ブロック・パーティー @ 恵比寿ガーデンホール

ブロック・パーティー @ 恵比寿ガーデンホール - all pics by 小嶋秀雄 (Hideo Kojima)all pics by 小嶋秀雄 (Hideo Kojima)
この日のMCでケリー(Vo)も言っていたけれど、ブロック・パーティーにとって通算10回目となる記念すべき来日、その初日の恵比寿ガーデンホールに行ってきた。10回目の来日を果たした彼らは今年でちょうど結成10周年の節目の年も迎えるが、そのキャリアはけっして平坦なものではなかった。2000年代にデビューしたUKバンドの多くがそうだったようにこの10年の間には迷いや葛藤の時期もあったし、彼らはことさら繊細でクソ真面目なバンドでもあった。そんなブロック・パーティーが幾多の危機を乗り越えて完成させた4年ぶりの最新作『フォー』でロック・バンドのケミストリーを奪還した今、その充実した4人の姿を目撃する機会となったのが今回の来日なのである。

この日のオープニング・アクトを務めたのは日本からサポートにあたるWHITE ASH。筆者は初見となるバンドだったが、2000年代半ば頃の勢いのあったUKギター・ロックのエッジとポップネスを彷彿させるかっこいいロックをやるバンド。ブロック・パーティーの前座としてもばっちりなバンドだよなあと思いつつ観ていたら実際彼らも昔UK物のコピー・バンドをやっていて、ブロック・パーティーの曲も演ったことがあるのだという。そんな彼らの演奏を幕内から見守るケリー達の姿も見えた。

WHITE ASHのステージはほぼ30分で終わり、転換タイムに入った恵比寿ガーデンホールはいよいよぎっしりとオーディエンスで埋め尽くされ熱気を帯びてくる。もちろんこの日のチケットは完売、外国人のお客さんも多かったのが印象的だ。開演の10分以上前からフロアでは「Bloc Paty! Bloc Party!」コールが始まり、つくづくこのバンドのファンの熱さと言うかロイヤリティを見せつけられる。

ブロック・パーティー @ 恵比寿ガーデンホール
ブロック・パーティー @ 恵比寿ガーデンホール
そして19時を少し過ぎたところでついにステージに4人が登場し、『フォー』からのオープニング・ナンバー“So He Begins to Lie”でショウはスタートする。『フォー』で彼らが新たに編み出した緩やかなグルーヴが印象的なナンバーだが、レイドバックしたそのグルーヴがインタールードの転調と共にいきなり激しい弾幕ギターへとギアチェンジされ、場内には雄叫びのような歓声がどっと溢れる。1曲目から上半身裸のマット(Dr、ちなみに下は小学生みたいなショートパンツ姿)が早々に真っ赤に胸元を染め上げながらドカスカとドラムをブチ叩き、ラッセル(G)とゴードン(B)が淡々と、しかし鋭くタイトに左右からステージを絞りまとめ、そしてケリーが真ん中でオーディエンスを掌握するという、懐かしく正しいブロック・パーティーのライヴ・スタイルが早くも現前し、嬉しくなってしまった。

「ハロー・グッド・イヴニング、ウィー・アー・ブロック・パーティー・フロム・ロンドン・イースト」とケリーが挨拶して“Trojan Horse”、そしてケリーの「イチ!ニ!サン!シ!」の掛け声と共に“Hunting for Witches”が始まり、さらに白熱していく。イントロ最初の一音でフロアが弾けた続く“Like Eating Glass”もそうだったけれど、セカンド以前のナンバー、ブロック・パーティーがポスト・パンク由来のアート・ロックを極めていた頃のナンバーの線の細さが払拭され、『フォー』由来のファンクネスで大胆にぶっとく補強されていくのが手に取るようにわかる。

昨年のHostess Club Weekenderで来日した時も同じくガーデンホールで満場のファンに見守られながら感涙のカムバックステージをキメた彼らだけれども、あの時の興奮はブロック・パーティーがとにかく還ってきてくれた、その事実を祝福しつつ4年の空白を癒し埋めていくというどこかウェットなものだった。翻ってこの日の会場の空気はもっとずっと前向きで力強かった。全英初登場3位と結果を出した『フォー』のポジティヴなムードとも相まって、ステージ上の彼らとフロアのオーディエンスが強い確信のようなもので結ばれているのが印象的だった。“Like Eating Glass”終わりでケリーが「ワイルド・トキオ!」と叫び、『フォー』の中でもとりわけヘヴィな“Kettling”へ。そう、この日の前半はパワフル・セクションといった趣で、ブロック・パーティーの現在のコンディションの良さをまざまざと見せつけるものだったと言っていいだろう。

ブロック・パーティー @ 恵比寿ガーデンホール
そして中盤で白眉だったのは“Waiting for the 7:18”。セカンド『ア・ウィークエンド・イン・ザ・シティ』の抒情性を象徴するナンバーだが、ケリーとラッセルのミニマムなギターとゴードンのグロッケンシュピールの絡まりも美しく、加熱したフロアをクールダウンさせるような澄み切った空気が流れ込んでくる。続く“Song for Clay (Disappear Here)”はケリーの哀愁帯びた弾き語りイントロをぶった切るようにラッセルのリフが突進してくる展開がスリリングで、その興奮状態のままシームレスで“Banquet”へ!!! フロア前方はモッシュの渦が瞬間拡大してとんでもない騒ぎになり、ショウはここまでで最大のクライマックスを記録した。

続く“Coliseum”はマットのドラムスが主役と言っても過言ではないナンバーで、疲れてくると冗談みたいに走りまくっていた昔と比べるとこの人のドラムスは本当に巧くなった。マットのドラムが安定したことで『フォー』のグルーヴ、ファンク路線は可能になったし、長らくの思考とスキルの乖離が課題とされてきたブロック・パーティーにとって、『フォー』はロック・バンドの「技術」面での鍛錬の成果作でもあったことに改めて気づかされる。一度はロックを忌諱し、バンドを諦めかけた彼らが再びロック・バンドたろうと決意した時に、まずはその基礎となる肉体から鍛え直したのだろうことが伺える。

ブロック・パーティー @ 恵比寿ガーデンホール
一方で後半のピークタイムを記録した“One More Chance”などはまさに一度はロックを忌諱し、ロックを「疑った」彼らだからこそ鳴らしえるダンス・チューンで、ギターを置いたケリーはまるでMCだかDJだかのようにお客を煽り、コール&レスポンスを仕切り、四つ打ちのリズムに乗ってソウルトレインみたいに踊りまくる。そして本編ラストは『フォー』からの“Octopus”。ここまでで1時間弱とタイトなショウだったが、その1時間弱の中でブロック・パーティーの10年を見事に振り返りつつも、未来志向な彼らの今の充実を示す内容になっていた。

鳴り止まぬ歓声に押されてアンコールは2回。この日最高にフリーキーだった“Ares”から「ぼくらの昔からのファンに捧げます」と言って始まった“This Modern Love”への流れはオールド・ファン感涙の演出だったし、ケリーのゴスペルみたいな歌唱で幕閉じた“Flux”は圧巻、そして最後の最後は文句無しの最強アンセム“Helicopter”!! 満を持してクラウド・サーフィンも続出し、フロアから白い湯気がもうもうと立ち上るのが見えた。ブロック・パーティーの帰還の物語はこうして大団円を迎えた。これからは彼らの再進撃の物語が始まる、そう確信できた一夜だった。(粉川しの)

セットリスト 
So He Begins to Lie
Trojan Horse
Hunting for Witches
Like Eating Glass
Kettling
Real Talk
Waiting for the 7:18
Song for Clay
Banquet
Coliseum
Day 4
One More Chance
Octopus
(encore1)
Signs
Ares
This Modern Love
Flux
(encore2)
Ratchet
Sunday
Helicopter
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