開演前から、これこそガンズ・アンド・ローゼズという光景がそこにはあった。開演予定時刻の19時ほぼちょうどに、会場に着くと、Zepp Tokyoの周りを取り囲むように人がごった返している。どうしたのだろう?と思って行ってみると、開演どころか、まだ開場もしていないとのこと。寒風吹きすさぶなか、観客はいまかと待っている。もはやお約束とも言えるが、これがガンズ、これがアクセルである。直近のインドネシアの公演などは、それほど開演時間が遅れることはなかったと聞いていたので、もうそんなこともないのかなと思っていたのだが、やっぱり一筋縄ではいかない。しかし、それでも会場の周りのテンションは落ちることがない。フェスやスタジアムでの公演の場合、どうしても観客の母数が大きくなるため、「一体いつ始まるんだろう?」という若干弛緩したムードが漂っていたのがガンズの常だが、今回はなにせあの高額チケットを手にしたファンたちである。ガンズへの高い熱量を感じる。
19時半ぐらいだったろうか、ようやく開場し、19時50分、突如客席を照らしていた照明が落ちる。開場から20分での急展開である。まず暗がりのなかステージに現れたのは、ドラムのフランク・フェラー。ベースのトミー・スティンソン、ギターのリチャード・フォータス、キーボードのディジー・リードらが次々とステージに現れ、DJアシュバはドラム・セットの後ろから登場。客席からは「ガンズ・アンド・ローゼズ」コールが巻き起こるなか、ついにアクセルがステージ上手から走ってくる。大きな歓声が会場を包む。手にはトレードマークとも言える赤いマイクだ。1曲目は、目下の最新作のタイトル曲“Chinese Democracy”。しかし、初っ端、アクセルの調子が良くなさそうに見える。声があまり出ていないのだ。DJアシュバが繰り返しあのイントロを弾いて、会場を煽りに煽って突入した2曲目“Welcome to the Jungle”でもその印象は変わらない。アクセルはAメロをフェイク気味に歌っていて、アシュバ、リチャード、バンブルフットの3本のギターもなかなかうまく溶け合わない。もちろん、これまでの来日公演同様、ガンズの完コピというコンセプトは継続されており、バンド・メンバーは名うてのプレイヤーばかりである。基本的なクオリティは保証されているものの、バンドとしての一体感というのは見えてこない。現在のメンバーで新作にも手をつけ始めているという報道もあったが、もし本当だとすれば、今回見たかったことの一つはそれだった。3曲目、『アペタイト・フォー・ディストラクション』と同じ流れで演奏された“It's So Easy”でもその印象は拭えない。
しかし、『アペタイト~』から3曲立て続けとなった“Mr. Brownstone”で印象は変わり始める。序盤は、まだいまひとつだったが、アクセルならではの高音が徐々に機能し始めることで、バンドのグルーヴも回り始める。特にリチャード・フォータスのギターが、バンドのグルーヴという点において、非常に貢献しているように聴こえた。そして、“Estranged”“Better”で、アクセルの声は本来の強さを完全に取り戻す。特に“Better”は素晴らしかった。叙情的なメロディを持つこの曲だが、きっちりとアクセルは歌いあげてみせる。さらに前半戦のハイライトと言えるのが、続く“Rocket Queen”だろう。アクセルがかつての姿を彷彿とさせるヴォーカル・パフォーマンスを披露し、中間の展開部では客席からの「オイ」の大合唱。唯一無二のガンズへの観客の思いと、ステージでの演奏がようやくシンクロし始める。リチャード・フォータスのソロ・タイムを挟んでの“Live and Let Die”では、アクセルが強烈なスクリームを決め、ラストで高々とマイクスタンドを掲げてみせる。
ここでアクセルがこの日初めての本格的なMC。何を言うのかな、と思っていたら、「一歩下がって」と、観客を気遣った指示。確か、前の幕張メッセ公演でもこんな光景がなかったかと思ったら、やっぱりそうだった(http://ro69.jp/live/detail/20)。アクセル、このくだり気に入っているのだろうか。ここからは最新作『チャイニーズ・デモクラシー』の楽曲を中心にしたパートへ。『GN'Rライズ』の“Used to Love Her”のような楽曲を挟みつつ、“This I Love”“Catcher in the Rye”“Street of Dreams”といった曲が演奏されていく。その間にバンド・メンバーのソロ・タイムも挟みこまれるのだが、これが面白い。ベースのトミー・スティンソンがいきなり自分の曲を歌いだしたり、ディジー・リードを中心にツェッペリンのカヴァーを披露したりする。アクセルの休憩タイムという側面はあるのだろうが、各メンバーの裁量が大きいソロ・タイムで、こういうところからも現在のガンズが健全に動いている感じというか、「バンド」としてのたたずまいを感じたりする。
そして、後半戦は、ヒット曲の連発である。DJアシュバとリチャード・フォータスが高々と掲げた2本のギターのフィードバック・ノイズにあのドラムのリズムが入ってきて始まった“You Could Be Mine”、ソロ・タイムを終えて仁王立ちのDJアシュバがあのイントロを弾き始めた“Sweet Child O' Mine”、ピンク・フロイドの“Another Brick in the Wall Part 2”とエルトン・ジョンの“Someone Saved My Life Tonight”をピアノでカヴァーしてから始まった“November Rain”、バンブルフットの弾いたリフの時点で会場からシンガロングが巻き起こった“Don’t Cry”、すっかりアクセルのルックスは変わってしまったが、「あの頃」を思い出さずにはいられない名曲の数々が投下されていく。アクセルのヴォーカルもいい。前回の来日時は、“You Could Be Mine”などはあまり楽しめた記憶がないのだけど、今回は理屈抜きにタイムスリップする説得力を持っている。ザ・フーの“The Seeker”でもすごく声が出ていたし、“Civil War”ではあの当時のガンズが持っていたヤバい匂いが脳裏に甦る。最後は、“Knockin' on Heaven's Door”と“Nightrain”の2連発。ここまでで既に2時間を超えるプレイタイム。尻上がりにガンズとしての意地を見せつけて、本編は終わった。
会場から再びの「ガンズ・アンド・ローゼズ」コールに導かれたアンコール、1曲目はニール・ヤングのカヴァー“Don't Let It Bring You Down”。こういうカヴァーを聴くと、ロック・シーンの中でも畸形と思われているアクセルのヴォーカルが、いかに正統的なものであるかを痛感する。“Madagascar”を挟んで演奏された十八番のカヴァー、AC/DCの“Whole Lotta Rosie”のハマリっぷりは言うまでもない。そして、最後はジャムを挟みつつ“Patience”“Paradise City”という大名曲を連打。いまだに和解することのないかつての内紛劇と、アクセルの長年の沈黙によって、ずっと冷温停止していたガンズ・アンド・ローゼズという夢。『チャイニーズ・デモクラシー』という最新作がありつつも、その夢を忘れることができないからこそ、こうしてガンズのライヴに足を運ぶわけだが、その夢は年月を経るのを拒むように夢としてあり続けている。アクセルはそのことをどう思っているんだろうか。“Paradise City”のオーディエンスのシンガロングを聴きながら、そんなことを考えた。(古川琢也)
Chinese Democracy
Welcome to the Jungle
It's So Easy
Mr. Brownstone
Estranged
Better
Rocket Queen
Richard Fortus Guitar Solo (Blacklight Jesus of Transylvania)
Live and Let Die
This I Love
Used to Love Her
Motivation (Tommy Stinson song)
Dizzy Reed Piano Solo (No Quarter by Led Zeppelin)
Catcher in the Rye
Street of Dreams
You Could Be Mine
DJ Ashba Guitar Solo
Sweet Child O' Mine
Another Brick in the Wall Part 2 (Pink Floyd cover) (with Axl on piano)
Axl Rose Piano Solo (Someone Saved My Life Tonight)
November Rain
Objectify (Bumblefoot song)
Don't Cry
Jam
The Seeker
Civil War
Knockin' on Heaven's Door (Bob Dylan cover)
Jam
Nightrain
(encore)
Don't Let It Bring You Down
Madagascar
Whole Lotta Rosie
Jam
Patience
Jam
Paradise City
ガンズ・アンド・ローゼズ @ Zepp Tokyo
2012.12.18