとなった。なぜか日本語のMCがめちゃくちゃ巧い男性メンバーと、「もっと日本語が喋れたら……」と困った顔をしながら話すアリ嬢とのギャップも素敵。
そして、「日本代表」という言葉がまったく大袈裟でないくらい、爽快で圧倒的なパフォーマンスを見せたのは木村カエラ。華奢な身体を折り曲げるようにしながら、くるくると回りながら、ときにパンキッシュ、ときにダンサブルなサウンドに合わせて歌い踊る姿は、新世代のポップ・アイコンとして、ロック・アクトとしてのチャームを放ちながら、じつはそのどちらでもあってどちらでもない、「木村カエラでしかない」、という凄まじい世界を確立させていた。しかも、そこに肩肘を張った感じや何かを背負い込んだ感じはなく、突き抜けた透明感が残るところが、彼女のすごいところなのだと思う。
残すところ2組となり登場したのは、ドラマの主題歌に曲が使われお茶の間進出を果たしたザ・ピペッツ。なんといってもこのバンドは、一緒に歌えて踊れる、というシンプルさ、そして見ているこちらにまでパワーを与えてくれるようなエネルギーが魅力だ。トレードマークの水玉ドレスで華やかに現れた3人は、最初から最後まで超キャッチーな楽曲をほぼノンストップで披露、“プル・シェイプス”で歌のお姉さんばりに元気に振り付けを教えるグウェノにつられて、皆ちゃんと手をクロスさせたり前後に伸ばしたりしてました。ルックス、サウンド、そのどちらもが60sガール・グループを模倣しているようでありながら、きっちりと自分たちらしさを築いてみせるんだという心意気に溢れたライヴだった。
そして、BRITISH ANTHEMS史上最年少のヘッドライナーを務めるのはジ・エナミー。登場するや、怒号のような歓声が響き渡り、ファンの熱量に圧倒される。ネクスト・オアシス、ネクスト・カサビアンといった「ラッド・ミュージックの継承者」との呼び声も高い彼らにふさわしく、瞬発力がありながらも、何度でも一緒に歌って沸点を刻みたくなるようなメロディと、楽曲そのもののエネルギー、3ピースながらもタイトでストイックな演奏とが客席を壮大なスケールで包み込んでいく。終盤で放たれた“ユーアー・ノット・アローン”は、まさに「新世代のアンセム」の言葉がふさわしいクライマックスを記録したのだった。(羽鳥麻美)
BRITISH ANTHEMS 2007 @ 新木場スタジオコースト
2007.12.09
