eastern youth @ Shibuya O-EAST

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「本日はお足下の悪い中、こんなにたくさんのみなさまにお集まりいただきまして、ありがとございます! 我々はeastern youthといいます。ハゲだジジイだと馬鹿にされることが多くなってまいりました。それでもeastern『youth』ですから。心はセブンチーンだからな!(笑)」という吉野寿の口上MCに、満場のオーディエンスから割れんばかりの拍手喝采と爆笑が沸き上がる。

9月19日にリリースされた最新アルバム『叙景ゼロ番地』を引っ提げて、10月12日・千葉LOOKを皮切りに全国17会場を回るeastern youthのツアー『極東最前線/巡業2012「ゼロ番地から彼方まで」』ファイナル=東京:Shibuya O-EAST。「ぐるーっと日本を回ってきましたよ。たくさん集まってくれたところもあれば、そんなに集まんなかったところもあるんですけど。会いに来てくれてるわけだから! 俺も会いに行ってるわけだから! 人数とか関係ねえと思ってるから! いい出会いと別れだったと思ってます。今日もそういう日になるといいね」という吉野の言葉そのものの、今ここに生きる人の生命と情熱を全身全霊を傾けて前へ明日へと突き動かし燃え上がらせていくような熱演だった。

eastern youth @ Shibuya O-EAST
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巨大な夜明けの絵巻のようなイントロから流れ込んだ“グッドバイ”、そして“目眩の街”という『叙景ゼロ番地』曲順通りの幕開けにも象徴的だったが、今のイースタンは、というか吉野は、その熾烈なギターと絶唱を、より強靭でどっしり地に足のついたビートとともに繰り出そうとしているように思える。もちろん、“空に三日月 帰り道”のような、侠気が唸りを上げて爆走するようなナンバーもイースタンの不滅の持ち味ではあるし、名盤『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』の“男子畢生危機一髪”や、フロアに熱く拳を突き上げさせた“踵鳴る”も強烈なドライブ感とエネルギーを放っていた。が、この日のライブの印象を決定づけていたのは、“地図にない旅”“荒野に進路を取れ”の、渾身のハード・マーチとでも言うべき二宮友和&田森篤哉のビート感だった。燃え盛る衝動を、ブレーキ壊れた疾走感やサウンドの切れ味よりも、彼ら3人と僕らがこのどうしようもない時代を少しでも確かに歩むための足音に託して、ありったけの力でこの時代に刻もうとしているように見えた。そして、より強靭さを増したビートとともに鳴り響くからこそ、1曲ごとに全精力を絞り出すような吉野の熱血歌心はいっそう切実に胸に染み込んできた。

「ロック・バンドはたくさんいるし、エンタテインメントっちゅうのはたくさんありますよね。その中で、何をどう血迷ったのか、この場所にやってきたみなさん方は、たぶん相当変わり者なんじゃないかと。ねえ、ポンコツ同志諸君?(笑)。出馬するか! 『ポンコツ党』で。即解散だけどな(笑)」と、翌日に迫った総選挙に引っ掛けたMCでフロアを沸かせる吉野。「俺と同じ年ぐらいの人いっぱいいると思うけど、車アウディ乗ってる? 戸建て建てた人いるでしょ? 俺はさ、踏んだり蹴ったりで全然ダメ。もうビックリするわ。思えば子供の頃から、少なくとも、一発目でうまくいったことなんて1回もねえわ。車だって、仮免1回落ちてっからね(笑)。いい年こいて、一歩踏み出してズルッ、二歩目踏み出してグキッ、とてもじゃねえけど三歩目踏み出したらどうなるかってことは、言われんでもわかっとる。骨身に沁みてわかっとる。それでも俺は諦めたくないね。三歩目、ぜってえ諦めねえ!」ーーそんな不屈の「日常の闘争宣言」が、その直後に叩きつけられた“地図のない旅”の《行くしかねえ いつだって 行くしかねえんだ》というフレーズが一体になって、O-EASTをびりびりと震わせていく。

ハード・エッジでエモーショナルな3ピースのロック・フォーマットを、あくまで「鈍色の日常を生きる者」としての批評精神でさらに極限まで研ぎ澄ませることで、唯一無二の熱量と鋭利さを実現してきたeastern youth。だからこそ彼らの表現は、その音楽に触れる1人1人の孤独と苦悩とやりきれなさと響き合いながら、途方もない爆発力を獲得してきた。そして今、そのサウンドとリズムはよりシビアに「今この瞬間」を捉えて鳴り渡り、己の限界を超えんとするかのような吉野の咆哮はさらに凄味を増す。そんな激烈な演奏の間にも、「さっきまで蕾だったチューリップの花が、ちょっとずつ開いてきました」とアンプの上のチューリップを見ながら「これから先、来年、いいことあるんじゃねえか? まだまだいいことあるって。大丈夫だ!」と会場に呼びかける吉野の言葉に、熱い拍手が巻き起こる。「瞬間、瞬間にすべてが終わっていく。そして、瞬間、瞬間にすべてが始まっていく。渋谷ゼロ番地、ここからすべてが始まる、はずなんだ!」。そんな宣誓とともに鳴らされた本編最後の曲は“ゼロから全てが始まる”。目映いくらいに五感を支配する純白の轟音から、明日へ向けてさらなる徒手空拳の闘いを挑むようにビートが駆け出し、《歌は始めは音だった/呻きだった 泣き叫ぶ声だったはずさ》という吉野の歌声がひときわ力強く響く……あまりにも美しい幕切れだった。

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アンコールでは「35を過ぎると物忘れもひどくなってきまして、さっき弁当食べたのも忘れてる(笑)。でも、2ヵ月のツアーの間でも思い起こせばいろいろあったなと。京都でウ●コもらしてしまって、血の滲むようなライブを……」(二宮)、「この間、女の人が来て『タモアツさん、写真撮っていいですか?』なんて言われたんですけども、タモアツでは売ってないんで(笑)。田森で!」(田森)とそれぞれにツアーを振り返り(?)MCを挟みつつ、“ズッコケ問答”“素晴らしい世界”で持てる力のすべてを放射してグランド・フィナーレ……かと思いきや、客電がついても鳴り止まない手拍子に応えて三たび3人がオン・ステージ。正真正銘この日最後の曲は“夜明けの歌”。《逃げても逃げても逃げても/朝が来る/涙よ止まれよ今直ぐ/もう朝だから》ーー喉も裂けよとばかりの吉野のヴォーカリゼーションが、そして3人一丸の真摯なる轟音が、集まった人すべての「今」と「これから」を鼓舞するように広がっていった。イースタンだからこそ実現し得た、最高のロック・アクトだった。(高橋智樹)
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