山崎まさよし @ 渋谷公会堂

山崎まさよし @ 渋谷公会堂
『YAMAZAKI MASAYOSHI TOUR 2012-2013 “SEED FOLKS”』

昨年12月20日に立川市市民会館(東京)でスタートし、4月27日の新潟県民会館まで、目下のところ全38公演のスケジュールが進行中の山崎まさよし最新ツアー。今回レポートするのは、その13本目と14本目にあたる東京・渋谷公会堂2デイズの初日である。2012年には『太陽の約束』、『アフロディーテ』、『星空ギター』と3作のシングルをリリースし、ツアー開始直後に41歳の誕生日を迎えた山崎まさよし。そのキャリアと迸るヴァイタリティ、そして噛み締めるほどに味わい深いコンセプトが織り成すライヴとなっていた。ツアーは本人曰く「3分の1ぐらいまで来た」というところなので、演奏曲の詳細な表記については控えるけれども、今後の日程を楽しみにされている方は以下、レポートの閲覧にご注意を。

まるでヨーロッパ系の移民農夫のような、異様にラフで、しかしどこかオシャレにも目に映る出で立ちで姿を見せた山崎まさよしが、アコースティック・ギターによる雄弁なイントロを爪弾きながら、弾き語りのオープニング・ナンバーを繰り出す。ステージ本編は2部構成となっていて、途中10分あまりの休憩を挟む形になっていたが、この日は代表曲“One more time, One more chance”を含め、キャリアを広く見渡す全24曲を披露。序盤は楽曲ごとに、中村キタロー(Ba./Key.)や江川ゲンタ(Dr./Perc.)ら、山崎まさよしの楽曲プロデュースも手掛けてきた盟友たちが入れ替わるようにしながら演奏をサポートし、第1部と第2部それぞれのクライマックスにかけては鉄壁の3ピース・サウンドで圧倒的な高揚感を描き出していった。中村と江川も、同様に農夫のようなステージ衣装を身に纏い、パフォーマンスのコンセプトに手を差し伸べている。

「どうもこんばんはー、“SEED FOLKS”へようこそ! 今日は、種をまく人、ということでね。こんな格好してますけれども。汚れてもいい格好で。今夜は雪になるかも知れないらしいですよ。帰り道、気をつけてください」と軽くオーディエンスを気遣い、「しぶこー(渋公)♪」と3人のユーモラスなハーモニーで遊び心を交えながらステージを進めてゆく。目下の最新シングル“星空ギター”は、大らかなグルーヴにギター・サウンドと歌心が煌めくナンバーだ。ステージの背景は大きな窓のデザインになっていて、楽曲ごとに夜明け前のような青白い光が差し込んだり、夕焼けを描き出したり、星々の瞬く夜空になったりする。光量は控えめながら秀逸な演出効果をもたらしていた。そして何より、男の最もグズグズでダメな部分をリアルな生活感に滲ませ、或いはエロティックなダブル・ミーニングを忍ばせ、そのすべてを魅力に変換してしまう山崎まさよしの名曲の数々と、鍛え上げられた演奏技術が素晴らしい。

第1部を、江川(さすが国内随一のサルサ・バンド=オルケスタ・デ・ラ・ルスのティンバレス奏者)が強烈なラテン・ビートを打ち鳴らす情熱的なナンバーで締め括ると、休憩後の第2部はユルいトークから始まる。「渋公、改装したんだよね。東京オリンピックのときに出来たんだよ。ウェイト・リフティングの会場だったの。ここでやってたんだよ」と、バーベルを担ぎ上げるポーズを見せて笑いを誘う。「あの人たち、ジャンプ力、すごいらしいよ。重力に逆らってるわけだから。垂直跳びとか、1メートルぐらいポーンと跳んじゃうらしい」。そんなトリビアから、かつて江川と共にバンド「BINGO BONGO」のメンバーであり、渋公のステージ上で共演したユースケ・サンタマリアについてまで話題が及ぶ。ずるずるとトークが長くなってしまうのだが、いざ演奏再開となったときに楽曲に向かう切々とした集中力は凄まじいものだった。第1部でもそういう瞬間が何度かあったのだが、時間・空間をぐにゃりとねじ曲げてしまうような、そんな表現の説得力を楽々と発揮してしまうのである。

ツアー・タイトルとなっている「“SEED FOLKS”=種をまく人」については、今回のステージ上では詳しい説明が行われなかった。例によって山崎まさよし一流のセクシャルな含みがある気はするが、ポップ・ミュージックの本当の凄さは、言葉や立場や信条や価値観においてすれ違うはずだった「それぞれの人」たちが、関わりを持ち始めるきっかけがもたらされてしまうことだ。老若男女が入り乱れてステージに喝采を送るこの日の渋谷公会堂の客席を見渡してそう感じたし、山崎まさよしはこの光景のために種をまき続けてきたと言える。これからもそれは続くのだろう。ファンキーな早口言葉のコール&レスポンス(その延々と続くヴァリエーションの豊富さは有名だが、今回は「きゃりーぱみゅぱみゅみぱみゅまみゅ、あわせてぱみゅぱみゅむぴゃむぴゃみゅ」で締め括られた)に沸き、アンコールでは渋谷界隈で行ってきたライヴ会場が次第にスケール・アップする経験を振り返りながら、15年前に発足したファンクラブのメンバーズ・カード(15年だと色はゴールド、10年だとシルバー)を取り出して「持ってる人! おおーっ、長いなあ!」と笑う。キャリアの中で撒き続けてきたひとつひとつの種が新たな花を咲かせるパフォーマンスの最後には、今にも雪が降り出しそうな夜にぴったりの、身も心も温まる一曲を届けてくれたのだった。(小池宏和)
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