「ぎょうさん来てるわ。幸せ者です」という中川敬の第一声がそのまま表すように、老若男女大勢の人が集まった年末定例ツアー「年末ソウルフラワー祭2012」東京公演。ライヴの幕は、現状最新のキラー・チューン“キセキの渚”により切って落とされた。もちろん、曲の強さもあるにしろ、1曲目とは思い難いほどの盛り上がりを見せるフロア。しかも、来年20周年を迎えるソウルフラワーと一緒に年を重ねてきた往年のファンだけでなく、父親におぶられた幼子までも両拳を上げて体を揺らしているのがなんとも頼もしい。そこから、演劇的なコーラスと転調が耳を捕えてやまない“月光ファンファーレ”、奥野真哉の流麗なピアノ・ソロが中心となるインスト“キラー・ディラー”、ねちっこく粘る黒いグルーヴがファンキーかつソウルフルな“陽炎のくに 鉛のうた”(今日はこの他にもソウルフラワー初期の曲やメスカリン・ドライヴの曲をいくつも聴くことができた!)と息つく暇もなく畳みかけられる。それにしても、レゲエ、ダブ、日本民謡、パンク、ブルーズ、ファンク、歌謡曲などなど…最初のこの4曲だけでも凄まじい数のジャンルをドロドロに溶かし、飲み込んだがゆえの音楽的情報力に改めて圧倒される。何より、そうしたジャンルを最も明快に定義するリズム、ソウルフラワーのそれは「最果てのビート」とでも呼びたくなる混血ぶり・オリジナリティだが、そんなビートをまるで気負った様子もなくあっけらかんと発する6人が凄すぎるのだ。

デモ参加などの行動をインタビューやツイッターなど様々なメディアで発信している中川だけに、選挙前日のこのタイミングでのライヴとあれば何かしらの発言なりがあるとは思っていたが、最初にそのことに触れたのは「明日の選挙、俺の名前書いたらあかんで。前に『出たらどうですか』って言われたこともあるけど、絶対無理やねん。…頭下げられへんねん」という関西人とパンク・ロッカー両方のアイデンティティを躍如する名MCだった。「俺、口下手やから喋られへんねん」と性質の悪い冗談を何度も繰り返していた中川だが、全ての発言がユーモアに包まれているからこそ、大事なこと、真剣なことを言うときも嫌みなく受け手の耳に入ってくるのだ。フロントマンとして、発信者として、つくづく優れた男である。また、そんな中川が、曲が出来るまで、つまり阪神淡路大震災当時のエピソードを紹介した後にプレイした“満月の夕”はやはり掛け値なしの名曲だった。この曲の“解き放て いのちで笑え 満月の夕”というフレーズを聴くと、どんなヘヴィな内容を歌っていても中川が、少し不敵で、そしてとびきりの優しさが滲んだあの笑顔を崩さない理由が分かる気がする。
今日のハイライトとなったのは、「選挙行って下さいよ。石原維新、何やねんそれ!凄いところにきたなと思ったよ。でも、俺らはしつこい!みんなもしつこいやろ!」というこれまた熱いアジテートを導入とした、最高の生命讃歌“ラヴィエベル~人生は素晴らしい!”。コーラスを繰り返すごとに熱量を高めていくグルーヴに対し、フロアはキメの度に無数の人差し指を掲げ応える。そして、≪ラヴィエベル 人生は ラヴィエベル 素晴らしい ラヴィエベル 人生は ラヴィエベル クソッタレ≫の大合唱。なんて美しい光景だろう。この光景を見ているだけで全てが上手く行くような気がしてくる。そして、ここからインスト“旅しなくちゃ”を挟み“ブルー・マンデー・パレード”、“極東戦線異状なし!?”とブチ上げ系代表曲の連打を聴いているうちに、徐々に今日のセトリの意味が分かってきた。
“キセキの渚”、“月光ファンファーレ”で始まるオープニングで彼らは、まず前提としてこの無常の世界について達観した視野でもって語る。いつだって、傷を負った渚にも奇跡は起こるし、≪天国は満席 地獄はゼネスト≫だ。まるで「人生はそう悪くないし、最低だし、最高だ。全ては心の持ちよう次第さ」とそっと囁くように提議するのである。また、全篇を通し要所要所に各メンバーをフィーチャーした曲(ヴォーカルをとる曲や、長尺のソロを披露する曲など)を入れ込み、集団とはあくまで独立した個の集まりであることを再確認させる。セットの中盤には、“平和に生きる権利”、“パレスチナ”、“うたは自由を目指す”といった曲たちで、大きな力によって不可抗的に人生を祝福する機会を奪われた人々に視線を向ける。そして、その認識を共有した上で鳴らされる“ラヴィエベル~人生は素晴らしい”や“極東戦線異状なし!?”によって、我々を喚起するのだ。最高でクソッタレなこの人生を守ることができるのは、塵芥のようにちっぽけな我々一人一人に他ならないことを、笑顔で告げるのである。今日のこのタイミングにおいて、これ以上ないメッセージではないか。
毎作、アルバムのみならずシングルでさえしっかりと構築されたコンセプトを提示してくれるバンドであるが、ライヴにおいてもこうして、ダブルアンコール含め3時間強という時間の中で、一期一会のコンセプトを表現してくれるのだ。結成19年目というベテランに域にありながら、ソウル・フラワー・ユニオンというバンドは。年内のライヴは17日の仙台公演、そして2013年はCOUNTDOWN JAPAN 1213最終日31日のMOON STAGE年明け一発目のステージ(去年は同様大晦日に同ステージで年越しのアクトを担当。最高だった!)がライヴ初めとなる。いつ見ても良いものは、すぐにでも見るのがいいと思う。その繰り返しで、人生が楽しくなる。(長瀬昇)