どこまでも狂気と狂騒感に満ちたヘヴィ&ラウドな轟音空間でありながら、厳粛で、祈りのような毅然とした意志に貫かれた音世界。音楽そのものを乗っ取ったの、か音楽に魂を乗っ取られたのかすら判然としない背徳的な景色の中、ステージの5人が熾烈な暗黒美の風景を描き出していく戦慄のアートフォーム……10月10日:SHIBUYA-AXでのファンクラブ「a knot」会員限定ライブを皮切りに、全11会場17公演(12月の追加公演=新木場STUDIO COAST公演2本を含む)にわたってDIR EN GREYが行ってきた全国ツアー『TOUR2012 IN SITU』のグランド・フィナーレ。この日を待ち詫びたオーディエンス5000人の膨大な期待値と情熱を遥かに凌駕するかのように、5人が鳴らす音は東京国際フォーラム ホールAの広大な空間を震撼させ、およそロックが到達し得る極限の世界を生み出していた。Vo・京の喉の治療のため、今年2月からこのツアーまでの間ライブ活動休止を余儀なくされたDIR EN GREYだったが、そんな「空白」すら一気にリセットしてしまうような壮絶なエネルギーに満ちた、最高のアクトだった。
暗転した舞台に鳴り響く“狂骨の鳴り”のSE。ステージ背後のスクリーンに赤黒い映像が映し出され、割れんばかりの歓声の中、メンバーがオン・ステージ……すると同時に、ステージ中央の京の立ち位置を丸く取り囲むように、頭上から白い幕が降りてくる。ステージへ投射される映像を妖しく映す筒状のスクリーンでもあり、激しく舞い踊り歌い叫び回る京を包む巨大な繭のようでもあるコンセプチュアルなステージ・セットを見た段階で、この日のライブが尋常でない表現欲求に突き動かされたものであることは誰の目にも明らかだった。が、何より素晴らしかったのは、薫/Die/Toshiya/Shinyaが放射するダイナミックの極致のサウンドであり、聴く者の魂へ直接衝撃と感激を叩き込むような京の絶唱だった。
地響きのような重轟音とVo・京の戦慄必至のスクリーム&グロウルが10分近くにわたって渦を巻く“DIABOLOS”で国際フォーラムの空間を一気に支配した幕開けから、さらに“流転の塔”“LOTUS”へ……と、昨年リリースの最新アルバム『DUM SPIRO SPERO』からの楽曲をセットリストの軸に据えたこの日のステージ。ヘヴィ・メタルとハードコアの心臓を食い破ったような“AMON”の超硬質アンサンブルと京のファルセットのあまりにも鮮烈なコントラスト。眩惑の変拍子で5000人を闇の底へと導いていく“滴る朦朧”……1曲また1曲と聴き進むたびに、会場には触ると切れそうなほどの緊迫感と高揚感が充満していく。そのヴォーカリゼーションで完全復活ぶりを存分に示していた京は、本編前半はずっと繭型のスクリーン越しに歌っていたのだが、時折照明に照らし出される姿や、背後からのライトに浮かび上がるシルエットは、頭から爪先まで凄絶なまでのテンションに満ちていて、1音1音すべてが衝撃映像集のようなその音楽世界にさらに濃密なヴァイブを与えているのがわかる。そして、“蜜と唾”での京の歌とリンクして繭型スクリーンに浮かび上がる鋭利な言葉の数々が、その緊迫感をさらに高めていく。
彼らがその言葉や歪んだコード感で指し示すイビツさや醜さは、取りも直さず僕らが生きる人間世界のイビツさと醜さそのものだ。だが、グロテスクな暗黒の在り処を指し示して悦に入る絶望マニアや破滅マニアとは、DIR EN GREYの表現はまるで異なる。自らもその暗黒の一部であることを引き受けた上で、暗黒と向き合い、それでも決然と生きるために必死でもがき続けるための音。だからこそ、彼らの音楽はヘヴィだし、苦しみや痛みに満ちているが、そんな苦行の如き方法でしか描けない生命力のかたちがここには確かにあるし、それをどこまでも壮大なエンタテインメントとして提示するだけの技量と才気があふれている――ということを、この日の5人の歌と音は何より雄弁に物語っていた。そして、今月19日にリリースされたばかりのニュー・シングル曲“輪郭”の凛としたメロディが、彼らの真摯かつ重厚なサウンドスケープの中で恍惚必至の麗しさをもって咲き乱れていく。
“「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨”から“OBSCURE”“獣慾”“DIFFERENT SENSE”へと息つく間もなく流れ込んだスリリングな終盤を締め括った、本編ラスト“冷血なりせば”の爆裂スラッシュ・ビート。熱烈なアンコールの声に応えて披露した“VANITAS”“ain't afraid to die”のメロディの震えるほどの美しさ。アンコールの最後、京はシャツを脱いだ裸の胸にゴンゴンとマイクを持った手を叩きつけ、歓声を上げる客席を「もっと響かせろ!」「俺らとひとつになれるか!」と絶叫しながらさらなるクライマックスへと煽り倒していく。ラスト・ナンバー“激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇”の、今この瞬間を生き急ぐようなハード・エッジで切実でビート感が、この場所への何よりの福音として降り注いで……約2時間のアクトが終了。
「今年、心配かけました。また来年!」という京の言葉を残して、ステージを去った5人。やがて、暗転した舞台背後のスクリーンに浮かび上がる「2013年4月、新たなる片鱗が姿を現す……」の文字。続けて、新作ミニアルバム『THE UNRAVELING』のリリースと春ツアー『TOUR2013 TABULA RASA』開催が発表されると、国際フォーラムの客席から悲鳴にも似た歓声がさらに高く湧き起こっていく。DIR EN GREYのさらなる進化への予感を強く感じさせる、充実のステージだった。そして、今年の大晦日=12月31日・『COUNTDOWN JAPAN 12/13』最終日には「EARTH STAGE」に登場! (高橋智樹)
[SET LIST]
SE 狂骨の鳴り
01 DIABOLOS
02 流転の塔
03 LOTUS
04 Deity
05 AMON
06 滴る朦朧
07 蜜と唾
08 THE BLOSSOMING BEELZEBUB
09 凌辱の雨
10 輪郭
11 「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨
12 OBSCURE
13 獣慾
14 DIFFERENT SENSE
15 冷血なりせば
ENCORE
EN 1 VANITAS
EN 2 ain't afraid to die
EN 3 羅刹国
EN 4 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
DIR EN GREY @ 東京国際フォーラム ホールA
2012.12.25